2012年7月号 [Vol.23 No.4] 通巻第260号 201207_260002

2013年以降の対策・施策に関する報告書 1 エネルギーの選択肢づくりに関する私見 —中央環境審議会地球環境部会2013年以降の対策・施策に関する検討小委員会の議論に参加して—

社会環境システム研究センター 持続可能社会システム研究室 主任研究員 藤野純一

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1. 経緯

2011年3月11日の東日本大震災(以下、3.11)と東京電力福島第一原子力発電所の致命的な事故による被害が広がる中、2011年5月10日に当時の菅直人首相が国のエネルギー政策の土台となっている「エネルギー基本計画」(2010年6月発表)の白紙からの見直しを表明した。

約1カ月後の6月22日に国家戦略担当大臣を議長、経済産業大臣と環境大臣を副議長とした第1回「エネルギー・環境会議」が始まり、約半年後の12月21日の第5回会議で配布された資料1「基本方針(案)〔概要〕〜エネルギー・環境戦略に関する選択肢の提示に向けて〜」[1]のおわりに、以下の方針が示されている。

  • (1) エネルギー・環境会議が定めた基本方針に基づき、原子力委員会、総合資源エネルギー調査会及び中央環境審議会等の関係会議体は、来春を目途に、原子力政策、エネルギーミックス及び温暖化対策の選択肢の原案を策定する。
  • (2) これらを踏まえ、エネルギー・環境会議は、原案をとりまとめ、エネルギー・環境戦略に関する複数の選択肢を統一的に提示する。
  • (3) 選択肢の提示などを通じて国民的な議論を進め、夏を目途に戦略をまとめることとする。

2012年6月8日の第9回会議では、資料5「選択肢に関する中間的整理(案)」[2]が出され、1) 七つの戦略の視座、2) 「原発への依存度低減のシナリオを具体化する」との方針に立って整理された、エネルギー・環境会議としての原発依存度低減の選択肢の設計、そして 3) エネルギー・環境会議として提示する複数のシナリオの基本設計、について確認された。さらに、選択肢づくりに向けた、総合資源エネルギー調査会、原子力委員会および中央環境審議会の検討結果が示された。

国立環境研究所アジア太平洋統合評価モデル(AIM)プロジェクトチームから、「2013年以降の対策・施策に関する検討小委員会」(委員長は西岡秀三IGES特別顧問、元国立環境研究所理事)の委員として筆者(主に技術モデルを担当)および筆者が欠席のときの代理の説明員として芦名秀一研究員が、長期留学中だった増井利彦室長(社会環境システム研究センター統合評価モデリング研究室)の代理の説明員として岡川梓研究員(主に経済モデルを担当)が委員会に参加し、委員会の議論や八つのワーキンググループ(後述)等で得られた知見をシミュレーションモデルに集約し、エネルギー・温暖化の選択肢づくりを支援した。

2. エネルギーの選択肢

総合資源エネルギー調査会基本問題委員会で主に議論されたエネルギーミックスの選択肢[3]については、2030年の原発について議論が集中し、概ね、(1) 廃止、(2) 成り行き & 判断留保、(3) 維持、(4) 需要家選択にゆだねるという以下の4案となった。

  • (1) 意思を持って原子力発電比率ゼロをできるだけ早期に実現し、再生可能エネルギーを基軸とした電源構成とする。
  • (2) 意思を持って、再生可能エネルギーの利用拡大を最大限進め、原子力依存度を低減させる。併せて、原子力発電の安全強化等を全力で推進する。情勢の変化に柔軟に対応するため、2030年以降の電源構成は、その成果を見極めた上で本格的な議論を経て決定する。
  • (3) 安全基準や体制の再構築を行った上で、原子力発電への依存度は低減させるが、エネルギー安全保障や人材・技術基盤の確保、地球温暖化対策等の観点から、今後とも意思を持って一定の比率を中長期的に維持し、再生可能エネルギーも含めて多様で偏りの小さいエネルギー構成を実現する。
  • (4) 社会的なコストを事業者(さらには需要家)が負担する仕組みの下で、市場における需要家の選択により社会的に最適な電源構成を実現する。

