2017年3月号 [Vol.27 No.12] 通巻第315号 201703_315002

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)報告 政府代表団メンバーからの報告:パリ協定発効、ルールづくりの加速が求められる

  • 地球環境研究センター 地球環境データ統合解析推進室 研究員 畠中エルザ
    (地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス)
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 小坂尚史

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)報告 一覧ページへ

2016年11月7〜19日に、モロッコ・マラケシュにおいて国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第22回締約国会議(COP22)、京都議定書第12回締約国会合(CMP12)およびパリ協定第1回締約国会合(CMA1)が開催された。これと並行して、パリ協定特別作業部会(APA)第1回会合(第2部)および第45回補助機関会合(科学上および技術上の助言に関する補助機関会合:SBSTA45、実施に関する補助機関会合:SBI45)が開催された。国立環境研究所からは、日本政府代表団(交渉)、サイドイベント(発表)、ブース(展示)という三つの立場で参加した。本稿では交渉内容について紹介する。なお、サイドイベントと展示ブースについては、国立環境研究所ニュース35巻6号(3月上旬公開、http://www.nies.go.jp/kanko/news/index.html)で報告する。

photo

写真議長が採択に用いる木槌の引き継ぎを受けるモロッコのメズアールCOP22議長(中央)、前議長国フランスのロワイヤル環境大臣(右)、およびエスピノサUNFCCC事務局長(左)

今次COP開幕を前に、2016年11月4日にパリ協定が発効した。協定が採択されたのがつい一年前であり、気候変動交渉の通常の進み具合に照らすと、そのスピード感は目を見張るものがある。日本も環太平洋経済連携協定(TPP)に関する国会での議論の隙間の11月8日に受諾して、パリ協定への正式参加を決定した。今後、自ら表明した目標の達成、今後求められる目標の強化に向けて本腰を入れて取り組むための体制づくりをしていく必要がある。

以下、政府代表団による温室効果ガスインベントリ関連の交渉について概要を報告する。他事項に関する交渉の概要については、環境省の報道発表(http://www.env.go.jp/press/103279.html)等を参照されたい。

1. CMA1会合

初のCMAが開かれ、パリ協定の詳細ルールを2018年までに策定すること等がCMA決定として決まった。詳細ルールの議論は、COP下の既存の枠組みに委ねることにして、CMA1そのものはこの意思決定をもって一旦中断とし、2017年末のCOP時に再開してAPAの進捗確認を行ったのち、再度中断させ、2018年末のCOPにおいて再開となる。詳細ルールの採択はCMA1で行うことになっているためである。なお、日本は、受諾が遅れたため、今次CMA1会合においては、オブザーバー参加となった。

2. APA1-2会合

今次会合では、緩和・市場メカニズム・適応・透明性・グローバルストックテイク(各国の排出削減目標が十分なのかを5年おきに確認する仕組み、詳細は地球環境研究センターニュース2016年2・3月合併号参照)等のトピックごとに、各国が会合前に提出した意見などを踏まえて、作業工程が議論された。2018年末に向けて、最後は時間切れになっていくことが予想される。例えば、議論の優先順位を決めれば最後の最後で本当に時間がなくなれば先送りにできる性質のものを後回しにしたりできるので、手続き的ではあるが、何をどのように議論していくか自体を議論することは重要である。

行動・支援の透明性に関しては、他議題よりも早めの動きがみられ、2017年2月15日までにガイドライン等の具体的な構成要素に関する各国意見の提出を招請し、さらには、5月のSB会合を前に、3月にワークショップを開催し、詳細事項に関する議論に着手する見込みである。いくつかの国から発言があったように、まずどのような事項を各国に報告させるかの議論から開始するという流れになるだろう。

3. SB45会合

CMAなどが開催され新しい動きがまず目立つが、SB会合は、UNFCCCなどで過去に採択された決定事項を履行していく機能を果たしている。透明性については、今次会合では、前回に引き続き途上国の促進的意見の共有(FSV)が行われ、先進国の多国間評価(MA)が二巡目に突入した。また、専門家協議グループ(CGE)の今後の活動のあり方等について議論を行った。

4. 途上国の促進的意見の共有(FSV)

前回SB会合におけるFSVの様子と、隔年更新報告書(BUR)の概要については、地球環境研究センターニュース2016年9月号にて紹介しているが、今次SB会合では、会合中盤の11月10日に、アンドラ、コスタリカ、コロンビア、アルゼンチン、レバノン、メキシコ、パラグアイを対象にFSVが実施された。現段階で第一回BURが提出されていない国が多数を占めることから(本稿執筆時点で154カ国中35カ国しか提出していない)、BURの提出そのものや報告内容を称賛する発言が多くあった。また、各国への質問としては、BURの提出・技術的分析(TA)から得た教訓や、国内体制、BUR報告ガイドラインの要改善点に関するものが多数を占めた。

本FSVプロセスでは、事前に質問を提出することが可能となっており、対象国も、SB会合の前にこれに回答することができる(期間はそれぞれ10月の一カ月間、11月上旬の9日間)。FSV対象国に回答を強いることができる仕組みではないが、答える方が好印象であるため、自然にやり取りが生じており、好ましい状況である。

