2012年10月号 [Vol.23 No.7] 通巻第263号 201210_263007

平成24年度国立環境研究所夏の大公開「ココが知りたい地球温暖化」講演会概要 2 温室効果ガスの年間排出量はどうやって求める?—京都議定書の国際約束を守れるか—

酒井広平 (地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員)

7月21日(土)に行われた国立環境研究所夏の大公開において、地球環境研究センターは、講演会「ココが知りたい地球温暖化」を開催しました。講演内容(概要)をご紹介します。なお、江守正多さんの講演内容(概要)は地球環境研究センターニュース9月号に掲載しています。

photo. 酒井広平高度技能専門員

「2012年4月13日、環境省と国立環境研究所は2010年度の温室効果ガス排出量をとりまとめました。その報告によると2010年度の排出量は12億5800万トンとなり、京都議定書の基準年と比較して、0.3%の減少となっています。また前年度と比較すると、4.2%の増加となっています。この増加の原因は、リーマンショック後の景気後退からの回復の中で、製造業等の活動量が増えたことなどが要因となっています」といったように、ニュースなどで報道される温室効果ガス排出量の算定をしているのが温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)です。GIOは環境省との契約のもと、日本の温室効果ガスの排出・吸収量の算定を行っています。

1. 温室効果ガスインベントリとは?

インベントリとは、目録、一覧表という意味であり、どんな温室効果ガスがどこからどのくらい出ているかをまとめたものが温室効果ガスインベントリとなります。温室効果ガスインベントリは、各国同じフォーマットで排出量などの数値情報をまとめたもの(共通報告様式)と排出量や算定方法をまとめて文書化した温室効果ガスインベントリ報告書からなります。これらは国連気候変動枠組条約と京都議定書で使われる数値となります。

京都議定書で扱う温室効果ガスは6種類あります。二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、Fガスと呼ばれる、ハイドロフルオロカーボン(HFCs)、パーフルオロカーボン(PFCs)、六ふッ化硫黄(SF6)です。これらの温室効果ガスの排出源もさまざまであり、エネルギー分野では、化石燃料を燃やしたときにCO2が排出されます。工業プロセス分野では、セメント生産時の石灰石の使用によりCO2が排出されます。HFCs、PFCs、SF6は、半導体製造、冷媒(冷蔵機器、エアコン)、溶剤などで使われています。農業分野では、消化管内発酵(牛のげっぷ)や稲作でCH4が発生し、農用地土壌に窒素肥料を施用することによりN2Oが発生します。廃棄物分野では、プラスチックの廃棄物を焼却したときにCO2が排出され、バイオマス系の廃棄物を埋め立てたときにはCH4が発生します。なお、日本の排出量の約90%はエネルギー起源(化石燃料の燃焼)のCO2排出量です。日本の排出量の詳細はGIOのウェブページ​(http://www-gio.nies.go.jp/index-j.html)​で見ることができますので、そちらをご覧下さい。

2. 温室効果ガス排出量はどうやって計算するの?

温室効果ガス排出量は直接大気を測定しているのではなく、統計データなどから計算しています。排出量は、活動量 × 排出係数 × 地球温暖化係数で算出します。例えば、ガソリンのCO2排出量を計算するときには、活動量となる統計書のガソリン消費量(熱量)にガソリンの排出係数と地球温暖化係数(CO2の場合1倍なので1)をかけて求めます。

活動量とは、ある活動の規模を表す指標となる数値で、統計から得られます。例えば、環境省の「循環利用量調査報告書」で廃棄物焼却量が、農林水産省の「畜産統計」からは牛の頭数などが、経済産業省(資源エネルギー庁)の「総合エネルギー統計」で化石燃料の消費量がわかります。

排出係数は単位活動量当たりの温室効果ガス排出量です。例えば、ガソリンを燃やして一定量発熱したときのCO2の排出量(g-CO2/MJ)や、1頭の牛が1年間にげっぷで発生させるCH4の量(kg CH4/[頭・年])が排出係数に該当します。