以上四つの選択肢について、エネルギーミックスの定量的なイメージは提示しないが、原子力発電の保険料及び炭素税について一定の想定の下で実現する電源構成の試算を別途行うことを検討する。

原子力委員会で主に議論された原子力の選択肢[4]は、エネルギーミックスの原子力発電の選択肢を元に、1) 従来の全量再処理を継続する、2) 再処理と直接処分を併用する、3) 全量直接処分とするという3案が示されている。原子力発電を将来的にゼロにする場合には 3) の全量直接処分が選択肢となるが、それ以外の原発を一定程度維持する場合には 1) 〜 3) のいずれもがあり得ることとなる。

中央環境審議会地球環境部会で主に議論された温暖化対策の選択肢[5]は、総合資源エネルギー調査会基本問題委員会で議論された2030年における原子力発電量が総発電量に占める割合[0%、15%、20%、25%、35%]に対して、マクロフレームに関する設定[成長、慎重]温暖化対策の政策強度[低、中、高]の合計30通りを対象に、2030年および2020年の温室効果ガス排出削減量等の試算を行い、四つの原案と二つのサブ案を提示した(表)。

中央環境審議会地球環境部会で議論された温暖化対策の選択肢の案

原案名 原子力の割合 *1 追加的対策 *2
1-1 0%(2030年までに全廃) 高位
1-1 0%(2020年までに全廃) 高位
2-1 約15% 中位
2-2 約15% 高位
3 約20% 中位
4 約25% 中位
  • *1 2030年の総発電量に占める原子力の割合(寿命40年で概ね廃炉、新増設なしで約15%)
  • *2 省エネ・再エネ・化石燃料の高度利用等の対策・政策導入度合

原案を実現するための、省エネ、再エネ、化石燃料の高度化利用の想定、温室効果ガス排出量、経済への影響・効果等について試算を行っている。

これら三つの関係会議体で得られた知見をもとに、エネルギー・環境会議は、6月29日に2030年のエネルギー・環境に関する三つの選択肢(原発依存度を基準に、① ゼロシナリオ、② 15シナリオ、③ 20〜25シナリオ)を取りまとめた。政府は、7月31日までパブリックコメントを募集するなどして国民の意見を聞き、8月にエネルギー・環境の大きな方向を定める革新的エネルギー・環境戦略を決定する予定、とのことである。

3. 選択肢をつくるにあたって

筆者が所属する国立環境研究所AIMプロジェクトチームでは、2013年以降の対策・施策に関する検討小委員会の事務局である環境省の依頼を受けて、小委員会の議論や、ワーキンググループ(WG:マクロフレーム、技術、ものづくり、住宅・建築物、自動車、地域づくり、エネルギー供給、コミュニケーション・マーケティング)での知見に基づきながら、AIM技術モデルおよび経済モデルを用いて、2050年を見据えた2020年および2030年のエネルギー需給および温室効果ガス排出量について、整合的なシミュレーション分析を試みた。

AIMプロジェクトチームでは、3.11以前からも、継続的に、エネルギーと温暖化に関するシナリオ作りを行っている。2008年10月からは内閣官房において「中期目標検討委員会」が行われ、特に2020年の温室効果ガス排出量削減目標値に関するシミュレーションを行った。2009年10月からは同じく内閣官房において「タスクフォース」が行われ、2020年25%、2050年80%の温室効果ガス排出削減目標が与えられた時の実現方法とその影響をシミュレーションした。そして2009年12月末から環境省が「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ検討会」を開始し、より具体的な実現策の検討や、2010年4月30日から始まる中央環境審議会地球環境部会中長期ロードマップ小委員会においては、八つのWG、100名以上の専門家との協働の下、1500ページ以上に及ぶ「中長期の温室効果ガス削減目標を実現するための対策・施策の具体的な姿(中長期ロードマップ)(中間整理)(案)」[6]をはじめとする資料を作成した。

これらのシナリオは、基本的に「エネルギー基本計画」で示された、2020年までに原子力発電所を9基、2030年までに14基新増設することをベースに作成していた。原子力の増設が2基しか進まないケース、稼働率が低いケースも計算したが、「安全な原子力」という前提で、事故が起こることの検討を行っていなかったことについて、真摯な反省が必要である。一方で、19回の小委員会の議論、八つのWGの検討、そしてAIMプロジェクトチームによるシミュレーションによる整合的なシナリオ作り等の作業により、エネルギーの供給側だけではなく、需要側の対策を含めた詳細な検討を行ってきた。

