2012年10月号 [Vol.23 No.7] 通巻第263号 201210_263008

平成24年度国立環境研究所夏の大公開「ココが知りたい地球温暖化」講演会概要 3 私たちの未来とエネルギー—選ぶのは私たち—

藤野純一 (社会環境システム研究センター 持続可能社会システム研究室 主任研究員)

7月21日(土)に行われた国立環境研究所夏の大公開において、地球環境研究センターは、講演会「ココが知りたい地球温暖化」を開催しました。講演内容(概要)をご紹介します。なお、江守正多さんの講演内容(概要)は地球環境研究センターニュース9月号に掲載しています。

photo. 藤野純一主任研究員

エネルギーの選択肢について議論されていることは新聞等でご存知のことと思います。2011年3月11日の東日本大震災以降、原子力発電が一時期すべて止まりました。2011年夏には、電力不足対策として、15%節電目標が掲げられました。エネルギーは私たちの問題になってきています。

私たちの未来とエネルギーを考えるとき、経験と現実を共有する必要があると思います。そしてエネルギーの選択には、事実を認識しながら未来の可能性を想像するというプロセスが必要だと思います。

1. エネルギー全体で石油、石炭、天然ガスの占める割合は80%以上

現在、原子力と電気ばかりが話題になっていることが私には少々不満です。2009年の日本のエネルギー構成をみると、発電量のなかで原子力が占める割合は30%くらいです。確かに大きいのですが、一次エネルギー[注]消費量でみると原子力は10%程度です。しかし、もっと問題なのは、石油、石炭、天然ガスという化石燃料が一次エネルギー消費量に占める割合が80%以上だということです。私たちはまだ大部分のエネルギーを化石燃料に頼っているのです。この事実を軽視して、原子力と電気の話に終始するのはよくないのではないかと、個人的に思っています。

2. 物質的に豊かな生活を支えたエネルギーの光と影

私たちはなぜ大量のエネルギーを使うようになってきたのでしょうか。経済成長とエネルギー消費量について考えてみましょう。戦後から1973年の第一次オイルショックまでは、国民総生産と一次エネルギー供給の増加はぴったり合っています。オイルショックがあり省エネ活動が起こりましたが、基本的にはゆるやかな右肩上がりで推移してきました。エネルギー消費量はかなり経済と連動していました。つまり、衣食住 + エネルギーが足りて豊かな生活が成り立っていたのではないでしょうか。

エネルギー供給の推移を見ると、1940年代は石炭と水力がかなりの割合を占めていました。その後2010年までに、石炭、天然ガス、原子力、特に石油の割合が増えました。エネルギー総供給は、その間10倍になりました。なぜこんなにエネルギーを使うようになったのでしょうか。家庭で使われているエネルギー機器を昔と比べてみると、エアコンやテレビを一家で数台もつようになり、豊かな生活を得るためにエネルギー機器で家事労働を代替しているからではないでしょうか。

物質的に豊かな生活を支えたエネルギーですが、一方で人類はさまざまな問題を経験しました。エネルギーを使って経済成長していた頃には、同時に大気汚染・水質汚染による健康被害、公害問題が起きました。資源採掘に伴う地域環境の破壊や劣悪な労働環境といった問題もあります。2010年にチリの鉱山で落盤事故がありました。地下700mの避難所に閉じ込められた作業員は全員救助されたからよかったのですが、ああいう現場でまだ石炭を掘っている人がいるのです。私たちは便利な生活が過酷な労働現場に基づいて成り立っていることをつい忘れてしまいがちです。原子力利用に伴う劣化ウランを用いた兵器の開発、湾岸戦争やイラク戦争などの地域汚染もまだ起こっています。さらに広い範囲では、酸性雨、砂漠化、オゾン層の破壊、地球温暖化問題、エネルギー争奪に伴う内紛・戦争もあります。

一次エネルギーのうち、日本国内で作られているのは主に水力、地熱、新エネルギーです。日本のエネルギーの自給率は4%くらいで、残りの96%は輸入です。輸入したエネルギーはいろいろに転換され、民生(家庭やオフィス)、運輸や産業に使用します。

