2019年10月号 [Vol.30 No.7] 通巻第346号 201910_346002

さらなる発展を続ける人工衛星による温室効果ガス観測とその周辺 〜第15回宇宙からの温室効果ガス観測に関する国際ワークショップ(IWGGMS-15)開催報告〜

  • 地球環境研究センター 衛星観測研究室/衛星観測センター 主任研究員 野田響

1. はじめに

2019年6月3日から5日の3日間にかけて、第15回宇宙からの温室効果ガス観測に関する国際ワークショップ(15th International Workshop on Greenhouse Gas Measurement from Space: IWGGMS-15)を北海道大学フロンティア応用科学研究棟(北海道札幌市)において開催しました。このワークショップの第1回となる会議は2004年4月に東京において行われたもので、日本の温室効果ガス観測技術衛星GOSAT(Greenhouse gases Observing SATellite)と、アメリカの軌道上炭素観測衛星OCO(Orbiting Carbon Observatory)の関係者間で人工衛星による温室効果ガスの観測技術等の情報交換を目的としていました。その後、ヨーロッパや中国などの関連プロジェクトの研究者も参加し規模を拡大しながら、年に1回の頻度で開催されてきました。2007年にパリで行われた第4回のワークショップ以降は、ヨーロッパ・北アメリカ・日本の持ち回りとなり、15回目となる今回は、昨年のカナダ・トロントでの開催に続く日本での開催ということで、国立環境研究所、環境省、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が主催者として、北海道大学情報科学研究院の近野敦教授のご協力のもと、北海道大学での開催となりました。

写真1 今回のワークショップの会場となった北海道大学フロンティア応用科学研究棟

2. ワークショップの概要

本ワークショップでは、(1)現行および近い将来の衛星ミッション・校正、(2)リトリーバル手法・不確実性評価、(3)検証およびそのための観測、(4)宇宙からの温室効果ガス観測の逆解析によるフラックス推定、(5)太陽光励起クロロフィル蛍光(Solar-induced chlorophyll fluorescence: SIF)(参考記事:野田響「陸域生態系リモートセンシングの動向—AGU Fall Meeting参加報告」地球環境研究センターニュース2015年3月号)、(6)関連した地上観測、船舶、航空機による観測、(7)将来衛星ミッション・観測計画の計7テーマについての発表が行われました。全体で130名が参加し、55件の口頭発表と、55件のポスター発表がありました。発表者は計14カ国と2つの国際研究機関の所属となっており、最も発表件数が多かったのはアメリカ合衆国で33件、ついで日本から29件、中国から12件、フィンランド、フランス、イギリスからそれぞれ6件と続きました。その他、カナダ、韓国、ベルギー、ドイツ、欧州宇宙機関(ESA)、ベラルーシ、インドなどからも発表がありました。

ワークショップは、中島正勝氏(JAXA)による開会の挨拶で始まり、上記の7つのテーマごとに発表が行われました。以下、ワークショップからいくつかの発表について簡単にご紹介します。

写真2 IWGGMS-15冒頭での中島正勝氏(JAXA)による挨拶の様子

3. 現行の衛星ミッションの紹介

今回のワークショップで主に扱われた衛星ミッションはGOSATシリーズ(日本)、OCOシリーズ(アメリカ)の他、Sentinel-5 Precursor(S5P)搭載のTROPOMI(ヨーロッパ)、そしてTanSat(中国)でした。

このうち、GOSATシリーズとしては、昨年10月29日にGOSATの後継機となるGOSAT-2(いぶき2号)が打ち上げられました。本ワークショップでは、松永恒雄(国立環境研究所)よりGOSAT-2の現状と今後のデータ公開スケジュールの紹介がされました。吉田幸生(国立環境研究所)からは、GOSAT-2の観測データから導出したメタンと一酸化炭素(CO)濃度データの紹介の発表が行われ、メタンのデータはGOSATとよく一致することや、TROPOMIで観測された空間的分布とよく一致することが示されました。また、C. Shi氏(JAXA)からは、GOSAT-2搭載のCAI-2センサによるエアロゾルの初期解析結果が示されました。この他、GOSATシリーズのうちGOSAT-2に関しては4件のポスター発表が行われました。