今回の検討では、「なぜエネルギーが必要なのか」について検討を深めるため、需要側の分析については、特に2点を強化した。

一点目は、各種対策がエネルギーや温暖化以外の効果(Non Energy BenefitやCo-Benefitと呼ばれる)について分析を進めた。たとえば、高断熱住宅を導入することは、暖房エネルギーの節約になるだけでなく、快適な住環境の提供や、風邪をひきにくくなるなどの疾病リスクの低減および医療費の節約に効果があり、ひいては、不動産価値を高める要因になる。また、エコドライブは燃費の改善によるガソリンの節約になるだけでなく、事故発生率がおよそ半減する効果がある。

二点目は、3.11以降、特に東京電力管内で見られた節電行動にヒントを得て、需要サイドの構造について分析を深めた。技術WGにおいて、いわゆる茅恒等式[7]のアイデアを拝借し、満足度 ×[サービス量/満足度]×[エネルギー量/サービス量]×[CO2排出量/エネルギー量]= CO2排出量、という式を提案した。つまり、照明というサービスを考えた時に、3.11前は当時の明るさ(照度)が適切なものと考えていたが、3.11以降公共スペースだけでなく、オフィスや商業施設でも顧客と一体となった明るさの見直しが行われ、今までが明るすぎたのではないか、といった意見も多く聞かれた。このように照度を見直すことが[サービス量/満足量]にあたり、白熱灯から蛍光灯やLEDに変える対策が[エネルギー量/サービス量]あたる、と定義した。

これらの結果については、2012年6月13日の地球環境部会でとりまとめられた「2013年以降の対策・施策に関する報告書(地球温暖化対策の選択肢の原案について)(案)」[8]および国立環境研究所AIMプロジェクトチームによる試算とりまとめ[9]を参照されたい。

4. 選択するにあたっての私見

(1) 4(化石・原子力・再エネ・省エネ) + 1(満足度の見直し)しか対策はない

エネルギー問題を解決するために従来から言われているのは、1) 化石燃料の高度利用化、2) 安全性が確認された原子力、3) 再生可能エネルギー、4) 省エネルギー(需要側機器の高効率化等)の四つである。そして、3.11以降特に見直されたのは、5) そもそもエネルギーから得ているサービスとそこから得ている満足度自体を見直すこと、である。

(2) 選択するクライテリア

選択肢が示された時には、さまざまな判断基準があるだろう。たとえば、

  • グリーン成長につながるか? 経済影響/投資規模はどうか?
  • 国際競争力の維持・向上、国際的地位の向上につながるか?
  • Quality of Lifeを高めるか? 優良なストックやインフラ作りにつながるか?
  • 地域のself-sufficient(自給度)を高める、防災・安全性の向上につながるか?
  • エネルギーセキュリティが高まるか? 化石燃料の輸入額の削減につながるか?
  • 2050年温室効果ガス排出量大幅削減につながるか?

などが重要だと考える。

(3) 三つのズームアウト(視野を広げること)の必要性

① 原子力と電気に焦点を当てた選択から、石油を含めたすべてのエネルギーの選択
現在のエネルギーの見直しの議論は、もっぱら原子力発電による発電量を2030年までに0%や15%、20〜25%にするという議論に終始しているきらいがある。一方で、2011年5月に菅直人前首相はエネルギー政策の白紙からの見直しを打ち出した。事故前に、原子力が発電量に占める割合は約30%だったが、そのときですらエネルギー供給量に占める割合は約12%だった。一方でエネルギー供給量に占める化石燃料の割合は、石油42%、石炭21%、天然ガス19%、再生可能エネルギー6%となっており、化石燃料が80%以上を占めている。つまり、原子力発電所や電力の議論だけに焦点を絞るのではなく、化石燃料依存への対応まで視野を広げる必要がある。
② 日本を対象とした議論から、世界への影響を含めた議論へ
東京電力福島第一原子力発電所事故直後に、ドイツ、スイス、イタリアが脱原子力に舵を切った。またすべての国が原子力政策を考え直すきっかけになった。そして、今、日本は原子力を含めたエネルギー政策の白紙からの見直しをしている。世界のエネルギー需要量の4%を占めている日本に、残りの96%の国々が注目している。つまり、日本国内向けの内向きのメッセージだけでなく、日本国外の外向きのメッセージ(影響)についても考慮する必要がある。
③ 現時点の観点から見る2030年の議論から、将来世代の可能性を高める選択へ
目下の電力不足に注力しながら、現在のヒト・モノ・カネのリソースだけで対応しうるエネルギー対策を行ってしまうと、緊急避難的な大型および小型の化石燃料ベースの電源が増えすぎて、将来の都市インフラを含めた省エネ、さらには少ないエネルギーで満足する社会システムに移行するための足かせになる恐れがある。将来世代の視点を含めたエネルギー政策(広く言うと、日本のグランドデザイン)になっているか考慮する必要がある。

