自分から動く、学ぶ、吸収する:事務職員の海外出張奮闘記vol.2 ~COP28 現地参加報告~
1. はじめに
2023年11月30日(木)から12月13日(水)まで、アラブ首長国連邦(ドバイ)において国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)が開催されました。地球システム領域からは、谷本浩志副領域長、物質循環モデリング・解析研究室の伊藤昭彦主席研究員、衛星観測センターの佐伯田鶴主任研究員、染谷有主任研究員、林の5名が公式展示、公式サイドイベント、会場内ジャパン・パビリオンでのイベントに現地参加しました。
今回は私にとって、前回のCOPに続いて2回目の海外出張。甲子園風に言えば、「2年連続2回目」です。前回との違いや新しい発見、そしてまた新しい反省点、などなど、今回も事務職員の視点から、COP28への参加報告を行います。
2. 到着、入国、会場の様子
COP28の開催地であるドバイは正式名称を「ドバイ首長国」といい、アラブ首長国連邦を構成する7つの首長国の一つです。ドバイはアジアと北アフリカを結ぶ交通の要所でもあり、エジプトで開催されたCOP27に参加した時は、成田→ドバイ→カイロ→シャルム・エル・シェイク、と2回の乗り継ぎの経由地でもありました。今回はそれぞれの担当業務によって入国する日が異なったため、行きは一人渡航でした。私は一人で海外を歩くのも初めて。飛行機に乗り、入国手続きをし、地下鉄に乗って空港からホテルに移動する、そんなことでも緊張してしまいます。
COP28は、2021年10月から2022年3月に開催された「ドバイ万博(Expo 2020 Dubai)」の会場を使用して開催されました。4.38平方キロメートルというその広大な敷地は、目的のセミナー会場までを歩くのも一苦労の広さです。
3. 公式展示ブース出展 -佐伯主任研究員より報告-
今回の展示ブースは、12月1日から6日にかけて、リモート・センシング技術センター(RESTEC)、地球環境戦略研究機関(IGES)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、及び国立環境研究所(以下、国環研)、さらに国環研内からも衛星観測センター、気候変動適応センター、社会システム領域という4機関6部署の合同出展となりました。各機関のポスターを掲示するとともに、それぞれが作成したビデオをつなげたものをモニターに常時上映しました。COPの展示ブースは屋内に設置されることが多いそうですが、今回は歩道に面した屋外での展示となりました。季節はドバイの冬の始まり、といっても日中の気温は30度近くまで上がり日差しが強いため、日中はなるべく日差しを避けての展示説明となりました。
ブースにいた間には、欧州宇宙機関(ESA)や世界気象機関(WMO)の研究者や「リモートセンシングに興味があるので来てみました」という方、「給料が出るインターンシップはありますか?」という方など、普段参加する国際学会では出会えないような政府やNGO関係者、他分野の研究者から学生までいろいろな方と交流することができました。研究者以外の方からは、GOSAT観測の濃度データのマップをクリックするとその国の濃度が見られるようなツールはあるか?GOSAT-GWではオイルやガスからリークするメタンを検出するサービスを提供するのか?などという質問もありました。展示ブース説明担当の合間に各国・各組織パビリオンでのイベントも見てまわりましたが、衛星によるメタン濃度観測のイベントが多い印象を受け、衛星観測からメタンの漏洩検知をしようとする動きが2022年のCOP27よりもさらに強まってきているなと感じました。2024年度打ち上げ予定のGOSAT-GWでは、回折格子型のイメージングセンサにより、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、二酸化窒素を面的に観測できる予定ですが、このような要望に応えられるか、今から身が引き締まる思いです。
4. ジャパン・パビリオンでのセミナー
12月9日(土)10:30~(現地時間)、環境省が主催するジャパン・パビリオンにおいて「Contribution of GOSAT series satellites to Greenhouse Gas and Air Pollutant observations for Sustainable Development(GOSATシリーズ衛星による温室効果ガスと大気汚染観測の持続可能な開発への貢献)」と題したセミナーを行いました。地球システム領域からは、谷本副領域長、伊藤主席研究員、佐伯主任研究員、染谷主任研究員が登壇しました。
気候変動の要因として、温室効果ガス(GHGs: CO2、CH4、亜酸化窒素(N2O))の近年の濃度増加はよく知られていますが、オゾン(O3)やエアロゾルなどの短寿命気候強制因子(SLCFs)*3の変動も重要です。またこれらは光化学スモッグの原因物質となったり、呼吸器系の健康障害を引き起こしたりすることも懸念されています。本セミナーでは、重要度の高いGHGs等の濃度変動の把握や排出量推定に対し日本の衛星GOSATシリーズ(GOSAT, GOSAT-2, GOSAT-GW)が担ってきた役割・貢献とその将来展望について発表し、さらに、SLCFsの動態把握の重要性と、排出削減による気候と健康のコベネフィットについて解説しました。
