2014年7月号 [Vol.25 No.4] 通巻第284号 201407_284005
持続可能な開発目標のためにますます高まる地球観測の意義 —第7回GEOSSアジア太平洋シンポジウム参加報告—
1. はじめに
第7回GEOSSアジア太平洋シンポジウムが、「持続可能な開発目標への取り組みに向けてGEOSSの発展が社会に与える恩恵」をテーマに、2014年5月26日〜28日の3日間、GEO日本事務局とGEO事務局の共催で、東京で開催された。
2005年2月の第3回地球観測サミットにおいてGEOSS10年実施計画が採択され、GEOSS構築のための各国政府および国際機関の任意の協力組織として、地球観測に関する政府間会合(GEO)が設立された。GEOSSは全球的な地球観測の取り組みで、衛星、航空機、地上、海上観測などにより地球環境の変化を包括的に把握し、そのデータを統合した科学的情報を政策決定者に提供して、災害、健康、エネルギー、気候、水、気象、生態系、農業、生物多様性という9つの社会利益分野(SBAs)に貢献することを目指している。2014年1月現在、89か国と欧州委員会および77の国際機関・関連組織がGEOに参加している。
GEOSSアジア太平洋シンポジウムはアジア太平洋地域でのGEOSS推進に向けた意見交換のために、2007年から過去6回、開催されている。これまで地球温暖化観測推進事務局/環境省・気象庁(OCCCO)は本シンポジウムに参画して分科会の支援などを行ってきた。また、地球環境研究センターの関係者の多くが、本シンポジウムの分科会等に参画している。
2. シンポジウムの概要
第7回シンポジウムは、東京の国際ファッションセンターにおいて開催され、20の国と地域と10国際機関から238名の参加のもと、全体会合、分科会、パネルディスカッションが行われた。
1日目の全体会合では、国際協力機構(JICA)の田中明彦理事長の基調講演「持続的開発とGEOSSの貢献」に引き続き、GEO事務局の落合治氏によるGEOSSの活動報告、さらに前回シンポジウム(インド開催)以降のアジアの国や地域のGEOSS関連活動が、日本、オーストラリア、中国、インドネシア、イラン、パキスタン、フィリピン、タイの各国と、アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)、国際総合山岳開発センター(ICIMOD)、アジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)から報告された。続いて行われたパネルディスカッションではカンボジアとその周辺海域で行われた水循環・水資源、気象、農業、森林減少・森林炭素管理、海洋などの分野の異なる国際事業・研究の事例がパネリストから紹介され、環境問題の解決に向けた分野横断的なアプローチについてカンボジア代表のパネリストを交えて活発な討議が行われた。
2日目は、5つの分科会「アジア水循環イニシアチブ(AWCI)」、「アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(AP-BON)」、「長期の炭素管理へ向けた全球森林観測イニシアチブ(GFOI)」、「海洋観測と社会(アジア太平洋地域でのBlue Planetに向けて)」、「農業と食料安全保障(世界農業地理モニタリングイニシアティブ(GLAM))」での議論となった。本報告では主に、地球環境研究センターの三枝と山形が共同議長を務めたGFOI分科会の内容を紹介する。
3日目は、各分科会での議論の結果報告の後、分科会代表のパネリストによりGEOSSは政策決定に有用な情報をどのように国際社会に明示していくべきかについてパネルディスカッションが行われた。現在、2015年以降の持続可能な開発に関する目標を設定するために、気候変化、水循環、生物多様性、食料、健康、経済などのさまざまな分野で国連主導の取り組みが進められている。アジア太平洋地域では、さらに地震・津波・水害・干ばつを含む災害リスク管理が重要である点も強調され、これまで以上に、GEOSSの活動が各分野において必要不可欠な基盤であることが確認された。これらの内容が最終日に東京宣言(Tokyo Statement)として明文化され採択された(全文はhttps://www.restec.or.jp/geoss_ap7/public/TokyoStatement.pdfにて公開)。
3. 全球森林観測イニシアチブ(GFOI)分科会
全球森林観測イニシアチブ(GFOI)は、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)のREDD+(発展途上国における森林減少・森林劣化からの温室効果ガスの排出削減、および森林保全、持続可能な森林経営、森林炭素蓄積の強化の役割)を推進するとともに、各国における森林監視をサポートすることを目的とし、オーストラリア、ノルウェイ、アメリカ合衆国、地球観測衛星委員会(CEOS)、国際連合食糧農業機関(FAO)がリードするプロジェクトである。GFOIは持続的な衛星データの提供と利用を推進し、衛星データの入手と供給の調整、手法とガイダンスの作成、研究開発およびキャパシティー・ビルディングを行っている。分科会でGEO事務局の落合氏は、GFOIの推進するREDD+のプロセスの概要と現状を説明した。続いて、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)のAlex Held氏がGFOIのキャパシティー・ビルディングの取り組みと、2014年1月に発行された森林の温室効果ガス収支評価のためのリモート・センシングと地上観測の統合についての手法とガイダンスの文書を紹介した。さらに、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のAke Rosenqvist氏がGFOIの活動として各国のニーズに合わせた衛星データの無償提供を進めていること、優先度の高い研究開発としてリアルタイムに近い森林の変動指標を開発していることなどを述べた。
