2012年2月号 [Vol.22 No.11] 通巻第255号 201202_255004
AGU Fall Meeting 2011参加報告 —航空機と衛星リモートセンシングによる大気観測の動向—
1. 全体の概要
米国地球物理学連合(American Geophysical Union: AGU)の2011年秋季大会が、12月5日(月)から9日(金)にかけてサンフランシスコのモスコーン・コンベンションセンターで開かれた。AGUは、大気科学や海洋科学、惑星科学、超高層物理学、測地学、地震学、火山学、水文学、生物地球化学などの地球惑星科学全般に関する研究集会である。発表総数は約18,000件で、内訳は口頭発表約6,000件、ポスター発表約12,000件であった。日本からの研究発表も多く、アジア諸国から多数の参加があった。94カ国から約22,000名が参加し、今大会の参加者数は過去最多を記録した。今回も楽しみながら市内を走るFun Runや市民対象の講演会、物品販売が開催されるなど、専門学会の枠を越えた非常に大きなイベントとなっている。また2011年3月の東日本大震災を受けて、東北地方太平洋沖地震に関わる研究発表も多かった。次節以降では、筆者が特に興味をもった大気科学に関する二つのテーマに焦点を絞り、その内容と会議の感想について報告する。
2. 物質循環とリモートセンシングに関する研究発表
(1) 航空機観測HIPPOによる最新の成果
初日である月曜日の午前には、「Atmospheric Sciences General Contribution III」というセッションが催され、航空機観測プロジェクトHIPPOや成層圏を含む大気力学に関する口頭発表が行われた。ここでは、HIPPOに関する発表内容について紹介する。HIPPOとは、米国の研究航空機HIAPERを用いた大気観測キャンペーンであり、HIAPER Pole-to-Pole Observationsの略である。最近3年間(2009〜2011年)の異なる季節に5回の観測を行い、太平洋および北米上空において温室効果ガスやさまざまな微量気体成分の濃度データを取得した。Miller(米・NOAA)はHIPPOによって得られたオゾンやハイドロフルオロカーボン(HFC)などの物質の鉛直プロファイルを示し、Smith(米・マイアミ大学)は地表面から超高層(〜140km)までを包括する全層大気モデルWACCMとHIPPOの結果とを比較した。またHIPPOの利用研究例として、熱帯域上部対流圏の水蒸気分布に着目したAbrams(米・プリンストン大学)による発表が行われた。Christensen(米・オークリッジ国立研究所)がHIPPOデータの取得方法についてのポスターを掲示していた。熱帯から極域にかけての太平洋は観測点が少なく特に子午面分布はあまり知られていないので、大変貴重なデータであると思った。
(2) GOSATと今後打ち上げ予定の温室効果ガス観測衛星に関する動向
「Remote Sensing of CO2: Observations, Modeling, and Synthesis」というセッションが組まれ、水曜日にはその口頭発表が、木曜日にはポスター発表が行われた。その中で、国立環境研究所GOSATプロジェクトのメンバーからの研究発表5件について報告する。横田は、GOSATに搭載された温室効果ガス観測センサ(TANSO-FTS)の短波長赤外(SWIR)域により推定されたプロダクトのデータ質の概要と今後のデータ処理手法の改良計画、およびGOSATを用いた利用研究の状況について紹介した。内野は、エアロゾルや薄い巻雲の存在がGOSAT SWIRによる二酸化炭素カラム平均濃度(XCO2)の算出にどの程度の影響を与えるかについて発表した。吉田はGOSAT SWIRによるXCO2の導出結果における誤差要因を考察して今後の導出手法改善に向けての途中経過を報告し、井上は航空機データを用いたGOSAT XCO2の検証結果を発表した。Maksyutovは地上観測データやGOSATデータなどを用いて大気輸送モデルによる逆解析を行い、全球を64分割した亜大陸規模の各地域における二酸化炭素の吸収・排出量を算出した結果、地上観測の乏しいアフリカや南米などの地域において、GOSATデータが推定値の不確実性の低減に有用であることを示した。
GOSATの他にも、各国で温室効果ガスを観測するための人工衛星の打ち上げが検討されている。アメリカで2013年に打ち上げ予定であるOCO-2の準備状況がGunson(米・ジェット推進研究所)によって報告された。さらに、Bovensmann(独・ブレーメン大学)はドイツで2018年以降の打ち上げを目指して検討されているCarbonSatについて発表し、Liu(中国科学院)は中国で計画されているTanSatプロジェクトの概要を説明した。温室効果ガスの分布やその変動は社会的にも関心が高いので、このような観測・利用計画もうまく進み、GOSATを含めた衛星リモートセンシング分野の研究が相乗的に進展していくことが期待される。
3. おわりに
筆者にとってAGUへの参加は2度目であった。参加者が非常に多く、会場や研究分野も含めてこれほど大規模な学会は他に経験がない。また、国内の学会に比べて航空機や衛星などの観測に基づく研究発表が多く、数値モデルを用いた研究が相対的に少ないという印象をもった。数値モデルを重視する日本にいると気づきにくいが、AGUに参加すると現実の大気を反映した解析アプローチはやはり強力で必要不可欠であると実感する。
会場の外を歩いてみると…
AGUの期間中、サンフランシスコは穏やかな晴天が続いて絶好の散策日和となった。研究発表の合間に訪れた会場の最寄り駅付近には、多くの高層ビルや華やかな店が建ち並ぶ。その中でも、駅前にある某ハンバーガーショップは筆者のお気に入りである。また、会場から徒歩で20分くらいの中華街では何度もおいしい中華料理を食べる機会に恵まれた。お土産には高級チョコレートが定番であるが、スーパーで掘り出し物の安いお菓子を探すのもお勧めである。駅前や会場付近では大道芸人が楽器を演奏したり踊ったりと、通行人を楽しませてくれる。雑踏を離れ会場付近の広場に行くと鴨が泳いでいて心を癒してくれる。サンフランシスコでの一週間は、日ごろ気ぜわしい研究者にとって憩いと気分転換を与えてくれる場所であった。