地球温暖化研究プログラム

プロジェクト2地球温暖化に関わる地球規模リスクに関する研究

平成26年度の研究成果

私たちの目標の一つは、気候変動リスクを、悪影響だけでなく好影響も含めて、網羅的に明らかにすることです。そこで、プロジェクトに参画する様々な分野の専門家が、最新の研究についての文献調査を行い、気候変動リスクを網羅的に記述した一覧表を作成しました。さらに、あるリスクが別のリスクを引き起こすといった、リスクの因果関係についても、網羅的な一覧表を作成し、複雑な関係を図として表現しました。IPCC AR5などのこれまでの報告書では、気候変動リスクは部門ごとに記述されており、異なる部門の間の因果関係について、体系的にまとめられていませんでした。私たちが作成した一覧表やネットワーク図は、人々が気候問題の全体像を網羅的に把握する上で、有用な情報となると考えています。

この研究で、気候変動リスクの因果関係を調べることにより、その全体像が明らかになりました。図1では、気候システムの変化が、自然環境、社会システム、安全保障、人々の生活、生態系へ与える影響を、簡潔に示しています。また図2では、食料部門に関わるリスクの因果関係を示します。ここでは、リスク間の因果関係が矢印でつながれており、原因か結果に食料部門のリスクが含まれる関係だけを取り出して図示しています。気候システムの変化によって、作物生産性の減少など、自然資本の変化が生じます。これらの変化は、食料供給の不安定化や食料安全保障の悪化など、社会システムの変化をもたらします。これらの変化はさらに、栄養不足の増加や移住の増加など、人間の生活に影響を及ぼします。なお、ここでは、場所によっては作物生産性が増加するなど、気候変動の好影響も示されています。今後は、被害や利益の大きさや生起確率に関する定量的な情報や、対策の効果を示す情報を付け加えていく予定です。

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図1気候変動リスクの因果関係を表す全体像。気候システムの変化が与える影響は、大きく分けて、自然資本(水色)、社会インフラや社会システム(クリーム色)、水・食料・エネルギーなどに関する安全保障や人々の健康や生活(ピンク)、生態系(緑)に分類することができる。それぞれの影響の間で、様々な相互作用が生じる。

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図2気候変動リスクの因果関係のうち、食料部門に関わるもの。リスク間の因果関係が矢印でつながれており、原因か結果に食料部門のリスクが含まれる関係だけを取り出して図示している。このほかに、水資源、エネルギー、災害と社会、健康、生態系、地球科学的臨界現象に関わるリスクを、同じようにネットワーク図で表現した。図中のリスク項目の大きさは3種類であり、この研究でまとめた因果関係の数(リスク項目が原因か結果になる因果関係の数)が、8以上のリスクが大、4以上のリスクが中、3以下が小サイズで表現してある。図の色分けは、図1で示したリスクの全体構造の色に対応している。ただし、気候システムの変化に関わる項目(灰色)は、因果関係の数によらず、小サイズで表わしている。