なお、このFSVでは、5カ国以下の複数の国でグループとして対応する選択肢もルール上設けられているが、今のところ活用されていない。小島嶼国など、この選択肢を活用し得る、類似的な国家状況を有する国が依然としてBURを提出していないからであろう。

5. 先進国の第二回多国間評価(MA)

今次SB会合では、会合の折り返し地点の11月12日と14日に、EU、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、ドイツ、ハンガリー、イタリア、ラトビア、リトアニア、マルタ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、スロバキア、スウェーデン、スイス、イギリスの24カ国を対象にMAが実施された。先に述べた途上国のFSVと同様、隔年報告書(BR)(概要は地球環境研究センターニュース2016年9月号表参照)における報告内容を端緒に、SBIの公開の場で質問やコメントを受けることになっている。

各国への質問としては、再生可能エネルギー、主要排出源に関する政策・措置を含め、その国特有の政策・制度や、国内体制に関するものが多数を占めた。その一方で、韓国、ブラジル、インドなどから、過去のMAと同様に、BRにおいて緩和対策の効果の報告が限定的であるとの指摘も挙がった。

先進国に対するMAは今回から二回目の実施となり、ある程度安定的な運用となってきた印象である。ブラジルからは参加者が少ないことを嘆くような発言もあったが、ウェブ上を含め公開の場で質問を受けるということによるプレッシャー効果は変わらない。排出量の少ない国は排出量の多い国・中程度の国よりも質問数が少ない傾向もあり、自然に取扱いの差別化も起きているように思われる。

本MAプロセスでは、事前に質問を提出することが可能となっており、対象国も、SB会合の前にこれに書面で回答するよう努力することを求められる(期間はそれぞれ8月の一カ月間、9月〜10月下旬のおおよそ2カ月間)。途上国に比して、少し厳しい仕組みとなっている。

6. CGEの活動

CGEとは、途上国が国別報告書・隔年更新報告書を作成する際に直面する問題点等に関連して技術支援を提供するUNFCCCの専門家グループであり、2010年より日本の専門家が参加している。透明性に関する現行制度が円滑に進むようにキャパシティビルディングを担っているグループである。

今次会合では、現在のCGEの活動期間(2014〜2018年)におけるCGEの活動内容を振り返り、必要に応じて残りの期間についてSBIとして追加ガイダンスを行うことになっていた。これも過去に採択された決定事項を履行する議題だったが、パリ協定の詳細ルールを決めていく大きな流れの影響を受け、今次会合では、現在進行中のAPAの結論を予断しないように、現段階ではCGEの今の活動内容に濃淡をつけるような追加規定を作らないことになった。その一方で、APAでの議論がもう少し進捗している2018年春のSBI会合において議論の場を作り、将来的に変更する余地を残した。既存のUNFCCC等の下でのルールと、パリ協定下の新詳細ルールとの関係性がどうなるか分からないが、現行制度をいじるのは一旦保留にしたいという各国の気持ちがうかがえる。

7. 最後に

今次COPは、全体的に地味なCOPだったといえる。パリ協定採択という大きな成果のあった翌年であり、決定を実行に移すための準備をするタイミングであったからだろう。会合中、大きなショックとなったのは、一週目の水曜の朝の、アメリカ次期大統領へのトランプ氏選出の報だった。その後、米国環境保護庁長官に気候変動対策について後ろ向きと言われているプルーイット氏を指名しており、残念ながら気候変動交渉における米国のスタンスは今後変化する可能性が高い。しかし、トランプ氏に一貫した考え方があるのかは不明である。いずれにせよ、中国を筆頭に、米国以外でも、温室効果ガス排出量という意味において存在感のある国は、EU、インド、ロシア、日本と、いくつもあり、米国の動向の如何を問わず、とまではいかないかも知れないが、淡々と削減策を打っていく必要がある。

なお、そんな中、次回COPはフィジーを議長国として、ドイツ・ボンで開催されることになった。気候変動の影響を大きく受ける国が主導するCOPでは気候変動への取り組みに対する米国のコミットをきちんと得られることを祈りたい。

略語一覧

  • 国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)
  • 締約国会議(Conference of the Parties: COP)
  • 京都議定書締約国会合(Conference of the Parties serving as the Meeting of the Parties to the Kyoto Protocol: CMP)
  • パリ協定締約国会合(Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Paris Agreement : CMA)
  • パリ協定特別作業部会(Ad Hoc Working Group on the Paris Agreement: APA)
  • 科学上および技術上の助言に関する補助機関会合(Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice: SBSTA)
  • 実施に関する補助機関会合(Subsidiary Body for Implementation: SBI)
  • 環太平洋経済連携協定(Trans-Pacific Partnership: TPP)
  • 補助機関(Subsidiary Bodies: SB)
  • 促進的意見の共有(Facilitative Sharing of Views: FSV)
  • 多国間評価(Multilateral Assessment: MA)
  • 専門家協議グループ(Consultative Group of Experts on National Communications from Parties not included in Annex I to the Convention: CGE)
  • 隔年更新報告書(Biennial Update Report: BUR)
  • 技術的分析(Technical Analysis: TA)
  • 隔年報告書(Biennial Report: BR)

目次: 2017年3月号 [Vol.27 No.12] 通巻第315号

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP