REPORT2025年3月号 Vol. 35 No. 12(通巻412号)

臨機応変に対応すること:事務職員の海外出張奮闘記vol.3 ~COP29 現地参加報告~

  • 川尻 麻美(地球環境研究センター/衛星観測センター)

はじめに

私は2024年7月1日付で「地球システム領域」に着任しました。その少しあとで後輩が生まれたばかりのお子さんを連れて挨拶に来てくれた時、私から後輩のお子さんに「地球はどう?慣れた?」と質問したところ、キョトンとした顔をされました。私が咄嗟にこのような質問をしたのは、着任してから「地球(システム領域)にはもう慣れた?」と何度も質問を受けてきたためだと思います。「地球(システム領域の業務)にはまだ慣れないですね~」と答える度に、後輩のお子さんは地球(太陽系の惑星の方)にはもう慣れたのかな~と思い起こしています。

さて、私は今まで事務職員として総務や人事など、いわゆるバックオフィス系の部署に配置されてきたため、研究を実施する部署に配属されたのは初めてで、地球(システム領域)の業務を探り探り行っています。そんな中、2024年11月11日(月)から2024年11月16日(土)まで気候変動枠組条約第29回締約国会議 (COP29)という国際会議に参加する機会に恵まれました。この記事では、COP29での出来事を紹介いたします。

概要

2024年11月11日(月)から2024年11月24日(日)(※2日延長)まで、アゼルバイジャン(バクー)において国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)が開催されました。地球システム領域からは、谷本浩志副領域長、衛星観測センターの佐伯田鶴主任研究員、地球大気化学研究室 のUNING Royston特別研究員、川尻の4名が公式展示、会場内ジャパン・パビリオンでのイベントに現地参加しました。また、国立環境研究所(以下、「NIES」)の客員研究員である伊藤昭彦氏からも、主に「Earth Information Day」という気候変動に関する情報交換等を目的としたイベントにて協力を受けました。

写真1 ブルーゾーン※1のエントランス。夜はライトアップされていて綺麗でした。
写真1 ブルーゾーン※1のエントランス。夜はライトアップされていて綺麗でした。

*COP29について、詳細は下記をご覧ください。

COP29への参加の打診~「パスポート持ってます?」~

時は遡り2024年6月某日、私は地球システム領域への異動を命じられ、新しい上長となる地球システム領域長のところへ出向きました。7月1日からお世話になりますと挨拶し、領域長から地球システム領域の現状などについて軽く説明を受けた時に「パスポート持ってます?」と聞かれたところから、私のCOP29は始まりました。私の前任の林しおん係員(以下、林さん。COP27、COP28に参加。)がCOP29への参加に高い意欲を示していたため、参加枠の1つを事務職員が使うことに対してお膳立てされている状況でした。

2024年7月1日(月)に地球システム領域内に挨拶した時も、衛星観測センター長から「パスポートありますか?」と質問されたり、ある人には「あぁ、アゼルバイジャンの・・・」と意味深に呟かれたりしました。林さん、周りに認識されるほど行きたがっていたんだ・・・と思っていましたが、やっぱりそうだったようで、領域長から林さんに会計課に異動することを伝えた時、開口一番「アゼルバイジャン・・・!」だったようです。林さんには申し訳ないですが、これが人事異動。ありがたく参加させていただくこととしました。

ちなみにパスポートは2022年8月の夏季休暇に暇を持て余して更新していました。

*林さんのCOP27、COP28の参加報告はこちらから。

COP29に向けての心構え~「臨機応変」~

COP29に行くことが決まったので、佐伯主任研究員、Royston特別研究員、岩田係員と、誰が何を準備し現地まで持って行くか、現地ではどのように動くか、など打合せを重ねました。驚いたのは、開催まで1ヶ月を切っている中で仕様変更があったりイベントの詳細がまだ決まっていなかったり、というのがざらにあったことです。例えば、主催者側から提供されている公式展示に関するハンドブックでは、USB経由でモニターに動画や画像などが表示できるとされていたのですが、10月28日付で各自のノートPCとつなぐこと、と改正されていたので、急遽持ち物にノートPCを追加することになりました。また、「Earth Information Day」の日程も10月22日に決定しました。

大きな会議ほど関係各所との調整があり、物事が直前に決まることが多々あるので、本番だけではなく、準備期間中も臨機応変に対応することが求められるのだなと思いました。普段の事務の仕事においても、十全に備えられることが一番良いのですが、状況がそれを許さない場合には臨機応変に対応できるよう心構えをしておくことも重要です。今回、COP29に参加し、改めてそう思いました。展示ブースで来場者と話す時、セミナーで写真撮影を行う時、COP29のスタッフ(日本大好き)から「私の名前に漢字をあてはめて!」とお願いされた時、ホテルの浴室の窓が壊れていて空きペットボトルに水を入れ重しにすることで何とか窓を閉じた時など、色んな場面で臨機応変に対応することが求められました。