COP27の各国パビリオンはオープンなスペースになっていて、横を通った人にふと立ち寄ってもらえるような形でした。しかし今回はそれぞれのパビリオンが建物の1室を丸ごと使う形で、外からの入り口は扉一つしかありません。土曜日の朝1番のイベント、集客の心配もありましたが、関係者も含め用意されていた約30席はほぼすべて埋まり、質疑応答含め充実したイベントとなりました。またZoomウェビナーで中継も行い、そちらからも30名強の方々にご参加いただきました。
5. 公式サイドイベント
12月10日(日)16:45~(現地時間)COP公式サイドイベント会場(ROOM 9)において、「Earth observations in support of mitigation actions towards the Paris climate goal and SDGs」と題したサイドイベントを実施しました。
人工衛星や航空機、船舶、地上観測サイト等のプラットフォームからの地球観測は、気候や環境の変化を監視し、環境問題や地球温暖化の緩和政策に資する情報を提供する上で重要な役割を果たしています。このイベントでは、現在までに実施されている温室効果ガスやSLCFsの衛星観測や現場観測の事例に基づき、地球観測の重要性や排出量推定への応用、グローバル・ストックテイクへの貢献について発表しました。また、温室効果ガスのさらなる監視に向けて、今後打ち上げ予定の日本のGOSAT-GW衛星やWMOの新しい取り組みであるGlobal Greenhouse Gas Watch(GGGW)を紹介し、これらの地球観測を利用した、温室効果ガスやSLCFsの排出削減目標や気候緩和・適応策への貢献、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)に向けた貢献を議論しました。
こちらも2週目の日曜夕方というあまり人の集まらない条件下での開催でしたが、現地では20名ほどの方々にご参加いただき、特に後半のパネルディスカッションでは活発なやり取りがありました。また前回同様サイドイベントの様子はCOP公式YouTubeチャンネルでも配信されており、2024/1/4時点で100回以上再生されています。その他、国連公式ウェブサイトでもライブで配信されました。
今回は、イベント開始直前になってもオンライン登壇者のためのURLが届かない、という大きなハプニングもありましたが、つくばからも松永衛星観測センター長にサポートいただき(つくばからオンラインで現地スタッフとやり取り)、無事開始、遂行することができました。
アーカイブ映像 UN Climate Change – Events公式YouTubeチャンネル:
https://www.youtube.com/watch?v=u27_Rk3Z6wI
6. おわりに
前回のこのCOP参加報告のタイトルは『「人生初」尽くしの国際会議:事務職員の役割を考える海外出張』でした。初めてのワクワクと共に、「指示されたことを行う」にとどまっていた気がします。もちろん前回はまず最低限の役割を全う、ということでよかったのだと思いますが、今回は2回目。「自分から行動する」という点を意識しました。
よかった点としては、会場内を散策し、他のパビリオンに入って話をしたり、聞いたり、前回より積極的に行動できたことです。(前回は基本的に誰かにずっと付いて移動。)会話と言っても専門的なことではなく「どこからきたの?」「日本から来ました。ここは何のパビリオンですか?」「ここはね…」のような、いたって一般的な会話ばかりでしたが、それでも聞かれたことに答えるのみだった前回より成長した気がします。
反省点としては、サイドイベント時のテクニカルスタッフとのやり取りなど、緊急時の対応力に欠けていたことです。英語のやりとりへの自信のなさから、自分でもできたかもしれない対応も研究者にお願いしてしまいました。ああいった場で正しくやり取りができる力を身に付け、次の機会には落ち着いて対応できるよう準備したいと思います。
最後に、日ごろより地球環境研究センター、衛星観測センターの業務にご理解・ご協力いただいている皆様に、改めて心より御礼申し上げます。引き続き事務職員としての役割を果たしつつ、更に貢献の場を広げられるよう努めてまいります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
衛星観測センターウェブサイト:https://www.nies.go.jp/soc/
GOSATプロジェクトウェブサイト:https://www.gosat.nies.go.jp/
GOSAT-2プロジェクトウェブサイト:https://www.gosat-2.nies.go.jp/jp/
GOSAT-GWプロジェクトウェブサイト:https://gosat-gw.nies.go.jp/index.html