2017年3月号 [Vol.27 No.12] 通巻第315号 201703_315004
AGU (American Geophysical Union) Fall Meeting 2016参加報告 2 20年目を迎えたフラックスネットワークとビッグデータ時代
アメリカ地球物理学連合(American Geophysical Union: AGU) Fall Meetingは毎年12月に開催され、地球・宇宙科学の広範な分野の研究者、教育者、学生など24,000人以上が参加し、1,700以上のセッションで、最新の研究成果に関する口頭発表とポスター発表(合計20,000件以上)が行われる。
2016年12月12日から16日まで、サンフランシスコ(アメリカ)のモスコーンコンベンションセンターにおいて、第49回AGU Fall Meetingが開催された。地球環境研究センターの参加者のなかから3名が、2回にわたり、それぞれの研究分野に関する動向を紹介する。
陸域生態系の炭素収支に関わる発表についてレポートする。タワー上において渦相関法と呼ばれる方法で陸域生態系と大気間の物質交換量(フラックス)を観測する研究が世界中で行われている。このようなタワーをネットワーク化し、観測や解析に関する技術的知見の共有と発展、共同研究が行われてきた。1990年代の観測開始当初は二酸化炭素(CO2)や熱・水収支が主な対象だったが、近年は分析計と観測技術の発達により、メタン(CH4)や亜酸化窒素(N2O)、植物起源揮発性有機化合物(BVOC)など対象とする物質も広がっている。このようなネットワークは世界各地で展開されており、アメリカではAmeriFlux、ヨーロッパではEuroFlux(現在はIntegrated Carbon Observation System: ICOSとして活動)が活動している。アジアや日本でもAsiaFlux、JapanFluxというローカルネットワークが組織され、国立環境研究所にはその事務局が置かれ、活動をリードしている。また、これらローカルネットワークを世界中でまとめているのがFLUXNETである。2016年はFLUXNETによりAmeriFlux・EuroFlux20周年記念のセッションが行われた。
世界で最初にフラックスの連続観測を開始したのはHarvard Forestのサイト(1992年)であり、発表では25年にわたる長期のデータが掲示された。Harvard Forestでは2004年から隣接したサイトでもフラックス観測を開始し、10年を超えるデータを蓄積している。片方の森林では間伐が行われ、林業活動が炭素収支に与える影響も評価してきた。また、フラックス観測のみならず、バイオマスや枯死量の調査も25年にわたって行っている。国立環境研究所でも富士北麓フラックス観測サイトにおいて、2006年からフラックス観測やバイオマス調査(間伐の影響も含め)を行っており、ちょうど10年になる。我々にとって先駆者であるHarvard Forestの長期観測は今後の活動の指針となるものだった。
FLUXNETでは最近世界各地のフラックスデータを包括したデータベース(FLUXNET2015)がオープンしており、そのビッグデータを用いた研究発表も目立った。2007年にFLUXNET La Thulie Datasetがリリースされているが、FLUXNET2015によって、それ以来の大幅なデータのアップデートが行われたことになる。FLUXNET2015には212サイト、のべ1529年分のデータが登録されている。このような大量データを元にマルコフ連鎖モンテカルロ法やベイズ推定を用いたモデルのパラメータの推定精度の向上、フラックスデータを用いたボトムアップによる広域のCO2収支推定に関する研究などが行われた。本分野でもビッグデータの統計解析技術の適用が必須となりつつあると感じた。
AGU Fall Meetingに関するこれまでの記事は以下からご覧いただけます。
- 平野高司「AGU2001年度秋季大会報告—炭素循環と陸上生態系に関する研究の動向について—」2002年2月号
- AGU (American Geophysical Union) Fall Meeting 2005参加報告
- 井上誠「AGU Fall Meeting 2011参加報告—航空機と衛星リモートセンシングによる大気観測の動向—」2012年2月号
- 大森裕子・工藤慎治「さまざまな分野の垣根を越えた研究者同士の交流を体験して」2013年2月号
- 野田響「陸域生態系リモートセンシングの動向—AGU Fall Meeting参加報告」2015年3月号