RESULT2025年3月号 Vol. 35 No. 12(通巻412号)

【最新の研究成果】 機械学習モデルにより土壌有機物分解の変動特性を解析

  • 高橋 善幸(地球システム領域陸域モニタリング推進室 室長)
  • 孫 力飛(地球システム領域陸域モニタリング推進室 特別研究員)
  • 梁 乃申(地球システム領域 シニア研究員)

土壌呼吸(Rs: Soil Respiration)は土壌中の微生物による土壌有機物の分解(Rh: Heterotrophic Respiration; 従属栄養呼吸)と植物の根が呼吸すること(Ra: Autotrophic Respiration; 独立栄養呼吸)で発生するCO2の放出です。土壌中には大気中のCO2の2倍以上の炭素が土壌有機物として蓄積されており、地球温暖化に伴いその土壌有機物の分解が促進されることによって温暖化がさらに加速されること(フィードバック効果)が懸念されています。

土壌の従属栄養呼吸の正確な推定は、土壌呼吸から独立栄養呼吸を分離し、土壌炭素収支を定量化するために不可欠です。本研究では、北海道の未成熟な落葉広葉樹林において2年間にわたって5つの自動チャンバーで測定した1時間ごとの従属栄養呼吸データに基づき、0.09haの面積における従属栄養呼吸の時空間変動を、ランダムフォレスト(RF)および勾配ブースティングマシン(GBM)を用いた機械学習(ML)によりモデル化しました。土壌温度、土壌水分、土壌のかさ密度、土壌の炭素/窒素比、風速、およびリター蓄積量といった説明変数を使用したMLモデルを用いた結果は、土壌温度および/または土壌水分を使用した従来の回帰モデルや、MLモデルと同じ変数を使用した多重線形回帰モデルによる結果よりもはるかに優れていました。さらに、すべての変数組み合わせにおいて、RFモデルはGBMモデルよりも優れた結果を示しました。RFモデルによると、土壌温度は変数の中では従属栄養呼吸の変動に最も高い重要性を示し、次にかさ密度が続きました。RFモデルは、欠測となっている従属栄養呼吸データの補間や土壌呼吸から独立栄養呼吸を正確な分離する有望な手法であることが示されました。本研究成果は地球環境研究センターが実施している森林生態系炭素収支モニタリングの拠点のひとつである国立環境研究所苫小牧フラックスリサーチサイトにおいて国立環境研究所が独自に開発しアジアの広域に展開している大型自動開閉チャンバーシステムにより得られた成果です。

図1. 2021から2022にかけて2年間の生育期における日平均(a)土壌温度、(b)土壌水分飽和度(WFPS)、および(c)従属栄養呼吸の季節変化を示します。陰影部分は5つのチャンバーにおける標準偏差を表します。
図1. 2021から2022にかけて2年間の生育期における日平均(a)土壌温度、(b)土壌水分飽和度(WFPS)、および(c)従属栄養呼吸の季節変化を示します。陰影部分は5つのチャンバーにおける標準偏差を表します。
写真1 国立環境研が開発した大型自動開閉チャンバーシステム。森林の林床に多数配置し、異なる処理(根の侵入を排除したり、下層植生を中に含めるなど)を行ったグループを比較することで、土壌中のCO2発生源毎の寄与を分離評価することを可能としています。
写真1 国立環境研が開発した大型自動開閉チャンバーシステム。森林の林床に多数配置し、異なる処理(根の侵入を排除したり、下層植生を中に含めるなど)を行ったグループを比較することで、土壌中のCO2発生源毎の寄与を分離評価することを可能としています。
写真2 本研究で使われているデータが集積された2022年夏の苫小牧フラックスリサーチサイトの様子。2004年9月の台風でもともとあったカラマツがほとんど倒れてしまいましたが、その後、植生の自然更新が進んでいます。最初は草本植物が優占していましたが、最近はシラカンバの成長が顕著となっており、樹高10m近い個体もあります。自然撹乱後の生態系の遷移過程を観察できる非常に貴重な拠点として所内外の研究者に利用されています。
写真2 本研究で使われているデータが集積された2022年夏の苫小牧フラックスリサーチサイトの様子。2004年9月の台風でもともとあったカラマツがほとんど倒れてしまいましたが、その後、植生の自然更新が進んでいます。最初は草本植物が優占していましたが、最近はシラカンバの成長が顕著となっており、樹高10m近い個体もあります。自然撹乱後の生態系の遷移過程を観察できる非常に貴重な拠点として所内外の研究者に利用されています。