2013年2月号 [Vol.23 No.11] 通巻第267号 201302_267006

さまざまな分野の垣根を越えた研究者同士の交流を体験して

  • 地球環境研究センター 地球大気化学研究室 特別研究員 大森裕子
  • 地球環境研究センター 地球大気化学研究室 特別研究員 工藤慎治

1. はじめに 〜AGU Fall Meeting 2012〜

2012年12月3日–7日にかけて、アメリカ地球物理学連合(American Geophysical Union: AGU)の第45回Fall Meetingが、サンフランシスコにあるモスコーンセンターにて開催された。AGUは会員数61,000人を有する世界最大の地球物理学学会で、Fall Meetingは毎年12月に開かれる大気・海洋・地殻・生物学および宇宙物理学などの地球惑星科学全般の研究報告会である。

私たち2人は今回初めてAGU Fall Meetingに参加したが、まず、総発表数が21,000件、参加者が23,000人以上という規模の大きさに驚いた。世界各国から研究者が集まり、朝8時から夜6時まで研究発表で溢れていた5日間であった。特に、非常に広大なポスター会場では、毎日新しいポスターが貼られ、目当てのポスターを見るために1日で1か月分歩いたのでは…と思うくらい会場内を歩き回った。一体総歩行数はいくつだったのか、万歩計を持っていかなかったことが悔やまれる。

次に、自分たちが参加したそれぞれのセッションの内容について報告する。

2. 熱帯域における大気—海洋観測の最新報告:大森

私は、「Tropospheric Chemistry and Tropical Oceans(対流圏化学と熱帯海洋)」というセッションに参加した。このセッションは12月6日に口頭発表、12月7日にポスター発表が行われ、東部赤道域における海洋—大気対流圏の揮発性有機化合物(volatile organic compounds: VOC)や粒子状物質(エアロゾル)の観測結果が報告された。

VOCは大気中における酸化を経て有機エアロゾルを形成し、大気の環境および気候に影響を与える。そのため、特に未知の部分が多い海洋表層のVOCについては生成・分解プロセスなどを明らかにする必要が指摘されている。このような背景のもと、2012年1月から2月にかけて、東部赤道域において、日本の研究船白鳳丸による海洋—大気観測EqPOS(Equatorial Pacific Ocean and Stratospheric​/​Tropospheric Atmospheric Study)と、アメリカの航空機による対流圏におけるエアロゾル・VOCなどの観測プロジェクトTORERO(Tropical Ocean tRoposphere Exchange of Reactive halogen species and Oxygenated VOC)が実施された。これまでは海洋と大気のVOC観測が同期して行われる機会は少なく、このセッションでは、両プロジェクトで得られた最新のデータが報告された。

私は、EqPOS航海で得られた海洋—大気間のVOC放出量についてポスター発表を行い、熱帯域では北太平洋亜熱帯・亜寒帯海域に比べて硫化ジメチルの放出量が高い傾向であることを示した。東京大学の古谷浩志研究員は、海洋直上大気中のエアロゾル粒子の濃度分布や粒子形成について概要を報告した。TOREROからは、Siyuan Wang氏(University of Colorado)が航空機によって観測された対流圏中のVOCやエアロゾルの鉛直分布を示したが、対流圏低層に存在する含酸素VOCの多くはエアロゾル表面に吸着した有機物が不均一反応で酸化された物であることを示唆しており、興味深い。 今回のAGUでは、各研究者がターゲットとしている物質の動態についての成果が発表されていたが、今後TOREROとEqPOSで得られた大気—海洋観測の結果を合わせて解析することで、熱帯域における海洋から対流圏に及ぶVOCの動態を総合的に評価することにつながると期待される。

photo. 大森

ポスター発表で解説する大森。同じ分野の研究者同士の交流ができます

3. 大気汚染物質の排出量推計に向けて:工藤

私は「Emissions Understanding, Constraints, and Changes(排出量の把握、規制、および変動)」というセッションに参加し、初日である12月3日にポスター発表を行った。このセッションでは現場観測や衛星観測、モデルによる温室効果ガス(メタンや二酸化炭素など)や大気汚染物質(オゾンやエアロゾルなど)の大気中挙動や排出量推計に関する最新の研究成果が報告されていた。今回、私は対流圏オゾンやエアロゾルの前駆物質(反応に関与する物質)であるVOCについて、2010年中国のYangtze River Delta(長江デルタ)地域において異なる手法で行ったVOC計測の相互比較や、観測とモデルとの比較について報告し、数人の研究者と大変有意義な議論を経験することができた。VOCは発生源や成分の種類が多いため、排出量推計には不確実性が非常に大きいが、現状では正確な衛星観測が困難なので、モデルを改良するためにも発生源付近における現場観測が重要であることを改めて認識した。

同じセッションにおける発表では、異なるVOCの成分比から天然ガスの影響があることが報告されており、VOCの成分比情報が発生源の推定に有用であることがわかった。またVOCは人為起源のみならず自然起源のものもあり、植物から排出されるVOCについての報告もあった。気候影響・健康影響の観点から、今回のAGUではVOCに比べてオゾンやエアロゾルの発表が多かったが、近年、二次生成エアロゾルに関心が集まっていることから、その前駆体物質であるVOCの動態について今後研究が進展していくと思われる。

photo. 工藤

ポスター発表で解説する工藤

4. おわりに

AGUのFall Meetingに参加する前は、自身の研究の動向を把握することを目的のひとつとしていたが、実際に参加して普段聴講する機会が少ない分野の研究を知ることができ、自分の興味を広げることができた。また、発表を聞きに来てくれた人や知り合いから他の研究者を紹介してもらう機会にも恵まれ、研究を進めていくうえで大切な人脈も広がった。

会場の外で…

大森裕子

初めてのAUG Fall Meetingで一番印象に残ったのは、食事である。アメリカの雰囲気が満載なユニオンスクエアから北へ10分ほど歩くと、チャイナタウンのシンボルである中華門。それをくぐると、赤緑金紫と色彩豊かな街に足を踏み入れる。そこで食した四川料理は、連れて行ってくれた中国の研究者がAGUに来たら必ず食べるという本格的かつ絶品の品々。真っ赤な唐辛子の海に沈む白身魚や香辛料に埋まる豚肉は、辛くて旨い。料理とチンタオビールが進むと共に、研究やプライベートの話も進み、学会会場とは全く違う、濃密な時間を過ごすことができた。

会場で出会ったサンフランシスコ在住の方には、行きつけのハンバーガー店に連れて行ってもらい、ジューシーなお肉とポテト、おいしい地ビールで、その日初めて会ったことも忘れるような、笑いの絶えない夕食を共にすることができた。

おいしい食事は人と人との垣根を取り払ってくれる。次回参加するときは、サンフランシスコの有名なカニを堪能しつつ、たくさんの研究者の方々と交流したい。

photo. 四川料理

チャイナタウンで食べた絶品四川料理

photo. ハンバーガー

アメリカといえば! ハンバーガーとポテト

目次:2013年2月号 [Vol.23 No.11] 通巻第267号

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