地球温暖化係数(GWP)とは、それぞれのガスが、ある一定期間に及ぼす地球温暖化への影響について、CO2の影響を1として計算した数値です。京都議定書の第一約束期間はIPCC第二次評価報告書の100年間の影響値を使用していて、CO2のGWPは1、CH4は21、N2Oは310、HFCsとPFCsはいろいろな種類がありますので、それぞれ1300など、6500などとなり、SF6は23900となっています。これは、CH4を1kg出した場合、地球温暖化への影響はCO221kg分と同じという計算です。

日本の温室効果ガス排出量の多くを占める、エネルギー起源のCO2排出量を例にとって少し詳しくご説明します(図参照)。「総合エネルギー統計」では、国内において、化石燃料(石油、石炭、天然ガス)がどの部門(エネルギー転換、産業、運輸、家庭、業務など)で消費されたかがわかるようになっています。図は「総合エネルギー統計」の一部を示した模式図です。数値は熱量を表しており、熱量の収支が合うように作成されているため、「エネルギーバランス表」とも呼ばれます。ここでは「原油を100輸入し、石油精製を行い、灯油が20、重油が40、ガソリンが30それぞれ精製され、その過程でロスが10発生した。また、精製された灯油が家庭部門、重油が産業部門、ガソリンが運輸部門で消費された」という場合の例を示しています。その場合、灯油、重油、ガソリンが消費されたそれぞれの部門でCO2が排出されたと計算するとともに、ロスが起こったエネルギー転換部門(石油精製)でCO2が排出されたとして計算をしています。

fig. 計算方法

エネルギー起源CO2排出量の計算方法

実際にはそれぞれの分野でとても細かい計算をしていますが、それらの細かな算定方法は、「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」にまとめられています。この報告書はGIOが日本語と英語で毎年まとめており、今年作成した英語版の報告書は600ページを超える分厚いものとなっています。

3. 京都議定書の達成目標値と排出量の関係

京都議定書の第一約束期間(2008年〜2012年[5年平均])に、先進国とロシア・東欧諸国、いわゆる附属書I国の各国は温室効果ガス排出量の削減目標(原則1990年比)が割り当てられています。日本の場合は−6%です。目標達成には、その国の排出量だけではなく、京都メカニズム(国際排出量取引や他国での排出削減事業(クリーン開発メカニズムと共同実施))や森林等吸収源による吸収による削減が認められる仕組みになっています。わが国の温室効果ガス排出量は、基準年を±0%とすると、2008年度では+1.6%、2009年度は−4.3%、2010年度は−0.3%になります。政府の京都議定書の目標達成計画では、この排出量に、森林等吸収源(−3.8%)と政府による京都メカニズムのクレジット獲得分(−1.6%)を考慮することになっています。さらに、政府分とは別に民間によるクレジット獲得分があります。地球温暖化対策推進法の自主行動計画において、各業界団体が決めた目標を達成できない場合にクレジットを獲得して不足分を補っているという場合が該当します。これらすべてを考慮すると、2008年度は基準年比−8.8%、2009年度は−13.7%、2010年度は−10.1%となります。−6%を下回っているので、京都議定書の目標を達成できそうですが、2008年から2010年はリーマンショックの影響で排出量が下がっていた年です。2011年度以降は原発の停止による火力発電増加や震災からの経済回復も見込まれるため排出量は増加すると思われるので、まだまだ予断を許さない状況です。

4. 温室効果ガス排出量を減らすために何から始めるとよいか?

温室効果ガス排出量を減らすために、まずは、身近にできる「家庭のエネルギー消費量を測り、『見える化』する」ということをやってみてください。消費電力モニター付き電源タップは2〜3千円くらいで購入できます。家電製品の消費電力(W)が一目でわかりますので、さまざまな機器に取り付けて省エネモードなど設定を変えてみると消費電力の違いが見え、省エネ意識が向上します。

最後に、編著者としてかかわった書籍「CO2のQ&A50 —図表とデータでわかる環境問題—」をご紹介します。本書は中学生から一般の方々を対象としており、世界や日本のCO2排出状況、CO2排出量の計算方法、CO2削減の取り組みなどについて、多くの図表を用いてQ&A方式でまとめています。

(文責 編集局)

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