RESULT2025年3月号 Vol. 35 No. 12(通巻412号)

【最新の研究成果】 CO2とメタンや一酸化二窒素など非CO2温室効果ガスの削減が気候変動対策に重要な理由

  • Irina Melnikova(地球システム領域地球システムリスク解析研究室 特別研究員)
  • 横畠 徳太(地球システム領域地球システムリスク解析研究室 主幹研究員)
  • 塩竈 秀夫(地球システム領域地球システムリスク解析研究室 室長)
  • 田中 克政(地球システム領域地球システムリスク解析研究室 主任研究員; フランス気候環境科学研究所(LSCE; Laboratoire des Sciences du Climat et de l'Environnement))
  • 立入 郁(海洋研究開発機構 環境変動予測研究センター)

この研究では、最先端の地球システムモデルを用いて、二酸化炭素(CO2)および非CO2ガスの濃度が増加または減少するシナリオに基づき、気候と炭素循環の変化をシミュレーションしました。私たちの新たな分析により、CO2だけではなくメタンや亜酸化窒素などの非CO2温室効果ガスを合わせて削減することで、気候変動対策がより効果的になる可能性があることが明らかになりました。

一般にCO2と他の温室効果ガスは地球が放出する熱(赤外線)を吸収し、地表を加熱する効果(温室効果)を持ちますが、陸域や海洋における炭素吸収への影響が異なります。

CO2濃度の増加は、2つの役割を果たします。CO2濃度の増加は、陸域と海洋でのCO2の吸収効率を高めます。CO2濃度の増加によって、陸域では植物成長が促進されることでCO2の吸収効率が高まります(CO2肥沃化)。海洋ではガスの溶解効率が高まることでCO2の吸収効率が高まります(溶解ポンプ)。この一方でCO2濃度の増加は、温室効果によって地表気温の上昇をもたらすことで、陸域と海洋におけるCO2吸収効率を低下させます(図1a)。一般に前者の効果は後者の効果を上回るため、CO2濃度の増加は、気温上昇とともに炭素吸収の増加をもたらします。このため、CO2濃度が低下すると、気温上昇を抑制することはできますが、同時にCO2の吸収効率も減少してしまうために、陸地や海洋での炭素吸収量が減少してしまうことになります(図1b)。

この一方で非CO2温室効果ガス濃度の増加は、CO2肥沃化や溶解ポンプを強化することなく、気温上昇をひきおこすことで、CO2吸収効率の低下をもたらします(図1c)。このため、非CO2温室効果ガス濃度の減少は、温暖化を抑制するとともに、CO2の吸収効率を向上させることにより、気候対策全体の効果を高めることが期待できます(図1d)。

図1. (a) CO2濃度の上昇、(b) CO2濃度の低下、(c) 非CO2温室効果ガス濃度の上昇、(d) 非CO2温室効果ガス濃度の低下が、気候と炭素循環に与える影響の模式図。
図1. (a) CO2濃度の上昇、(b) CO2濃度の低下、(c) 非CO2温室効果ガス濃度の上昇、(d) 非CO2温室効果ガス濃度の低下が、気候と炭素循環に与える影響の模式図。

この研究ではさらに、気候変動に伴う炭素循環の変化を、新しい枠組みを利用して分析しています。この分析では炭素循環の変化を、(1)CO2濃度上昇によって生じる炭素循環の変化、(2)気温上昇によって生じる炭素循環の変化、(3)CO2濃度と気温の上昇によって生じる炭素循環の変化、の3つの要素に分離しました。これまでの研究では上記(3)について詳しく分析されてきませんでしたが、この(3)の効果、すなわち複合効果は最も複雑なメカニズムを持ち、CO2濃度の変化と気温の変化が相互に作用して地球規模の炭素吸収に影響を与える可能性があります。例えば、CO2濃度と気温が上昇した場合(図2c, 黒)には、CO2濃度が上昇せずに気温だけ上昇する場合(図2c, 赤)よりも、温度上昇に伴う海洋の二酸化炭素吸収効果が低下します。これは、前者の場合には海洋に二酸化炭素が蓄積されるため、気温上昇に伴う海洋からの二酸化炭素放出量がより大きくなるためです。

図2. この研究では、CO2と非CO2温室効果ガス濃度を0-50年で増加させ(温室効果濃度上昇期、実線)、50-100年で低下させ(温室効果ガス濃度減少期、破線)、100-150年で一定値で安定化(温室効果ガス安定化期、点線)させている。シミュレーションで与えたCO2と非CO2温室効果ガス濃度は、実験開始時期と安定化期では産業革命前の濃度、50年(濃度のピーク時)では、産業革命前と比較して温室効果による地表の加熱効果(放射強制力)が2 Wm-2程度(産業革命前から現在までの放射強制力と同程度)となるように調整している。図は、理想化されたシナリオにおける(a) CO₂と非CO₂温室効果ガスの放射強制力による全球平均表面気温の変化(℃), (b) 陸上および (c) 海洋の累積炭素吸収量 (GtC) を示している。黒はCO₂濃度変化による影響を、赤は非CO₂濃度変化による影響を表している。図2のパネルbおよびcでは、気温変化が炭素吸収量に与える影響、および「複合的な影響」(CO₂濃度変化と気温変化が同時に炭素吸収量に影響を与える場合)を示している。一方で、陸上のCO2肥沃化や海洋の溶解ポンプによる炭素吸収量は含まれていない。
図2. この研究では、CO2と非CO2温室効果ガス濃度を0-50年で増加させ(温室効果濃度上昇期、実線)、50-100年で低下させ(温室効果ガス濃度減少期、破線)、100-150年で一定値で安定化(温室効果ガス安定化期、点線)させている。シミュレーションで与えたCO2と非CO2温室効果ガス濃度は、実験開始時期と安定化期では産業革命前の濃度、50年(濃度のピーク時)では、産業革命前と比較して温室効果による地表の加熱効果(放射強制力)が2 Wm-2程度(産業革命前から現在までの放射強制力と同程度)となるように調整している。図は、理想化されたシナリオにおける(a) CO2と非CO2温室効果ガスの放射強制力による全球平均表面気温の変化(℃), (b) 陸上および (c) 海洋の累積炭素吸収量 (GtC) を示している。黒はCO2濃度変化による影響を、赤は非CO2濃度変化による影響を表している。図2のパネルbおよびcでは、気温変化が炭素吸収量に与える影響、および「複合的な影響」(CO2濃度変化と気温変化が同時に炭素吸収量に影響を与える場合)を示している。一方で、陸上のCO2肥沃化や海洋の溶解ポンプによる炭素吸収量は含まれていない。

私たちの研究が示すように、CO2と非CO2温室効果ガスの増減は、炭素循環に大きな影響を及ぼします。私たち科学者が地球の炭素循環の仕組みについて理解し、地球の炭素吸収源を保護するための知見を提供ことにより、政策決定者がより効果的な気候対策を設計することに貢献できると考えています。