REPORT2023年10月号 Vol. 34 No. 7(通巻395号)

参加者の交流が戻ったIWGGMS-19

  • Rajesh Janardanan(衛星観測センター 高度技能専門員)
  • 抄訳(松永恒雄(衛星観測センター長))

フランスの気候環境科学研究所(LSCE)と国立宇宙研究センター(CNES)の主催による第19回宇宙からの温室効果ガス観測に関する国際ワークショップ(IWGGMS-19)が、2023年7月4〜6日にフランス・パリのEcole Normale Supérieure(高等師範学校)で開催されました(写真1)。

写真1 IWGGMS-19参加者の集合写真。高等師範学校の中庭にて。
写真1 IWGGMS-19参加者の集合写真。高等師範学校の中庭にて。
(出典:https://iwggms19.com/wp-content/uploads/2023/07/Group_Photo5-1280x484.jpg

IWGGMS-19は、現地参加を主、リモート参加を従とするハイブリッド形式で開催されました。現地参加が主となる会合はCOVID-19のため過去3年間開催されていなかったこともあり、パリの会場では再会を喜ぶ声が多数聞かれました。

本ワークショップでは、68件の口頭発表と86件のポスター発表が行われました。以下、3日間の会議の概要などをご紹介します。

本ワークショップは、LSCEのBreon氏、ESAのMeijer氏、EUMETSATのEvans氏の開会挨拶から始まりました。挨拶の中では温室効果ガスのリモートセンシングにおけるIWGGMSの重要性などが特に強調されました。その後、
 a) 運用中の衛星ミッションの成果
 b) 将来の衛星ミッションの進捗状況や計画
 c) データ処理アルゴリズム
 d) 校正検証
 e) 局所的な排出源からの排出量推定
 f) 温室効果ガスのフラックス推定
という6つのセッションにおいて口頭発表が行われました。また毎日午後5〜7時にかけてオンラインのポスターセッションが行われました。

a) 運用中の衛星ミッションの成果
本セッションでは、GOSAT、GOSAT -2、OCO-2、TROPOMIなどの状況がそれぞれのプロジェクトの担当者から報告されました。またPRISMA、EnMAP、Sentinel-2、TROPOMIなどの衛星データを用いたプルーム検出についても様々な発表がありました。

b) 将来の衛星ミッションの進捗状況や計画
本セッションでは、以前OCO-2のScience Leadを務めていたCrisp氏の講演の後、GOSAT-GW、CO2M、TANGO、MERLINなどの将来ミッションの報告がありました。TANGOは二酸化炭素とメタンを観測する衛星と二酸化窒素を観測する衛星の2機からなるオランダの新しいミッションで、2027年に打ち上げられる予定です。

c) データ処理アルゴリズム
本セッションでは、コロラド大学のO'Dell氏の招待講演の後、各ミッションでカラム平均濃度導出に利用されているアルゴリズムなどについて発表がありました。国立環境研究所(以下、国環研)の染谷氏はGOSATのFTS SWIR レベル2プロダクトのバージョン2からバージョン3への変更点(巻雲の扱いやセンサ劣化モデル、太陽照度スペクトル、気体の吸収係数など)やその処理結果などの報告を行いました(写真2)。

写真2 国環研 染谷氏の発表の様子。
写真2 国環研 染谷氏の発表の様子。

d) 校正検証
本セッションでは、TCCONやCOCCON、AirCoreを使ったTROPOMIやOCO-2、OCO-3などの検証について報告がありました。

e) 局所的な排出源からの排出量推定
本セッションではOCO-2やOCO-3、航空機を用いた大都市などの局所的な排出源の観測事例などが報告されました。なかでもJAXAの須藤氏は旅客機の窓を通して観測を行うGOBLEUプロジェクトについて紹介しました。

f) 温室効果ガスのフラックス推定
本セッションでは、インバースモデルを用いた全球のフラックス推定などに関する報告が行われました。国環研からはMaksyutov氏や筆者(Janardanan)が高分解能インバースモデルによるGOSATデータの解析結果(メタンの国別/セクター別排出量とその経年変化など)などを報告しました。

また本会議の最後には、次回(IWGGMS-20)を2024年7月に米国コロラド州にて開催することのアナウンスがありました。

会議全体を通じて参加者間の交流が非常に活発に行われました。特に若い研究者が自分のアイデアをベテランの研究者に紹介し、有益な助言をもらったりする様子がしばしばみられました。また3日間の会議の間、パリ中心部に位置し数世紀の歴史を有する会場は、暖かい雰囲気と真剣な議論、宇宙からの温室効果ガス観測の可能性を拡げるための将来協力を進めようという意欲に満ちていたことが印象に残りました。