2012年10月号 [Vol.23 No.7] 通巻第263号 201210_263001
いよいよ導入される温暖化対策税
「地球温暖化対策のための税(以下、温暖化対策税)」の導入が、平成24年度税制改正大綱(平成23年12月10日閣議決定)に盛り込まれ、平成24年10月から施行されました。具体的には、原油やガス、石炭といったすべての化石燃料に対して、二酸化炭素排出量に応じた税率が課されています。これまでにも、化石燃料に対しては、石油石炭税、揮発油税など、温暖化対策税と同じように税が課されていましたが、各エネルギーの二酸化炭素排出量に比例した税率ではありませんでした。今回の環境省の試算(http://www.env.go.jp/policy/tax/plans/2011/about.pdf)によると、平成24年10月から3年半かけて段階的に、二酸化炭素1トンあたり289円の税金が課されるようになり、初年度は391億円、平成28年度以降には2623億円の税収が見込まれ、税収は省エネ対策の強化や再生可能エネルギー導入といった二酸化炭素排出抑制施策に充当されることとなっています。
1. 温暖化対策税は温室効果ガス排出削減に有効か?
温暖化対策税の導入によって、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガス排出量はどのようなメカニズムで削減されるのでしょうか? その理由はいくつか挙げられます。一つめは、温暖化対策税の導入によって、化石燃料の価格が上昇し、その使用を控える効果です。ただし、化石燃料の価格が上昇したからといって、すぐに化石燃料の消費量の削減が期待できるというものではありません。特に、化石燃料が必需品として使用されている場合(地方において生活の足として使用される自動車や寒冷地での暖房など)には、短期的にエネルギー消費量を削減することは限界があります。しかし、長期的に見れば、温暖化対策税の導入は、エネルギーを消費する機器を買い換える際に省エネ機器の購入を促したり、二酸化炭素排出量を出さない太陽光発電などの普及を後押ししたりするインセンティブとなり、二酸化炭素排出量を削減することが期待できます。
二つめは、温暖化対策税の税収を活用した効果です。税収を温暖化対策に活用することで、一つめに示したエネルギー価格上昇に加えた効果が期待できます。同じサービスを提供する設備について、エネルギー効率のいい設備は、エネルギー効率の悪い設備よりも設備費用が高くなるのが一般的です。このため、長期的にはエネルギー効率のいい設備を導入した方がお得とわかっていても購入されないことがあります。そこで、温暖化対策税の税収を、価格の高い省エネ機器に対して、機器の値段を下げるための補助金として活用することで、温暖化対策を促進させる効果が期待できます。最近では、エコカー減税によってハイブリッド車をはじめとする省エネ型の自動車販売台数が大幅に増加していることから、その効果を想像していただけると思います(エコカー減税の財源は温暖化対策税の税収ではありませんが)。
三つめは、上記のような実際に温暖化対策税が導入されて、その効果が現れる以前から、将来的に税が導入されるのであれば、あらかじめ効率のいい機械を購入しようといったインセンティブが作用するもので、アナウンスメント効果と呼ばれています。そのほかにも、常に温暖化対策ということを意識させてくれるといった効果もあります。
2. これまでの取り組み
中央環境審議会では、温暖化対策税導入に関する議論がこれまでにも継続的に行われていました。温暖化対策税の場合には、目的が税収の確保ではなく、温室効果ガス排出削減であるため、目的を達成すると税収が少なくなるといったことや、今回のように税収の使途を限定する目的税とするのではなく一般財源化する方が望ましい、そもそも税ではなく課徴金ではといった、根本的なところから議論が重ねられてきました。また、すでに導入されている欧州の事例等も参考に、モデルによる試算結果も踏まえて議論されてきました。
こうした議論を踏まえ、温暖化対策税の導入を盛り込んだ税制改正要望は、これまで毎年のように環境省から提出されてきました。1997年に採択された京都議定書の第一約束期間である2008年〜2012年の温室効果ガス排出削減目標(基準年比6%削減)を達成するために、こうした温暖化対策税の導入は不可欠ということで、中央環境審議会に対して、国立環境研究所は試算結果を提供してきました。特に、2003年には、二酸化炭素1トンあたり12300円の温暖化対策税が必要であるが、税収を温暖化対策として活用するというポリシーミックスを導入することで、必要な税率は二酸化炭素1トンあたり940円に抑えられ、また、第一約束期間に温暖化対策税と税収を温暖化対策に充当する施策を導入する場合のGDPは、税を導入しない場合のGDPと比較して0.06%の低下に過ぎないことを、故森田恒幸博士が亡くなられる直前にアジア太平洋統合評価モデル(AIM)モデルを用いて定量的にとりまとめられました。2003年に出された税制改正要望は見送られましたが、今回の温暖化対策税は低炭素社会の実現に向けてこうした税の必要性がようやく認められた結果であるともいえるでしょう。
3. 二酸化炭素の削減効果はどれくらい?
今回示された温暖化対策税の税率で、果たしてどれだけの二酸化炭素排出量が削減できるでしょうか? 2011年3月11日の東日本大震災より前に行った試算で、税率を二酸化炭素1トンあたり273円(炭素1トンあたり1000円)とした前提ではありますが、国立環境研究所が中央環境審議会中長期ロードマップ小委員会(第15回;2010年10月29日)に提出した結果では、2020年に1990年の排出量に対して1%分の削減となりました。また、GDPへの影響も固定価格買取制度や排出量取引制度の導入と合わせても、なりゆきケースの場合と比較して0.04%以下にとどまる結果となっています。ガソリン1リットルに対して税率が1円にも満たないことを踏まえると、エネルギー価格の上昇による効果も小さく、また、税収も少ないために、こうした結果となっています。
4. 温暖化対策税を環境政策にどう活かすか?
今回導入される温暖化対策税ですが、化石燃料の価格を上昇させてその消費量を抑えるという意味では、効果は小さいものと言わざるを得ず、大幅な排出削減のためには追加的な施策の導入が必要となります。しかしながら、温暖化対策税の導入は、日々の暮らしが二酸化炭素の排出の上で成り立っていることを再認識させてくれることにつながります。生活を見直すことで二酸化炭素排出量が減少すれば、税の負担も小さくなります。温暖化対策税が導入されたからといってすぐに温室効果ガス排出量が大きく削減できるという効果を期待できるものではありませんが、温暖化対策税を通じて、温暖化対策のことや将来のさまざまな活動のあり方を、一人ひとりが考えるきっかけになることを期待しています。