3. 四つの対策の組み合わせ + 満足度の見直しで解決策を目指す

2050年の温室効果ガスの排出を1990年比で80%削減するような低炭素社会を目指すことと、エネルギー問題の解決は表裏一体の関係にあります。私たちが中央環境審議会地球環境部会に提出したエネルギー需給量の実績(2010年)と2050年シナリオの一つをご紹介します。

まず、省エネを相当がんばらないといけません。LEDなど高効率な電気機器を普及、開発していくことが大事です。人が移動しやすい街を造って、交通量を減らすなどいろいろ工夫する必要があります。次に問題になるのは、必要な分のエネルギーを何から供給するかです。

私たちのシナリオでは、(1) 省エネを進める、(2) 再生可能エネルギーをできるだけ増やす、(3) 化石燃料をできるだけ高効率で使う、(4) 安全を十分に確保した原子力を使う、の四つの組み合わせで、低炭素社会を目指していました。

私は、これに加えて、エネルギーから得られる満足度を見直すことが必要だと思います。東日本大震災後、駅やお店の照明が暗くなりました。今まで明るすぎたところもあるのではないか、他にも使い過ぎていたのではないか、そういう見直しが必要ではないでしょうか。それには、できるだけ日が出ているときに行動することや、自然な光を取り込みやすい構造の家にすることなど、より自然に寄り添った生活スタイルを検討することも必要でしょう。電気による照明が必要なところはLEDにすれば白熱灯の約10分の1のエネルギーで同じ明るさを得られます。蛍光灯でも2分の1のエネルギーですみます。

fig. エネルギーから得られる満足度を見直す

4. アジア、世界が見ている

アジアでも持続可能な低炭素社会が実現できないかと思い、私はアジアの多くの国に出張しています。飛行機を利用して行くこと自体が二酸化炭素(CO2)をたくさん出すことにつながるので高炭素生活だとお叱りを受けそうですか、アジアの多くの国々の持続可能な発展につながる基盤づくりのお手伝いをするということでご勘弁していただけましたら幸いです。

2009年の世界主要10カ国の一次エネルギー消費量をみると、中国が最も多く22.6%、次いでアメリカが21.6%です。3位がインドで4位がロシアです。日本は第5位で、世界のエネルギーの4.7%を使っています。エネルギー起源のCO2排出量も同様の傾向が見られます。アジアの国々は、欧米スタイルの発展を目指しているかもしれませんが、文化・風土的に近い日本や韓国の背中を見ている印象を受けます。日本がどんなエネルギーの選択をするのか、アジアや世界の人たちが注目し、今後の日本の姿勢をうかがっています。

5. 地域の風土や文化に根差した社会づくりにつながる取り組みを

最後に、東日本大震災の後、小・中学生向けに書いた「みんなの未来とエネルギー」という本の内容の一部を簡単にご紹介します。例えば、風力発電所を建設するのにどういうプロセスが必要なのかを考えます。そのためには、いろいろな人の話し合いが必要です。風況の調査、できたら地元の人がお金を出し合って建てられる方法はないか、風車が地域のビジネスになっていくような広がりがないか検討する必要があります。

実は、2011年7月に会津のとあるシンポジウムでお話をさせていただく機会があり、そこで出た質問が「大型の風車を新たに建てるのは新しい原子力発電所を建てるのと同じことではないのか」というものでした。中央の資本が風況のいいところにお金を出して風車を建てて、発電量で得られた利益をまた中央に戻すケースが現状では多く見受けられるからです。地域に残るのは風車で死んだ鳥の死骸や低周波の騒音など、環境被害だけということになってしまいます。

この状況を「風を盗む」という表現している人もいます。地域固有の自然資源は誰のものなのか、という問いだったんだと思います。こういうことをきちんと進めようとするなら理科系の知識だけではとても足りなくて、社会科学、政治や経済の知識も必要です。総合的な知恵が必要だと思います。

エネルギーを自分たちの問題として考えない限り、原子力の善し悪しなどについても議論できないのではないかと思います。未来の可能性を広げられるのも狭めるのも私たちです。

参考資料

脚注

  • 石油・石炭・天然ガス等の化石燃料や水力・太陽・地熱等の自然エネルギー等、自然界に存在するままの形状で得られるエネルギー。

(編集局がまとめた文章を筆者が加筆・修正しました)

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