2014年7月号 [Vol.25 No.4] 通巻第284号 201407_284008

【最近の研究成果】 気候変化と河川流量の季節偏在性

  • 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室 特別研究員 眞崎良光

河川水は、人類が利用できる代表的な水資源の一つであり、その流量は、上流域の気象条件(降水量や気温など)に支配される。もし、気候変動によって将来の降水量が変われば、それに応じて河川流量も変わる。流量に大きな季節偏在性がある場合、水資源を有効利用できなかったり、洪水・干ばつのリスクを高める可能性がある。本研究では、現在および将来気候下における全球の主要河川の流量の季節偏在性を評価した。季節偏在性を「季節間での水資源の分配の不平等」として捉えることにより、経済的不平等の指標として使われているジニ係数やローレンツ非対称係数を、新たに河川流量の解析に適用した。

解析の結果、北半球高緯度では、将来の流量の季節変動が小さくなり、それ以外の緯度帯では大きくなる傾向が見られた。積雪地域の河川で見られる温暖化の影響は、(1) 流域に積もった雪が春先の一時期に集中して融け、河川流量が短期間で急増する変化と、(2) 冬季にも徐々に雪が融けることで、春先の雪融け出水が緩和される変化の二つがあり、地域や温暖化の進行レベルによって、どちらの効果が支配的になるかが異なる。雪融け出水に典型的な河川流況を端的に表すことができる指標がこれまでなかったため、このような流況を示す地域の地理的分布を表すことが難しかった。しかし、この二つの係数を用いることで、気候変動による河川流況の変化を地図上で表現できるため、地域による河川流量の季節偏在性の違いを検出できるようになった。

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図1北アメリカ・セントローレンス川における、現在(黒線)と今世紀末の河川流況の変化予測。将来気候は、温暖化の進行が比較的軽微な「低位安定化シナリオ(RCP2.6)」(青線)と、温暖化が最も進行する「高位参照シナリオ(RCP8.5)」(赤線)の結果を示す。各曲線は、1年間の河川流量を多い方から順に並べ替えたものであり、同一河川であっても、上流と下流では流況の将来変化パターンが異なる

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図2ジニ係数(上)とローレンツ非対称係数(下)の将来変化予測。温暖化が最も進行する「高位参照シナリオ(RCP8.5)」の結果を示す。いずれの係数も河川流量の季節偏在性を表すが、ジニ係数は、主に季節変動性の大きさを表し、赤(青)系色の地域では、将来、季節変動が増加(減少)する。一方、ローレンツ非対称係数は、積雪地方で春先に見られる雪融け出水に典型的な「短期間大流量型」の季節偏在性の大きさを表す。地図上で赤(青)系色の地域では、将来、短期間大流量型の季節偏在性が強まる(弱まる)

本研究の論文情報

Global-scale analysis on future changes in flow regimes using Gini and Lorenz asymmetry coefficients
著者: Masaki Y., Hanasaki N., Takahashi K., Hijioka Y.
掲載誌: Water Resources Research, 50(5), 4054-4078, DOI: 10.1002/2013WR014266, 2014.

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