プロジェクト2地球温暖化に関わる地球規模リスクに関する研究
平成24年度の研究成果
気候予測に関する不確実性を定量的に把握するための取り組みの一つとして、パターンスケーリングと呼ばれる手法の検証を行いました。この手法は、時空間解像度の高い全球気候モデルと比べて計算機資源を必要としないため、全球気候モデルを用いて予測することのできなかったさまざまな排出シナリオの下で将来予測を行うことができます。成果の一例として、年平均の気温の検証結果について示しています。この手法は、全球平均気温が1℃上昇するときの各地点の気温上昇量が排出シナリオ間で共通であるということを仮定しています。しかし、排出シナリオ間では有意な違いがあることがわかり、パターンスケーリングを用いた影響評価研究においてはこの有意な違いがもたらす影響について注意する必要があることがわかりました。また、その原因についても解析し、北半球中緯度においては硫酸エアロゾルの排出量が、北半球高緯度においては海氷や北大西洋熱塩循環の排出シナリオ間の違いが重要であることが示されました。今後は、この手法をさまざまな影響評価研究に適用し、温暖化対策に関する意思決定に資する情報の提供を目指します。
図はRCP2.6とRCP8.5の全球平均気温1℃あたりの地表気温の変化である。両シナリオともに、北半球の高緯度で変化が大きく、低緯度では変化が小さい。また、同じ緯度では、陸上の方が海洋より変化が大きい。このように基本的な特徴はおおよそ同じである。
図は二つの排出シナリオにおける全球平均気温1℃あたりの地表気温変化の違い(RCP8.5-RCP2.6)である。北半球中緯度と高緯度で大きな違いがあり、影響評価研究においては注意が必要である。
図はRCP8.5とRCP2.6の全球平均気温1℃あたりの大気中の硫酸塩エアロゾル濃度の変化の違いである。大気中の硫酸エアロゾルは直接効果、間接効果により日射が地表に到達するのを妨げるため、気温を低下させる効果がある。両シナリオとも硫酸エアロゾル排出量は技術の進歩により将来大きく削減され、その削減の大きさは同程度となると見込まれている。一方で、温室効果ガス排出量の違いにより、二つのシナリオ間で全球平均気温の上昇に大きな差がある。このため、現在のエアロゾル排出量の大きい地域では、全球平均気温1℃上昇あたりの地表気温の変化にシナリオ間の違いが生じている。
図はRCP2.6とRCP8.5の全球平均気温の上昇量と北極域の海氷面積の関係である。温暖化が進行すると、北極域の海氷が融解し、これまで反射していた日射を海洋が吸収するようになる。その結果、北極域ではさらに気温が上昇し、温暖化が進行したほうが全球平均気温1℃あたりの海氷の減少量が大きい。RCP8.5の方がRCP2.6と比べ全球平均気温の上昇量が大きく、温暖化が進行しているので、全球平均気温1℃あたりの北極域における気温上昇量はRCP8.5の方が大きくなる。