地球温暖化研究プログラム

プロジェクト2地球温暖化に関わる地球規模リスクに関する研究

平成25年度の研究成果

水は人間と社会に欠かせない資源の一つです。私たちは、世界の研究者が共同作業して作った最新の気候シナリオ(将来想定)と社会経済シナリオを使って、起こり得る五つの世界の様相について詳しいシミュレーションを行い、21世紀の世界の水資源と水利用について調べました(図1)。ここで、温暖化によって将来の気温や降水がどれくらい変わるかという気候シナリオは将来の水資源量の見通しに、人口や経済活動、技術が今後どれくらい変わるかという社会経済シナリオは将来の水利用の見通しに大きな影響を与えます。図2は、五つの世界の様相それぞれについて、2050年頃は今より水逼迫に関する指標が改善するか(指標が大きくなると改善)、悪化するか(指標が小さくなると悪化)を示したものです。まずSSP3(分裂の世界)を見ると、アジアやアメリカを含む多くの地域が濃い赤で示されています。これは現在よりも水逼迫がひどく悪化し、必要な時に必要な量の水が得にくくなることを示しています。次にSSP1(持続可能な世界)を見ると、アフリカ以外のほとんどのところは白く示されています。これは、現在から水逼迫が悪化しないことを示しています。ここで、SSP1〜SSP5の全てでアフリカの指標が悪化するのは、温暖化の影響に加え、人口や経済活動の伸びにより、現在は非常に少ない水利用量の急増が避けられないことが原因です。五つの世界の様相のうち、持続可能を目指すSSP1では21世紀中の水逼迫を現在くらいで抑えられること、それ以外では水逼迫が現在よりも悪化することから、温暖化と持続可能社会転換への地球規模の対応が重要だということが示唆されます。現在は、適応策の導入の効果について研究を進めています。

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図1研究に利用したシナリオ

a) 社会経済に関するシナリオ。SSPという名前でSSP1、SSP2、SSP3、SSP4、SSP5の5通りある。それぞれ表1に示すような世界の様相を表しており、緩和や適応の困難さが異なる。b) 温暖化の進行に関するシナリオ。RCPという名前でRCP2.6、RCP4.5、RCP6.0、RCP8.5の4通りある。それぞれ表2に示すように温暖化の進行を表している。c) 社会経済と温暖化の進行に関するシナリオの組み合わせ。気候政策がない場合は温暖化の進行が進むが、気候政策をとる場合は同じ社会経済シナリオでも温暖化の進行を抑えられる、という関係を示している。図はそれぞれ、O’Neill et al. 2012、vanVuuren et al. 2011、Hanasaki et al. 2013を改変して作成した。

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図2水逼迫に関する指標

指標は「必要な時に必要な量の水が得られるか」を0から1の間の値で示している。左上の1枚は2000年のときの指標。赤が濃い(値が小さい)ほど、水逼迫が大きいことを示す。残りの5枚は気候政策を取った場合のSSP1〜SSP5の2050年頃の指標の値を2000年のときと比較したもの。赤(値が負)は水逼迫が悪化することを、青(値が正)は改善することを示す。白は水逼迫が現在と変わらないことを示す。図はHanasaki et al. 2013を改変して作成した。

表1SSPシナリオが描く5つの世界の様相

シナリオの名前 世界の様相
SSP1 持続可能:低所得国の急速な発展と格差の縮小、速い技術進歩、高い環境意識
SSP2 中間的:現在の社会・経済の傾向の延長
SSP3 分裂:地域ブロック化、貧困と人口の増加、遅い技術進歩、環境の破壊と地元の資源の搾取
SSP4 格差:国内・国家間の格差の拡大
SSP5 従来型発展:化石燃料への依存による経済の発展

表2RCPシナリオが描く4つの温暖化の進行

シナリオの名前 温暖化の進行(産業革命前を基準とする)
RCP2.6 放射強制力が21世紀末に2.6W/m2上昇する[注1]
RCP4.5 放射強制力が21世紀末に4.5W/m2上昇する
RCP6.0 放射強制力が21世紀末に6.0W/m2上昇する
RCP8.5 放射強制力が21世紀末に8.5W/m2上昇する[注2]
  • [注1]この場合、全球平均気温の上昇を2℃に抑えられる確率が66%以上となる。
  • [注2]これまでに論文で発表されたあらゆるシナリオの中の上位10%に相当するもので、これまで想定されてきた最大規模の温暖化の進行に相当する。