REPORT2024年3月号 Vol. 34 No. 12(通巻400号)

自分から動く、学ぶ、吸収する:事務職員の海外出張奮闘記vol.2 ~COP28 現地参加報告~

  • 林しおん(地球環境研究センター/衛星観測センター)

1. はじめに

2023年11月30日(木)から12月13日(水)まで、アラブ首長国連邦(ドバイ)において国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)が開催されました。地球システム領域からは、谷本浩志副領域長、物質循環モデリング・解析研究室の伊藤昭彦主席研究員、衛星観測センターの佐伯田鶴主任研究員、染谷有主任研究員、林の5名が公式展示、公式サイドイベント、会場内ジャパン・パビリオンでのイベントに現地参加しました。

今回は私にとって、前回のCOPに続いて2回目の海外出張。甲子園風に言えば、「2年連続2回目」です。前回との違いや新しい発見、そしてまた新しい反省点、などなど、今回も事務職員の視点から、COP28への参加報告を行います。

写真1 グリーンゾーン*1入り口付近のモニュメント。
写真1 グリーンゾーン*1入り口付近のモニュメント。

2. 到着、入国、会場の様子

COP28の開催地であるドバイは正式名称を「ドバイ首長国」といい、アラブ首長国連邦を構成する7つの首長国の一つです。ドバイはアジアと北アフリカを結ぶ交通の要所でもあり、エジプトで開催されたCOP27に参加した時は、成田→ドバイ→カイロ→シャルム・エル・シェイク、と2回の乗り継ぎの経由地でもありました。今回はそれぞれの担当業務によって入国する日が異なったため、行きは一人渡航でした。私は一人で海外を歩くのも初めて。飛行機に乗り、入国手続きをし、地下鉄に乗って空港からホテルに移動する、そんなことでも緊張してしまいます。

写真2 朝6時前、到着時のドバイ空港。入国し、荷物を受け取っていざメトロへ。(大きな案内板があるので迷わず駅に到達できました。)
写真2 朝6時前、到着時のドバイ空港。入国し、荷物を受け取っていざメトロへ。(大きな案内板があるので迷わず駅に到達できました。)
写真3 ホテル最寄りのメトロ駅(写真右側) 全線全自動運転のドバイメトロ。通勤時間には3分程度の間隔で次の電車が来ます。
写真3 ホテル最寄りのメトロ駅(写真右側) 全線全自動運転のドバイメトロ。通勤時間には3分程度の間隔で次の電車が来ます。

COP28は、2021年10月から2022年3月に開催された「ドバイ万博(Expo 2020 Dubai)」の会場を使用して開催されました。4.38平方キロメートルというその広大な敷地は、目的のセミナー会場までを歩くのも一苦労の広さです。

写真4 会場に入るための名札を受け取って中に入ると、各国の国旗が立ち並ぶゾーンが目に入ります。奥の丸い建物の手前がブルーゾーン、グリーンゾーンは更にその奥にあります。
写真4 会場に入るための名札を受け取って中に入ると、各国の国旗が立ち並ぶゾーンが目に入ります。奥の丸い建物の手前がブルーゾーン、グリーンゾーンは更にその奥にあります。
写真5 ずらりと並ぶ展示ブース。至るところに様々なオブジェやモニュメント、奇抜な形をした建物がありました。
写真5 ずらりと並ぶ展示ブース。至るところに様々なオブジェやモニュメント、奇抜な形をした建物がありました。

3. 公式展示ブース出展 -佐伯主任研究員より報告-

今回の展示ブースは、12月1日から6日にかけて、リモート・センシング技術センター(RESTEC)、地球環境戦略研究機関(IGES)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、及び国立環境研究所(以下、国環研)、さらに国環研内からも衛星観測センター、気候変動適応センター、社会システム領域という4機関6部署の合同出展となりました。各機関のポスターを掲示するとともに、それぞれが作成したビデオをつなげたものをモニターに常時上映しました。COPの展示ブースは屋内に設置されることが多いそうですが、今回は歩道に面した屋外での展示となりました。季節はドバイの冬の始まり、といっても日中の気温は30度近くまで上がり日差しが強いため、日中はなるべく日差しを避けての展示説明となりました。