到着、現地の人とのコミュニケーション

諸々の準備を進め、重量オーバーにならないように荷物を分散させ、佐伯主任研究員、Royston特別研究員と私は羽田空港からCOP29の開催地であるアゼルバイジャン(バクー)へと出発しました(谷本副領域長は別スケジュールでした)。ターキッシュエアラインの機内食がとても美味しかったことと、乗継地のイスタンブール空港で7ユーロの水を買い水の貴重さを思い知ったことくらいしか特記事項は無いので、バクーのヘイダル・アリエフ国際空港に到着したところからお話しします。

現地の空港では、COP29の開催を全面に押し出しています。

写真2 ヘイダル・アリエフ国際空港の預け荷物を引き取るところ
写真2 ヘイダル・アリエフ国際空港の預け荷物を引き取るところ
写真3 空港のトイレの洗面台(こんなところでもCOP29がアピールされていました。)
写真3 空港のトイレの洗面台(こんなところでもCOP29がアピールされていました。)

そして、空港にCOP29のスタッフが待機していました。

写真4 空港のCOP29インフォメーションデスク
写真4 空港のCOP29インフォメーションデスク

会場の最寄り駅付近にもインフォメーションデスクがあったり、駅のホームにもスタッフがいたり、国を挙げてCOP29を開催していると実感しました。どのスタッフに質問してもすぐに回答が返ってきて、とてもありがたかったです。

街中でも、現地の方が親切にしてくださいました。アゼルバイジャンでは「BOLT」という配車アプリが主流ですが、スタート地点の設定を誤ってしまい運転手と合流できなかった時、現地の方が運転手と話をつけてくれて(私のiPhoneを軽やかに手中に収めアゼルバイジャン語でやり取りされていたためその時は何が起こっているのか分からず呆然としてしまいましたが)さらに新しいタクシーを手配してくれたり、どちらのレストランに入ろうか迷っている時に話しかけてくれたり(その方が勧めてくれたレストランにしました。ケバブが美味しかったです)、また別の日にレストランに入ろうか迷っていたらちょうどそのレストランから出てきたお客さんがメニューを教えてくれたり(そのレストランで食事しました。ピラフが美味しかったです)・・・。初めて訪れる国だったので行く前は少々不安でしたが、早々に胃袋と心を掴まれました。

展示

2024年11月11日(月)~2024年11月16日(土)にリモート・センシング技術センター(RESTEC)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、及びNIESの衛星観測センターが合同で展示を出しました。衛星観測センターからはGOSAT(温室効果ガス観測技術衛星)シリーズのポスターと動画を用意しました。この動画の英語字幕のおかげで、佐伯主任研究員やRoyston特別研究員が展示ブースにいない時間帯も何とか来場者に対して説明できました(多分)。GOSATのことを全く知らなかった方からは、宇宙から温室効果ガスを観測するなんてできるんだ?!という反応を得られて、嬉しく思いました。

印象に残ったのは、学生支援団体の方のご質問です。JAXAにインターンシップしたいのだけれども制度はあるか?NIESは大学も持っているのか?(大学とは分かれているのか?)という学生の就職先という観点のご質問でした。若手研究者の確保にもつながる可能性があるのか、とこの時に思い至り、もしまた参加する機会があればNIES自体のアピールも行えればと思いました。展示ブースを巡回していたCOP29のスタッフも、GOSATについて興味津々の方、冬に雪が降らなかったので気候変動に不安を感じているという方、展示ブースに飾っていたGOSATの模型(JAXAが持ち込んだもの)をお土産に欲しいという方(丁重にお断りしました)など、話しかけてくださいました。普段、事務の仕事をしているだけでは直接交流することのない方々と接することができ、GOSATで行っていることを少しでも多くの人に伝えることができたのかな、と思います。