OCOシリーズは、今年の5月4日(日本時間)にOCO-3が新たに打ち上げられました。OCO-2は太陽同期軌道の地球観測衛星でしたが、OCO-3は国際宇宙ステーションに取り付けられ、GOSATシリーズやOCO-2などの衛星とは異なる軌道、通過時刻で大気中のCO2濃度の観測を行います。A. Eldering氏(NASA、JPL、アメリカ)の発表では、OCO-3での観測パターンやポインティング観測などについて、CGを使ったアニメーションで紹介されました。

また、TROPOMIを含むESAのCopernicus Sentinelミッションについて、C. Zehner氏(ESA)より紹介がありました。このミッションは、計画中のものも含めて異なる7タイプの衛星から成る地球観測ミッションで(現在Sentinel-1、2、3、5Pが運用中)、それらの観測全体で1日に25TBのデータが作られて無償公開されており、23万人ものユーザーがデータをダウンロードしているとのことです。J. Landgraf氏(オランダ宇宙研究所(SRON)、オランダ)はTROPOMIが観測したメタンおよびCOデータの濃度の時空間変動の詳細について報告しました。また、今後、SRONから近いうちにTROPOMI観測データから推定した大気中のH2O、HDO(重水)、水に含まれる水素の安定同位体比(δD)のデータを公開することを予定しているとのことでした。

Y. Liu氏(中国科学院、中国)からはTanSatの紹介がされ、TanSatのCO2濃度データと植生の太陽光励起クロロフィル蛍光(SIF)データを2–3カ月のうちに公開するとしました。また、TanSatの観測データを、GOSATやOCO-2、TROPOMIなどと比較・検証しているとのことです。

表1 この記事で述べられている地球環境観測衛星

4. 将来ミッション

IWGGMSでは、現行の衛星ミッションだけでなく、将来の衛星観測ミッションについても紹介されます。今回のワークショップでは、NASAが計画しているGeoCarbミッションに大きく注目が集まりました。GeoCarbについてはB. Moore氏(オクラホマ大学、アメリカ)から、GeoCarbのセンサデザインを含むミッション全体について紹介されました。このミッションは商用の静止衛星から、大気中のメタン、CO2、CO、植生のSIFを観測するミッションで、南北アメリカ大陸について北緯50°から南緯50°の間を5–10 kmの空間分解能で観測することを計画しています。現時点では2023年6月の打ち上げを予定しているとのことです。その他、S. Crowell氏(オクラホマ大学、アメリカ)からは、GeoCarbのセンサに入射する光の強度が均一でないことに起因する誤差について、シミュレーションに基づく検討結果が紹介されました。また、P. Somkuti氏(カリフォルニア州立大学、アメリカ)からはGeoCarbによる観測データから植生SIFの導出シミュレーションについて発表されました。

5. おわりに

ワークショップの最後に、次回のIWGGMS-16について欧州気象衛星開発機構(EUMETSAT)のR. Lang氏より告知が行われました。IWGGMS-16はEUMETSAT、ESA、ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)そして欧州委員会(EC)の主催で、ドイツのダルムシュタットにおいて2020年6月2日から5日に行われるとのことです。すでにIWGGMS-16のウェブサイト(https://www.eventsforce.net/iwggms-16)では事前登録が開始されています。IWGGMS-16の折には、GOSAT-2やOCO-3といった新しい衛星についてもより深い解析結果が報告されるでしょう。

今回のワークショップは、北海道大学情報科学研究院の近野教授をはじめ、北海道大学生活協同組合、会場設営と受付を担当した学生の方々など、北海道大学の皆様の多大なるご協力のもと開催することができました。この場を借りて皆様に感謝したいと思います。

写真3 IWGGMS-15の参加者の皆さん

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