ブースにいた間には、欧州宇宙機関(ESA)や世界気象機関(WMO)の研究者や「リモートセンシングに興味があるので来てみました」という方、「給料が出るインターンシップはありますか?」という方など、普段参加する国際学会では出会えないような政府やNGO関係者、他分野の研究者から学生までいろいろな方と交流することができました。研究者以外の方からは、GOSAT観測の濃度データのマップをクリックするとその国の濃度が見られるようなツールはあるか?GOSAT-GWではオイルやガスからリークするメタンを検出するサービスを提供するのか?などという質問もありました。展示ブース説明担当の合間に各国・各組織パビリオンでのイベントも見てまわりましたが、衛星によるメタン濃度観測のイベントが多い印象を受け、衛星観測からメタンの漏洩検知をしようとする動きが2022年のCOP27よりもさらに強まってきているなと感じました。2024年度打ち上げ予定のGOSAT-GWでは、回折格子型のイメージングセンサにより、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、二酸化窒素を面的に観測できる予定ですが、このような要望に応えられるか、今から身が引き締まる思いです。

写真6 展示ブース全景。正面奥のモニターでビデオを上映し、両側の壁面に各機関のポスターを掲示しました。
写真6 展示ブース全景。正面奥のモニターでビデオを上映し、両側の壁面に各機関のポスターを掲示しました。
写真7  衛星観測センターからは、2024年度打ち上げ予定*2のGOSAT-GW衛星のバナースタンド、GOSAT/GOSAT-2の長期観測を紹介するポスター等を展示しました。
写真7 衛星観測センターからは、2024年度打ち上げ予定*2のGOSAT-GW衛星のバナースタンド、GOSAT/GOSAT-2の長期観測を紹介するポスター等を展示しました。
写真8 温室効果ガス観測技術衛星GOSATの成果について来場者に説明する佐伯主任研究員。アフリカのとある国からいらっしゃった方と、GOSAT観測から得られた全球CO2濃度分布を見ながら「その国の上空のCO2濃度は…」という会話をしているところです。
写真8 温室効果ガス観測技術衛星GOSATの成果について来場者に説明する佐伯主任研究員。アフリカのとある国からいらっしゃった方と、GOSAT観測から得られた全球CO2濃度分布を見ながら「その国の上空のCO2濃度は…」という会話をしているところです。

4. ジャパン・パビリオンでのセミナー

12月9日(土)10:30~(現地時間)、環境省が主催するジャパン・パビリオンにおいて「Contribution of GOSAT series satellites to Greenhouse Gas and Air Pollutant observations for Sustainable Development(GOSATシリーズ衛星による温室効果ガスと大気汚染観測の持続可能な開発への貢献)」と題したセミナーを行いました。地球システム領域からは、谷本副領域長、伊藤主席研究員、佐伯主任研究員、染谷主任研究員が登壇しました。

(左)写真9 ジャパン・パリビオンで開催したセミナーの主催機関紹介スライド。(右)写真10 同イベントのアジェンダ。
(左)写真9 ジャパン・パリビオンで開催したセミナーの主催機関紹介スライド。
(右)写真10 同イベントのアジェンダ。

気候変動の要因として、温室効果ガス(GHGs: CO2、CH4、亜酸化窒素(N2O))の近年の濃度増加はよく知られていますが、オゾン(O3)やエアロゾルなどの短寿命気候強制因子(SLCFs)*3の変動も重要です。またこれらは光化学スモッグの原因物質となったり、呼吸器系の健康障害を引き起こしたりすることも懸念されています。本セミナーでは、重要度の高いGHGs等の濃度変動の把握や排出量推定に対し日本の衛星GOSATシリーズ(GOSAT, GOSAT-2, GOSAT-GW)が担ってきた役割・貢献とその将来展望について発表し、さらに、SLCFsの動態把握の重要性と、排出削減による気候と健康のコベネフィットについて解説しました。

