2017年3月号 [Vol.27 No.12] 通巻第315号 201703_315005

「衛星観測に関する研究事業」の最近の進捗状況

  • 松永恒雄さん
    衛星観測センター 観測センター長
  • 地球環境研究センターニュース編集局

*第102回低炭素研究プログラム・地球環境研究センター合同セミナー(2016年12月8日)より

GOSAT-2の進捗状況

温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)は世界で最初の温室効果ガス観測に特化した衛星で、2009年1月の打ち上げからすでに7年以上を経過しました。その間、トラブルもありましたが、現在も観測とデータ提供を続けています。またその後継機であるGOSAT-2は、2018年度に打ち上げが予定されています。さらに、GOSAT-3の検討もすでに始まっています。

GOSATもGOSAT-2も環境省と宇宙航空研究開発機構(JAXA)、国立環境研究所(以下、国環研)の3者が役割分担をして進めているプロジェクトです。環境省はGOSATデータの行政利用を担当し、JAXAは衛星やセンサの設計、開発、試験、打ち上げ、運用、さらに、観測データのレベル1処理(生データをセンサが観測した光の強度に変換する処理)を行います。国環研はJAXAから提供されたレベル1データの高次処理(センサが観測した光の強度を二酸化炭素(CO2)濃度等の地球に関する物理量に変換する処理等)、データ配布、検証を担当しています。行政官庁、宇宙機関、研究機関がそれぞれ独自の予算をもちよって一つの衛星事業を進めているというのは、世界的に見てもユニークな取り組みだと思います。この取り組み方の場合、衛星ミッションの設計、開発から運用、データ処理/配布、利用に至るまでその目的(GOSATの場合は炭素循環に関する科学や地球温暖化関連行政への貢献)に最適化することができます。

国環研GOSAT-2プロジェクトは2013年に予算化されました。計画段階では2017年度後半に打ち上げることになっていましたが、2018年度に延期されました。2015〜2016年には衛星や地上系の設計が確定し、現在、製作段階に入っています。そして2017年には最終確認が行われる予定です。国環研最大のミッションは、GOSAT-2のデータ処理運用システム(G2DPS)を開発し、定常的に運用することです。2015年度にはG2DPSを設置するための建屋を新築しました。2016年度はG2DPSの定常運用を進めていくための計算機の調達を行っています。またGOSAT-2の検証には、主に全量炭素カラム観測ネットワーク(TCCON)のデータを使いますが、現在のTCCONのサイトは北半球の先進国に偏っているため、GOSAT-2プロジェクトではフィリピンに新しいサイトを設置することになり、2014年から3か年計画で準備を進めています。

第4期中長期計画期間での研究事業

2016年4月から第4期中長期計画期間が始まりましたが、本中長期計画に合わせて衛星観測に関する研究事業のロードマップを新たに作成しました。GOSATの設計寿命は5年であり、2014年1月に開始された後期運用もすでにほぼ3年行われています。第4期中長期計画期間では、引き続きGOSATデータの定常的な処理を継続し、得られたデータの配布や検証を行います。またGOSAT-2では、まずデータ処理をするシステムや検証サイトをつくり、2018年度の打ち上げ後にはその運用を開始します。数年後には、GOSATとGOSAT-2の同時運用に取り組んでいることでしょう。一方GOSAT-3については、今年度よりどんな衛星にするかという議論を行い、2017年度以降に全体計画をたてて、予算要求するという流れになります。さらに現在所内でGOSATにかかわっている人が誰もいなくなるような将来の計画もあります。また、2050年頃にゼロエミッション社会になっているならば、CO2の濃度増加が止まっていることを衛星で確認できるのではないかと思います。さらにその手前の段階では、2050年に向けてCO2濃度の増加ペースが落ちていることも衛星で観測できるでしょう。最もこの頃にはロードマップを書いた本人(松永)も引退していますから、実際に観測結果を見ることはできません。しかし、こういった事業を属人的ではなく、長期間にわたり継続的に実施する組織として、国環研内に衛星観測センターが新たに設置されました。メンバーは、地球環境研究センターと環境計測研究センターの職員が衛星観測センターに所内出向のような形をとり、業務を行っています。衛星観測センターには、GOSATプロジェクト、GOSAT-2プロジェクト、GOSAT-3の準備を行うチームがあります。検証など、どの衛星でも関係する業務を担当するチームもあります。メンバーは50人くらいですが、いろいろな人が衛星観測センター内の複数の業務を兼任しています。

