2012年9月号 [Vol.23 No.6] 通巻第262号 201209_262005

平成24年度国立環境研究所夏の大公開「ココが知りたい地球温暖化」講演会概要 1 地球温暖化はどれくらい「怖い」か?

江守正多 (地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室長)

7月21日(土)に行われた国立環境研究所夏の大公開において、地球環境研究センターは、講演会「ココが知りたい地球温暖化」を開催しました。講演内容(概要)をご紹介します。

地球温暖化問題は2007年から2009年頃には大変注目されましたが、日本では、2011年3月11日の東日本大震災以降、原発、放射能という問題が出てきて、あまり議論されなくなった感じがします。しかし地球温暖化問題は決して解決したわけではなく、引き続き重要な課題です。

1. 地球が温暖化すると何が起こるかの正しい判断を

photo. 江守正多室長

私はこれまでコンピュータを使い、地球の温度、風、雨などを計算し、二酸化炭素が増えるという条件を入れると地球の将来がどうなるかをシミュレーションする研究をしてきました。気温のシミュレーションでは、暑い夏があったり涼しい夏があったりと、年によって違いはありますが、自然に変動しながら全体として温度が上がり、地球が温暖化します。

では地球が温暖化すると何が起こるのでしょう。こういう話題で専門家や解説者が一般の人に話をする場合、「例えば△△が起こって大変です」と言うことが多いかと思います。温暖化するといろいろなことが起こるのに、「例えば」という一つのことにイメージが引きずられてしまい、正しい判断ができなくなる恐れがあることが心配です。私は多くの専門家と一緒に、地球温暖化でどんなことが起こると科学的に考えられているのかを「地球温暖化はどれくらい『怖い』か? 温暖化リスクの全体像を探る」というタイトルで本を書き、4月に発行しました。

2. 本当に地球は温暖化するの?

地球温暖化について懐疑的・否定的な見解の人がいます。太陽活動が低下しているので、300年程前に太陽活動が停滞したときと同じように寒冷化が起こるという情報が数カ月前にテレビなどで報道されました。これにつきましては、結論から申し上げますと、近年の太陽活動の停滞で大きな寒冷化が生じることは考えにくいです。いくつかの根拠があるのですが、一つ大切なことは、300年前の気温の低下は、地球の北半球という大きなスケールで見て、1℃未満と推定されていることです。一方地球温暖化が進むと、これから2℃も3℃も気温が上昇すると言われていますから、一部が相殺されたとしても正味で温暖化するだろうということです。

3. 地球温暖化が進むと何が起こるの?

地球温暖化が進むといろいろなことが起こると言われていますが、それはどれくらい自分または人類にとって心配な問題なのでしょうか。

2007年に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書では、世界の平均気温が何度上がったらいろいろな分野で何が起こるかを表しています。

水については、水不足人口は平均気温が上がるほど増えます。生態系では、種の絶滅のリスク、サンゴの白化や死滅、森林火災リスクが増えます。食糧は少し複雑です。低緯度地域では地球温暖化が進むと悪影響があり、生産性は低下します。中高緯度地域では、温暖化するといくつかの穀物については生産性が向上するのではないかと言われています。しかし温暖化がさらに進むと悪影響があり、生産性が低下します。温暖化により、沿岸域を中心として洪水による損害が増加します。健康については、食糧問題とも関連しますが栄養失調が増え、下痢、呼吸器疾患、感染症などは平均気温が上昇することによって、かかりやすくなります。異常気象による健康の被害なども増加します。

fig. 世界の平均気温が何度上がったらいろいろな分野で何が起こるか

出典:IPCC第4次評価報告書第2作業部会政策決定者向け要約

4. 地球温暖化はどれくらい「怖い」の?

地球温暖化の影響についてはいろいろな見方ができます。良い影響もあります。農業については、寒い地域で生産性が向上する場合があります。健康に関しても暖かくなった方が良い場合もあります。適応すればいいということもあります。つまり、気候が変わったら、住み方を工夫するなどして新しい気候に人間が慣れるようになることです。農業の場合は、変わった気候に応じて栽培品目を変えたり、品種改良したりしたら、むしろ生産性が上がるかもしれません。こういう側面を強調すれば、地球温暖化はあまり怖くないように見えます。

一方、とても心配だと思わせるような側面もあります。国際社会秩序が不安定になります。環境難民という言葉があります。干ばつや海面上昇で人の住めなくなってしまう国がこれから出てくるのではないでしょうか。そういう所に住んでいる人は他の国に移動して生活しなければなりません。そうするといろいろな紛争が増えるかもしれません。環境問題は単に自然の問題ではなく、それによって影響を受けた社会も混乱するということです。もう一つは、気温上昇があるところを超えたら、地球規模の大異変が起こるかもしれないということです。海の循環の様子がガラッと変わったり、グリーンランドの氷は現在でも融けていますが、融解が止まらない状態になったりするのではないかと言われています。そういうスイッチが入ってしまうことを心配すると、やはり温暖化は大変なのではないかということです。

地球温暖化の影響はいろいろあるので、良い影響と悪い影響の両方を含めて私たちは考えなければいけません。その際大事なのは一人ひとりの価値判断です。個人の感じ方、考え方によってどれくらい心配なのかということは変わってくるでしょう。例えば、自然生態系への影響として、温暖化すると北極の氷が減ってシロクマが棲みにくくなる、絶滅するかもしれないのでかわいそうだから温暖化を止めなければならないと思うか、シロクマがいなくなっても構わないと思うかは人によって違います。もう一つ非常に大切なのは、将来世代への影響です。つまり、自分が生きている間はそんなに大変なことは起きないからいいのか、子どもの世代やもっとずっと先の将来の人類のことが心配なのかというのも人によって考え方が違います。考え方、感じ方が違うということを前提に温暖化対策を考えていかなければならないと思っています。

5. 地球温暖化を止めるための世界の目標は?

地球温暖化をどの程度で止めるべきかという問題は、世界全体で目標を決めて対策をとっていかなければなりません。2009年ラクイラ(イタリア)のG8サミットでは、世界全体の平均気温が産業革命前の水準から2℃を超えないように温暖化の対策をとっていくことが提案されました。2009年末に行われた気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)のコペンハーゲン合意にも同じような記述がありますし、2010年カンクン(メキシコ)のCOP16で国連の合意として採択されました。

「2℃を超えないように」の目安として、2050年までに世界全体の温室効果ガスの排出量を半減する必要があると言われています。これは相当大変な対策が必要ですが、それで温暖化が完全に止まるというわけでもありません。温暖化の影響で海面が上昇すると沈んでしまうかもしれない南太平洋の小島嶼国などは、2℃よりもっと厳しい目標にしなければいけないと主張しています。これはまだ世界的に議論していく必要がある問題です。

6. 地球温暖化対策は科学だけでは決まらない

温暖化対策をどれくらい真剣に行うか、地球温暖化を何℃で止めるべきか、ということは、科学だけでは決まらない問題です。科学でわかることは、「○年ごろに、△℃を超えると、××の現象が□%の確率で生じると考えられる」ということです。しかし、○年ごろの将来のことをどれくらい心配するべきかという価値判断や、××の現象はどうしても避けるべきか、それは誰にとって避けるべきか、それが避けるべき現象だとして、その生じる確率をどれくらい小さくすれば安心かということは、社会全体で、改めてよく考えていかなければならない問題ではないかと思います。一人ひとりがこの問題をどうとらえて、どのような対策をどれくらいするべきかという判断につなげていくことが重要です。

(文責 編集局)

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