【最新の研究成果】 フィリピン・バーゴスにおける成層圏エアロゾルのライダー観測 -2017年8月のカナダ大規模森林火災起源成層圏煙粒子について-
温室効果ガス観測技術衛星GOSATシリーズの検証のために、2017年1月からフィリピン・ルソン島北西部のバーゴス(Burgos)において高分解能フーリエ変換分光計とライダーの観測を開始した。バーゴスサイトは全量炭素カラム観測ネットワーク(TCCON)の一翼を担っている。
バーゴスにおける2017~2023年のライダー観測から、2017年8月のカナダ北西部の大規模森林火災に伴う火災積乱雲(PyroCb)*1や2019年6月の千島列島のライコケ火山や2022年1月のフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ海底火山の爆発によって成層圏エアロゾルが増加していることが分かった。ライダーの偏光解消度の観測から、噴火に伴って増加したエアロゾルは亜硫酸ガスから生成された硫酸粒子であると推定される。ここでは、カナダ森林火災に伴う火災積乱雲で注入された成層圏煙粒子の観測結果について述べる。

図1はバーゴスのライダーで観測された2017年9月25日~27日の全偏光解消度TDR*2の高度・時間断面図である。TDRはパーセント表示でそのカラースケールを図の右端に表示している。高度10~18 km付近のTDRが黄緑から橙色は巻雲を示す。高度18~20.5 kmの黄色の長方形で囲った青色の部分は非球形の粒子の存在を示している。9月25日の18時7分から26日の5時44分までのライダー観測から求めた高度18.24 kmの後方散乱比BSR*3は1.20で粒子の偏光解消度PDR*4は0.15であった。粒子による後方散乱は大気分子(空気)の後方散乱に比べて20%でそれほど大きくはないが、観測された粒子のPDRの値は硫酸液滴のPDRの値が0.01程度あることを考えると非常に大きいことが分かる。この粒子が2017年8月12日に発生したカナダ森林火災による火災積乱雲(PyroCb)によって成層圏に注入された煙粒子ではあることは、8月21日にドイツのライプツィヒ、24日にフランスのオートプロバンス、31日に日本の佐賀の各ライダーで非球形の粒子が北から順に観測されていることから推察される。この成層圏の煙粒子はバーゴスでは2018年4月2日まで観測された。
今回、バーゴスで観測された煙粒子は濃くはなかったが、2020年1月のオーストラリアの大規模森林火災に伴う成層圏煙粒子の濃度はニュージーランド・ローダー(Lauder)のライダー観測から非常に濃い(BSR=3.7)ことが分かっている。煙粒子は太陽光を吸収して周囲の空気を温め上昇していくことから成層圏に長く滞在し、硫酸粒子と同じくオゾン層に影響を及ぼすことが最近の研究から分かってきた。今後、地球温暖化が進むと大規模森林火災に伴う火災積乱雲による成層圏の煙粒子の増加も懸念されることから、ライダーによる成層圏煙エアロゾルの監視が望まれる。なお、佐賀及びローダーともTCCONサイトに含まれるとともにGOSATシリーズの検証観測サイトである。