NEWS2023年10月号 Vol. 34 No. 7(通巻395号)

わくわくが止まらない一日 ~夏の大公開2023における地球システム領域のイベント報告~

7月22日(土)国立環境研究所(以下、国環研)は夏の大公開を4年ぶりに対面で開催しました。新型コロナウィルス感染症の影響で、2020年度以降、夏の大公開は中止やオンライン開催でした。今回は、コロナ禍明け初めての対面開催ということもあり、出展イベント数を減らし、主な対象を小学生とするなど規模を小さくした「スモールスタート」での開催でしたが、来場者は約1,100名(概数)となりました(国環研広報室発表)。暑い中、ご参加いただいた皆さまにお礼申し上げます。

地球システム領域では、4つのイベントを企画しました。本稿では、それぞれの企画の様子を担当者から報告いたします。

目次

1. 海はCO2を吸収する? 海水酸性化実験 ~緊張感のなかでの対面開催~

高尾信太郎(地球システム領域大気・海洋モニタリング推進室 主任研究員)

「夏の大公開」で海水酸性化実験を5年振りに対面開催しました。私は2年前の2021年から実験担当をしていますが、一昨年と昨年は2年続けてZoomとYouTubeを組み合わせたオンライン配信での開催でしたので(2021年の詳細はYouTube国環研動画チャンネルhttps://www.youtube.com/watch?v=TdC6jbdBdrgを、2022年の詳細はhttps://www.youtube.com/watch?v=7xf8MoD2bJg&t=1152sを参照)、私にとっては初めての対面開催です。ずっと対面での開催を望んでいましたが、いざ開催するとなると「YouTubeに実験の動画がアップされているのに参加する人はいるのだろうか?」など色々と不安が出てくるもので、事前登録してくださった参加者の人数を聞くまでは少々落ち着かない日々が続きました。

登録結果のフタを開けてみると、当初の予定を大幅に超える参加希望をいただき、元々は実験を4回実施する予定でしたが、更に1回増やし合計5回実施する運びとなりました(そして、私自身の喉との戦いが始まります・・・)。事前の準備に関しては、オンライン配信とは異なり、大公開の当日までほぼやることはありませんでした(研究推進係の皆さんのご尽力のおかげで楽をさせていただきました!)。昨年までは映像と音声を届けるといった形式でしたので、カメラへの写り方や音声の入り具合など、何日もリハーサルが必要だったので何だか拍子抜けしたのを覚えています。

写真1 海水入りの小瓶を使って海水酸性化実験をする子どもたち。
写真1 海水入りの小瓶を使って海水酸性化実験をする子どもたち。

さぁ、いよいよ本番です。実験は海水とBTB溶液入りの小瓶に息を吹き込むと海水が二酸化炭素(CO2)を吸収して色が変わることを体験する、毎度お馴染みのイベントで子供から大人まで視覚を通して海洋酸性化を学ぶことができます(写真1)。

今回は参加してくれたお子さんだけでなく、親御さんが傍で見守るスタイルだったので、いつもとは違う緊張感を味わいながら5回の実験をやり切りました。質問をくれた子供の中にはマイクを使っても、なかなか大きな声を出せない子もいましたが、手を上げて質問してくれた勇気に心を打たれたり、対面だからこそ感じられるやり取りも多々あったりしました。たくさんの子供達の笑顔が見られた今年の大公開、来年以降も対面開催が続くことを願って筆を置きます(まぁ、この原稿はパソコンで作っていますけど・・・)

2. 実験室潜入! 地球環境モニタリング ~CO2観測の実験に参加したよ!~

町田敏暢(地球システム領域 大気・海洋モニタリング推進室長)

昨年の夏の大公開はオンライン開催であったものの、できるだけリアルな実験室を見ていただくために、生中継での大気サンプリングの実演を行いました(詳細はYouTube国環研動画チャンネル(https://www.youtube.com/watch?v=7xf8MoD2bJg&t=6940s)を参照)。今年はいよいよ来客を迎えての開催になり対象が小学生となったことから、さらにリアルな実験室潜入とするために実演ではなく、来場者に実験に参加していただくというイベンを実施しました。

国環研では世界中のさまざまな地点で、CO2などの温室効果ガスの観測を行っています。観測方法には、現場にCO2の測定装置を持ち込んでその場で測る方法と、現場の空気を採って(サンプリングして)国環研に持ち帰り測定する方法とがあります。今回の実験室ツアーではこのうちのサンプリング方法による一連の観測作業を、参加者全員が分担し、協力して成し遂げるというプログラムにしました。