次いで、アジア太平洋地域での国際協力活動が紹介された。JAXAの島田政信氏は陸域観測技術衛星「だいち(ALOS)」および5月23日に打ち上げが成功した「だいち2号(ALOS-2)」の観測データから森林・非森林データセットの提供などについて述べ、参加者からは時間分解能、空間分解能がともに向上したALOS-2搭載のLバンド地表可視化レーダ(PALSAR-2)による観測データ(11月末から公開予定)を使った森林監視への期待が寄せられた。JICAの宮園浩樹氏はREDD+に関連して森林ベースマップの作成や定期的な森林監視システムの開発といった国際協力活動が東南アジアや南アフリカ諸国において実施されていることを紹介し、国際協力機関であるJICAの活動は施策・組織の開発、研究開発や普及活動、森林観測システムの開発、人材育成などGFOIと共通する内容が多いことが認識された。オーストラリア環境省のNikki Fitzgerald氏(代読Held氏)は、オーストラリアが全国カーボン会計システム(NCAS)を用いてインドネシアなどの炭素収支の評価と予測に協力していることを紹介した。森林総合研究所REDD研究開発センターの松本光朗氏は、カンボジア、マレーシア、パラグァイにおける衛星データと地上調査に基づく森林炭素量推定の事例を紹介し、また、REDD+に必要な知識や技術の要点を入門者用にまとめた解説書「REDDプラス COOKBOOK(日本語/英語/スペイン語版)」の出版などの活動を紹介した。国立環境研究所の三枝からは、長期地上観測ネットワークの観測データと衛星データやモデルを統合した、広域炭素収支評価手法の研究と分野間連携の活動が報告され、なかでも国立環境研究所の協力のもと運営されているJaLTERのデータベースによるデータ公開の取り組みや、日本生態学会の英文誌エコロジカル・リサーチに新しく設けられたデータペーパーの導入がデータ共有を促進するとともに、論文の引用数の増加により提供者にも有利に働いているとの報告は参加者の関心を集めた。
各国のREDD+への取り組みとして、インドネシア航空宇宙研究所(LAPAN)のOrbita Roswintiarti氏は、炭素評価のための衛星データを利用した土地被覆変化のモニタリングの進捗状況を報告し、カンボジア農林水産省のSar Sophyra氏からはカンボジア政府の取り組みについて包括的な報告が行われた。また、パプアニューギニア森林局のElizabeth Kaidong氏からはJICAの協力の下にパプアニューギニア全土の森林ベースマップが作成され、炭素収支評価のためのフィールド調査が初めて実施されたことが報告された。
最後に長期の炭素管理に向けたGFOIの課題が話し合われ、GFOIは炭素収支評価にとどまらず、共通する観測情報や施策を通して国際支援活動と協力したり、生物多様性などの他の分野にも貢献できることが合意された。技術的には、準リアルタイムの森林観測による森林伐採の監視および早期警告システム、異なる衛星やセンサーによる観測データの統合利用、東南アジアに多い泥炭地、マングローブ林などの土地被覆マッピングの標準化などについて開発の期待が表明された。また、国際協力・研究プロジェクト終了後の成果の持続が難しいという報告を受け、現地の指導者の育成、若年層のプロジェクトへの参加促進、オープンな無償データ・ツールを利用することの重要性などが提案されるなど、建設的な意見が交換された。
4. おわりに
カンボジアでの国際事業・研究の事例を題材に分野横断的なアプローチについて討議されたディスカッションでは、カンボジア代表のパネリストが、関係する省庁が別々に動き、連携が難しいと訴えていた。日本では2006年に「地球観測連携拠点(温暖化分野)」(JACCO)が設立され、各種の連携施策が検討、実施されているが、関係省庁・機関が連携して統合された地球温暖化観測を行う重要性を改めて認識した。
略語一覧
- GEOSS(全球地球観測システム Global Earth Observation System of Systems)
- 地球観測に関する政府間会合(Group on Earth Observations: GEO)
- 社会利益分野(Societal Benefit Areas: SBAs)
- 地球温暖化観測推進事務局(Office for Coordination of Climate Change Observation: OCCCO)
- 国際協力機構(Japan International Cooperation Agency: JICA)
- アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(Asia-Pacific Network for Global Change Research: APN)