写真11 冒頭、環境省 松澤裕地球環境審議官よりご挨拶いただきました。
写真11 冒頭、環境省 松澤裕地球環境審議官よりご挨拶いただきました。
写真12 パネルディスカッションの様子。左から、染谷主任研究員、小田知宏上席研究員(米国Universities Space Research Association (USRA)/メリーランド大学・客員教授)、金谷有剛地球表層システム研究センター長(海洋研究開発機構)、Prabir Patra上席研究員(海洋研究開発機構/総合地球環境学研究所 (RIHN)・教授)、渡邉正孝機構教授(中央大学)、Batjargal Zamba Science Advisor,(モンゴル気象水文研究所/前モンゴル気候変動特使)、Sattor Saidov Head(タジキスタン共和国環境保護委員会水文気象庁気候変動・オゾン層研究センター)
写真12 パネルディスカッションの様子。左から、染谷主任研究員、小田知宏上席研究員(米国Universities Space Research Association (USRA)/メリーランド大学・客員教授)、金谷有剛地球表層システム研究センター長(海洋研究開発機構)、Prabir Patra上席研究員(海洋研究開発機構/総合地球環境学研究所 (RIHN)・教授)、渡邉正孝機構教授(中央大学)、Batjargal Zamba Science Advisor,(モンゴル気象水文研究所/前モンゴル気候変動特使)、Sattor Saidov Head(タジキスタン共和国環境保護委員会水文気象庁気候変動・オゾン層研究センター)

COP27の各国パビリオンはオープンなスペースになっていて、横を通った人にふと立ち寄ってもらえるような形でした。しかし今回はそれぞれのパビリオンが建物の1室を丸ごと使う形で、外からの入り口は扉一つしかありません。土曜日の朝1番のイベント、集客の心配もありましたが、関係者も含め用意されていた約30席はほぼすべて埋まり、質疑応答含め充実したイベントとなりました。またZoomウェビナーで中継も行い、そちらからも30名強の方々にご参加いただきました。

(左)写真13 COP27のジャパン・パビリオン。奥には別の団体のパビリオンが見えます。立ち寄りやすいというメリットの反面、同時にイベントを行うと声が重なってしまい聞こえにくいというデメリットもありました。(写真提供:佐伯)(右)写真14 COP28のジャパン・パビリオン入口。「ジャパン・パビリオンに行こう、入ろう」と思わなければ立ち寄らない構造です。
(左)写真13 COP27のジャパン・パビリオン。奥には別の団体のパビリオンが見えます。立ち寄りやすいというメリットの反面、同時にイベントを行うと声が重なってしまい聞こえにくいというデメリットもありました。(写真提供:佐伯)
(右)写真14 COP28のジャパン・パビリオン入口。「ジャパン・パビリオンに行こう、入ろう」と思わなければ立ち寄らない構造です。
写真15 イベント終了後、登壇者と関係者、さらに参加者数名も加わった集合写真。
写真15 イベント終了後、登壇者と関係者、さらに参加者数名も加わった集合写真。

5. 公式サイドイベント

12月10日(日)16:45~(現地時間)COP公式サイドイベント会場(ROOM 9)において、「Earth observations in support of mitigation actions towards the Paris climate goal and SDGs」と題したサイドイベントを実施しました。

(左)写真16 サイドイベント用チラシ。(右)写真17 サイドイベント登壇者一覧。
(左)写真16 サイドイベント用チラシ。
(右)写真17 サイドイベント登壇者一覧。

人工衛星や航空機、船舶、地上観測サイト等のプラットフォームからの地球観測は、気候や環境の変化を監視し、環境問題や地球温暖化の緩和政策に資する情報を提供する上で重要な役割を果たしています。このイベントでは、現在までに実施されている温室効果ガスやSLCFsの衛星観測や現場観測の事例に基づき、地球観測の重要性や排出量推定への応用、グローバル・ストックテイクへの貢献について発表しました。また、温室効果ガスのさらなる監視に向けて、今後打ち上げ予定の日本のGOSAT-GW衛星やWMOの新しい取り組みであるGlobal Greenhouse Gas Watch(GGGW)を紹介し、これらの地球観測を利用した、温室効果ガスやSLCFsの排出削減目標や気候緩和・適応策への貢献、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)に向けた貢献を議論しました。