個人的には、どの角度で山を登るかの問題だと思う。高い頂点を目指して、厳しい角度で山を登れば、今まで見たことがない眺望が広がるが、とても大変だろう。今の日本の心技体で登れるか心配だが、実際は心配しすぎて、登らないための言い訳をたくさん用意し登らないだけなのかもしれない。緩い角度で山を登れば、きっと登れるが、眺望はありきたりで、将来世代がそれ以上の山を登ろうとする機会を狭めてしまうかもしれない。

このような話題提供を、7月21日の国立環境研究所夏の大公開における「ココが知りたい地球温暖化」講演会で「私たちの未来とエネルギー—選ぶのは私たち—」[10]というタイトルでお話しする予定なので、その結果を後日お知らせしたい。

過去を良く知りつつも、将来世代の選択の余地を広げる、大人の決断が求められている。

脚注

  1. 第5回エネルギー・環境会議、資料1「基本方針(案)〔概要〕」(2011年12月21日) http://www.npu.go.jp/policy/policy09/archive01_05.html​より
  2. 第9回エネルギー・環境会議、資料4「選択肢に関する中間的整理(案)」および資料5「選択肢に関する中間的整理(案)〔概要〕」(2012年6月8日) http://www.npu.go.jp/policy/policy09/archive01_09.html​より
  3. 第9回エネルギー・環境会議、資料1「「エネルギーミックスの選択肢の原案」に関する総合資源エネルギー調査会における検討の状況」(2012年6月8日) http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20120613/shiryo1.pdf
  4. 第9回エネルギー・環境会議、資料2「核燃料サイクル政策の選択肢に関する検討状況について」(2012年6月8日) http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20120613/shiryo2.pdf
  5. 第9回エネルギー・環境会議、資料3「地球温暖化対策に関する複数の選択肢原案について(中間報告)」(2012年6月8日) http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20120613/shiryo3.pdf
  6. 2010年12月21日中長期ロードマップ小委員会(第19回)資料「中長期の温室効果ガス削減目標を実現するための対策・施策の具体的な姿(中長期ロードマップ)(中間整理)(案)」 http://www.env.go.jp/council/06earth/y060-92/mat01-1.pdf
  7. 東京大学茅陽一名誉教授が提唱したCO2排出の主な原因を一つずつ分解した式のこと。CO2排出量 =(CO2/エネルギー)×(エネルギー/GDP)×(GDP/人口)× 人口。詳しくは、ココが知りたい温暖化「二酸化炭素の削減と生活の質」を参照のこと http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/2/2-2/qa_2-2-j.html
  8. 2012年6月13日中央環境審議会地球環境部会第109回、資料1「2013年以降の対策・施策に関する報告書(地球温暖化対策の選択肢の原案について)(案)」 http://www.env.go.jp/council/06earth/y060-109.html
  9. 国立環境研究所AIMプロジェクトチーム「2013年以降の対策・施策に関する検討小委員会における議論を踏まえたエネルギー消費量・温室効果ガス排出量等の見通し」2012年6月13日中央環境審議会地球環境部会第109回参考資料2 http://www.env.go.jp/council/06earth/y060-109.html
  10. 藤野純一総監修「今こそ考えようエネルギーの危機」5巻セット(藤野純一、第5巻「私たちの未来とエネルギー」)、文溪堂(2012年3月)

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