- 国連アジア太平洋経済社会委員会(Economic and Social Commission for Asia and the Pacific: ESCAP)
- 国際総合山岳開発センター(International Center for Integrated Mountain Development: ICIMOD)
- アジア・太平洋地域宇宙機関会議(Asia-Pacific Regional Space Agency Forum: APRSAF)
- アジア水循環イニシアチブ(Asian Water Cycle Initiative: AWCI)
- アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(Asia Pacific Biodiversity Observation Network: AP-BON)
- 全球森林観測イニシアチブ(Global Forest Observation Initiative: GFOI)
- 世界農業地理モニタリングイニシアティブ(GEO Global Agricultural Monitoring: GEO GLAM)
- 国際連合枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)
- REDD+(発展途上国における森林減少・森林劣化に由来する温室効果ガスの排出削減、および森林保全、持続可能な森林経営、森林炭素蓄積の強化の役割 Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation and the role of conservation, sustainable management of forests and enhancement of forest carbon stocks in developing countries)
- 地球観測衛星委員会(Committee of Earth Observation Satellites: CEOS)
- 国際連合食糧農業機関(Food and Agriculture Organization: FAO)
- オーストラリア連邦科学産業研究機構(Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation: CSIRO)
- 宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency: JAXA)
- だいち(Advanced Land Observing Satellite: ALOS)
- Lバンド地表可視化レーダ(Phased Array type L-band Synthetic Aperture Radar: PALSAR)
- 全国カーボン会計システム(National Carbon Accounting System: NCAS)
- REDD(発展途上国における森林減少・森林劣化に由来する温室効果ガスの排出削減 Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation in developing countries)
- JaLTER(Japan Long-Term Ecological Research Network)
- インドネシア航空宇宙研究所(Lembaga Penerbangan dan Antariksa Nasional: LAPAN)
- カンボジア農林水産省(Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries)
- パプアニューギニア森林局(Papua New Guinea Forest Authority)
- 地球観測連携拠点(温暖化分野、Japanese Alliance for Climate Change Observation: JACCO)
GEOSSアジア太平洋シンポジウム第1回〜第6回の報告は以下からご覧いただけます。
- 梁乃申, 宮崎真「GEOSS APシンポジウム報告」2007年4月号
- 宮崎真, 藤田直子, 新明雄, レオン愛「『第2回GEOSSアジア太平洋シンポジウム—気候変動への取組における地球観測の役割—(“The Second GEOSS Asia-Pacific Symposium—The role of Earth observations in tackling climate change—”)』報告」2008年7月号
- 宮崎真, 新明雄, 内田エミ「『第3回GEOSSアジア太平洋シンポジウム—分野横断のためのデータ共有—』報告」2009年4月号
- 伊藤玲子, 山形与志樹, 三枝信子「複数システムからなる地球観測システムの構築に向けて:第4回GEOSSアジア太平洋シンポジウム参加報告」2010年6月号
- 林真智, 三枝信子, 山形与志樹「第5回GEOSSアジア太平洋シンポジウム参加報告」2012年5月号
- 田中佐和子, 三枝信子「第6回GEOSSアジア太平洋シンポジウム参加報告 —アジア太平洋地域における地球観測、さらなる連携を目指して—」2013年5月号