写真5 展示ブース。エントランス~セキュリティチェック~NIESのブースまでたどり着くまで軽いウォーキングをしているような気分でした。展示だけではなくセミナー対応など行ったためかと思いますが、普段の週の平均歩数が約2,000歩のところ、開催期間中の週の平均歩数は約9,500歩でした。
写真5 展示ブース。エントランス~セキュリティチェック~NIESのブースまでたどり着くまで軽いウォーキングをしているような気分でした。展示だけではなくセミナー対応など行ったためかと思いますが、普段の週の平均歩数が約2,000歩のところ、開催期間中の週の平均歩数は約9,500歩でした。
写真6 NIES、RESTEC、JAXAの展示ブース全景。各機関のポスターを掲示し、中央のモニターではそれぞれが作成したビデオをつなげたものを流していました。ポスターボードの幅がハンドブックに記載されていたサイズより狭くボードをはみ出る形で掲示したり、飾り付け用のクロス(和の雰囲気が感じられる装飾用ポスター。日本が好き!という来場者の方も話しかけてくれました。)を切って調整したり、切ったクロスをRoyston特別研究員の提案で手前の柱に巻いたりするなど、準備の段階からその場での対応が求められました。なお、NIESのポスターと動画、装飾用ポスターは地球環境研究センターと衛星観測センターの広報担当者が作成しました。時間がない中での専門職の連携プレーに痺れました。
写真6 NIES、RESTEC、JAXAの展示ブース全景。各機関のポスターを掲示し、中央のモニターではそれぞれが作成したビデオをつなげたものを流していました。ポスターボードの幅がハンドブックに記載されていたサイズより狭くボードをはみ出る形で掲示したり、飾り付け用のクロス(和の雰囲気が感じられる装飾用ポスター。日本が好き!という来場者の方も話しかけてくれました。)を切って調整したり、切ったクロスをRoyston特別研究員の提案で手前の柱に巻いたりするなど、準備の段階からその場での対応が求められました。なお、NIESのポスターと動画、装飾用ポスターは地球環境研究センターと衛星観測センターの広報担当者が作成しました。時間がない中での専門職の連携プレーに痺れました。
写真7 JAXAがGOSATの模型を展示したところ、客寄せパンダに。
写真7 JAXAがGOSATの模型を展示したところ、客寄せパンダに。
写真8 展示ブースで来場者対応を行う川尻。NIESの動画の英語字幕を思い出そうと必死です。(撮影:佐伯主任研究員)
写真8 展示ブースで来場者対応を行う川尻。NIESの動画の英語字幕を思い出そうと必死です。(撮影:佐伯主任研究員)
写真9 展示ブースで来場者対応を行う佐伯主任研究員。専門的なご質問は佐伯主任研究員へ・・・。
写真9 展示ブースで来場者対応を行う佐伯主任研究員。専門的なご質問は佐伯主任研究員へ・・・。
写真10 展示ブースで来場者対応を行うRoyston特別研究員。COPの準備段階から私の英語力に合わせてくれてとてもありがたかったです。
写真10 展示ブースで来場者対応を行うRoyston特別研究員。COPの準備段階から私の英語力に合わせてくれてとてもありがたかったです。

ジャパン・パビリオンでのセミナー

2024年11月14日(木)15:45~(現地時間)、環境省が主催するジャパン・パビリオンにおいて「New Developments of GOSAT Series - Japanese GHG Center and Use of Satellite Data for Business(GOSATシリーズの新たな展開 - 日本版GHGセンターとビジネスへの活用)」と題したセミナーを行いました。地球システム領域からは、谷本副領域長、佐伯主任研究員が登壇しました。セミナーの詳細は、Royston特別研究員の記事(COP29 in Baku: Seminar at Japan Pavillion and Earth Information Day 2024) をご参照ください。私は撮影係として重さ約750gのカメラを抱え、様々な画角から数撃てば当たる方針で写真を撮りまくりました。

写真11 青を基調としたジャパン・パビリオン正面。
写真11 青を基調としたジャパン・パビリオン正面。
写真12 セミナー当日の午前中にPC設定等を確認する佐伯主任研究員とRoyston特別研究員
写真12 セミナー当日の午前中にPC設定等を確認する佐伯主任研究員とRoyston特別研究員

関係者も含め用意されていた約30席はほぼ埋まり、立ち見の人もいました。最後に質問も出て、セミナーは大盛況に終わりました。Zoomウェビナーによる中継では、80名ほどの方々に参加いただきました。

写真13 セミナー開始前の様子。立ち見の人もいます。
写真13 セミナー開始前の様子。立ち見の人もいます。

おわりに

ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
初めてCOPに参加し、展示ブースを訪れる方やセミナーに参加してくださった方からGOSATへの期待度が伝わってきました。また、自分で出張伺書、旅費請求書を作成したので、旅費が精算された時、事務の仕事が研究に関連した業務につながっていることを改めて感じました。

今後も、事務の仕事を適切に行うことで、研究活動に寄与したいと思います。

最後に、日ごろより地球環境研究センター、衛星観測センターの業務にご理解・ご協力いただいている皆様に、改めて心より御礼申し上げます。

写真14
写真15
写真16、写真17
写真14,15,16,17 (おまけ)林さんのCOP27、COP28の参加報告の記事で猫がたくさんいると紹介されていましたが、バクーでも至るところに猫がいました。