2016年度の業務報告

2016年度の業務を紹介します。これまでGOSATのデータを提供していたGUIGというシステムを12月末には止める一方、先日GDASというウェブサイトを新たに立ち上げ、データ提供を開始しました。GDASは、システム的にはやや簡素化しており、GUIGでできたこと/ダウンロードできたデータがGDASではできないという面もあります。その点はご了承下さい。

2016年度には記者発表を数回行いました。そのうちの二つを紹介します。一つは9月23日に発表した石澤みさ特別研究員(物質循環モデリング・解析研究室)らの論文です(2013年夏季の東北アジア上空の大幅なメタン高濃度の原因を解明 —温室効果ガス観測技術衛星GOSAT(「いぶき」)の観測能力の高さを実証— http://www.nies.go.jp/whatsnew/2016/20160923/20160923.html)。

もう一つは10月27日に発表した、GOSAT観測による地球全体の平均的なCO2濃度の計算結果です(季節変動を取り除いた全大気平均二酸化炭素濃度が初めて400ppmを超えました! 〜 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による観測速報〜 http://www.nies.go.jp/whatsnew/2016/20161027/20161027.html)。この1年間で月別でも長期トレンド(図中の推定経年平均濃度)でも、CO2濃度の一つのマイルストーンである400ppmを超えてしまったことを紹介しました。

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「いぶき」の観測データに基づく全大気中の二酸化炭素濃度の月別平均値()と推定経年平均濃度(•) http://www.nies.go.jp/whatsnew/2016/20161027/20161027.html

現在、GOSATデータ処理運用施設(GOSAT DHF)は定常的に運用されています。GOSAT-2の地上システムであるG2DPSは設計が終わり、製造段階に入っています。また、このシステムを動かす計算機の調達を進めており、これからどんどん建屋に導入されます。さらに環境省の計算設備RCF2も国環研に設置され、今後両者で運用していきます。すでに国環研内ではRCF2を使えるようになっており、現在所外の研究者に使っていただくための準備を進めています。

検証チームは、TCCONからのデータや航空機データを使い、GOSATデータの検証を行っていますが、先述の通りGOSAT-2プロジェクトでは、フィリピン北部にあるBurgosにTCCONの新しいサイトを造るために作業を進めています。国環研内で調整した観測装置は、本日(2016年12月8日)、フィリピンに到着しました。年内に装置を設置し、2017年早々には試験観測を始める予定です。

また関連したアウトリーチ活動も行っています。1年ほど前に東京周辺でキャンペーン観測を行いましたが、森野勇主任研究員(衛星観測研究室)による解説(英語)をYouTubeで見ることができます(The campaign to measure the emission of Greenhouse Gases from Mega Cities. https://www.youtube.com/watch?v=WZXvtyiYvGs)。2016年11月7日から18日にマラケシュ(モロッコ)で開催された国連気候変動枠組条約第22回締約国会議では、GOSATの観測結果やGOSAT-2の最新開発状況などを国環研の展示ブースで紹介するとともに、日本パビリオンにおいてGOSATレベル4Bプロダクトのアニメーションを上映しました。また、日本パビリオンのサイドイベント「IPCCインベントリガイドラインにおける人工衛星データ利用に向けた取り組み」で、松永が「温室効果ガス排出インベントリ検証のための衛星による温室効果ガス濃度データの利用法について」と題する講演を行いました。参加者から今後の日本との研究協力に高い関心が示されました。

略語一覧

  • 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(Greenhouse gases Observing SATellite: GOSAT)
  • 宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency: JAXA)
  • GOSAT-2データ処理運用システム(GOSAT-2 Data Processing System: G2DPS)
  • 全量炭素カラム観測ネットワーク(Total Carbon Column Observing Network: TCCON)
  • 「いぶき」データ提供サイト(GOSAT User Interface Gateway: GUIG)
  • 「いぶき」データ提供サイト(GOSAT Data Archive System: GDAS)
  • GOSATデータ処理運用施設(GOSAT Data Handling Facility:GOSAT DHF)
  • GOSAT-2研究用計算設備(Research Computation Facility for GOSAT-2: RCF2)

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