写真18 冒頭、環境省 水谷好洋国際脱炭素移行推進・環境インフラ担当参事官よりご挨拶いただきました。
写真18 冒頭、環境省 水谷好洋国際脱炭素移行推進・環境インフラ担当参事官よりご挨拶いただきました。
写真19 左から、谷本副領域長、染谷主任研究員、佐伯主任研究員、小田上席研究員、Oksana Tarasova Senior Scientific Officer(WMO)、Paul Palmer教授(University of Edinburgh)。
写真19 左から、谷本副領域長、染谷主任研究員、佐伯主任研究員、小田上席研究員、Oksana Tarasova Senior Scientific Officer(WMO)、Paul Palmer教授(University of Edinburgh)。
写真20 前回同様、オンラインで登壇いただいたGeorge Hurtt教授(University of Maryland)。
写真20 前回同様、オンラインで登壇いただいたGeorge Hurtt教授(University of Maryland)。
写真21 パネルディスカッションの様子。参加者から時間ギリギリまでたくさんの質問が飛びました。
写真21 パネルディスカッションの様子。参加者から時間ギリギリまでたくさんの質問が飛びました。
写真22  Jeffrey Isaacson President and CEO(米国USRA)によるクロージング。
写真22 Jeffrey Isaacson President and CEO(米国USRA)によるクロージング。
写真23 セミナー終了後の集合写真。持ち時間ギリギリまで質問があり、ステージを次のセミナー担当者に引き渡す必要があったため、急いで退室。外での撮影となりました。
写真23 セミナー終了後の集合写真。持ち時間ギリギリまで質問があり、ステージを次のセミナー担当者に引き渡す必要があったため、急いで退室。外での撮影となりました。

こちらも2週目の日曜夕方というあまり人の集まらない条件下での開催でしたが、現地では20名ほどの方々にご参加いただき、特に後半のパネルディスカッションでは活発なやり取りがありました。また前回同様サイドイベントの様子はCOP公式YouTubeチャンネルでも配信されており、2024/1/4時点で100回以上再生されています。その他、国連公式ウェブサイトでもライブで配信されました。

今回は、イベント開始直前になってもオンライン登壇者のためのURLが届かない、という大きなハプニングもありましたが、つくばからも松永衛星観測センター長にサポートいただき(つくばからオンラインで現地スタッフとやり取り)、無事開始、遂行することができました。

アーカイブ映像 UN Climate Change – Events公式YouTubeチャンネル:
https://www.youtube.com/watch?v=u27_Rk3Z6wI

6. おわりに

前回のこのCOP参加報告のタイトルは『「人生初」尽くしの国際会議:事務職員の役割を考える海外出張』でした。初めてのワクワクと共に、「指示されたことを行う」にとどまっていた気がします。もちろん前回はまず最低限の役割を全う、ということでよかったのだと思いますが、今回は2回目。「自分から行動する」という点を意識しました。

よかった点としては、会場内を散策し、他のパビリオンに入って話をしたり、聞いたり、前回より積極的に行動できたことです。(前回は基本的に誰かにずっと付いて移動。)会話と言っても専門的なことではなく「どこからきたの?」「日本から来ました。ここは何のパビリオンですか?」「ここはね…」のような、いたって一般的な会話ばかりでしたが、それでも聞かれたことに答えるのみだった前回より成長した気がします。

反省点としては、サイドイベント時のテクニカルスタッフとのやり取りなど、緊急時の対応力に欠けていたことです。英語のやりとりへの自信のなさから、自分でもできたかもしれない対応も研究者にお願いしてしまいました。ああいった場で正しくやり取りができる力を身に付け、次の機会には落ち着いて対応できるよう準備したいと思います。

最後に、日ごろより地球環境研究センター、衛星観測センターの業務にご理解・ご協力いただいている皆様に、改めて心より御礼申し上げます。引き続き事務職員としての役割を果たしつつ、更に貢献の場を広げられるよう努めてまいります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

写真24,25,26 (おまけ)ドバイでもいたるところにいた猫。カメラを向けると近づいてくるが、もちろん触らず、適切な距離を保ちつつ…(写真提供(左):佐伯)
写真24,25,26 (おまけ)ドバイでもいたるところにいた猫。カメラを向けると近づいてくるが、もちろん触らず、適切な距離を保ちつつ…(写真提供(左):佐伯)

衛星観測センターウェブサイト:https://www.nies.go.jp/soc/
GOSATプロジェクトウェブサイト:https://www.gosat.nies.go.jp/
GOSAT-2プロジェクトウェブサイト:https://www.gosat-2.nies.go.jp/jp/
GOSAT-GWプロジェクトウェブサイト:https://gosat-gw.nies.go.jp/index.html