写真2 フラスコとポンプを、空気が漏れないようにしっかり接続。
写真2 フラスコとポンプを、空気が漏れないようにしっかり接続。

当日は実際に民間航空機で使っている空気採取用のポンプと空気を入れる容器(フラスコ)を用意し、フラスコとポンプを接続し(写真2)、屋外の新鮮な空気をチューブで引き込んでフラスコ内に充てんして、それを実験装置に取り付け(写真3)、分析し、分析結果からCO2濃度を計算して、グラフにプロットするという流れで実施しました。

参加者にはくじ引きで10種ほどの担当を決めてもらいましたが、年齢には幅があるので、低学年、中学年、高学年にそれぞれできる(やりがいのある)担当を割り振りました。具体的には手動のポンプを回す人(最後の加圧は体力が必要)、ポンプから空気が出ることを確認する人(手のひらで風を感じるだけなので簡単ですが重要な役目)、分析装置をコンピューターから遠隔操作する人(小学生でもマウスの使い方には慣れています)、結果を分析ノートに記録する人(記録することが大事だということを身につけてもらいたい)、コンピューターのプログラムを使ってCO2濃度の計算をする人(結果が出ると盛り上がりました)など、さまざまな役割がありましたが、どの参加者も積極的に活き活きと担当してくれたことが印象的でした。

写真3 空気を充てんしたフラスコを実験装置に取り付け。
写真3 空気を充てんしたフラスコを実験装置に取り付け。

最後に、国環研が沖縄県の波照間島で1993年から観測しているCO2濃度のグラフを示し、CO2濃度が年々上昇している実態を知ってもらった上で、この日のCO2濃度の分析結果をこのグラフにプロットしてもらいました。赤い磁石が置かれたグラフの右端の1点は、この日参加した全員が協力して作り上げた1点であり、グラフ上に置かれたことで「どうしてこのような濃度になるか」について考えてもらうことができました。他人が測った1点より自分が関わって測った1点は見る目が違い、説明を聞く耳も違うと感じました。

今回は小学生全員に実験に参加してもらうというチャレンジングな企画でしたが、我々が考えていた以上に小学生には刺激になったと感じました。研究する楽しさの一端を知っていただいたことで、将来の国環研を担う人材が現れてくれることを願います。ツアーをサポートしていただいた皆さんに感謝すると共に、改善点もありましたので、今後さらに良い企画にしていけたらと思います。

3. CO2、メタンの吸収と排出を測ってみよう ~温暖化抑制について考えるきっかけに~

高橋善幸(地球システム領域 陸域モニタリング推進室長)

最近、異常気象の頻発など気候変動に関連した話題がニュースになることも多く、気候変動がどのように起こるのかという点について関心を持っている人も増えました。

今回の夏の大公開では小学生を対象としており、小学校高学年では植物がデンプンを合成することなどの基礎的な知識を持っていることが予想されました。

陸域モニタリング推進室では陸域生態系での温室効果ガス収支を中心とした観測研究を実施しています。今回は、最近市販化されたレーザー分光型の高精度温暖化ガス分析計を用いて、身近なものから発生するCO2やメタン(CH4)を実際に測るというデモ実験を行いました。陸域モニタリング推進室からは高橋と平田、地球システム領域のシニア研究員の梁がデモ実験と説明を担当しました。

当日、会場に来てくれた子供達は特に環境問題についての意識が高く、大気中で増加するCO2が温暖化の原因であることや、森林がCO2を吸収する役目を持っていることなどについて、授業で習うよりも先にいろいろな媒体で知識を得ていることがすぐにわかりました。一方でCH4について言葉は聞いたことがあるが、どんなところから発生するのかといった知識はまだ浸透していなかったようです。

研究所の構内から集めた落葉を含む森林土壌を測ると、CO2が徐々に高濃度になる一方で、CH4の濃度は低下し、土壌がCO2の放出源であると同時にCH4の吸収源として機能していることを実験的に確認してもらうことができました。また、構内の溜池のほとりから採取した腐った落葉などからなる泥を測定すると、逆にCH4の濃度がグングン上昇する様子が明らかとなり、同じような落葉が分解する過程においても、森林土壌と泥では全く違う反応が起きている様子を、来場者は興味深く感じてくれたようです。

実際には、CH4を発生するメタン発酵というプロセスは廃水などの処理に重要なものであり、またそうしたプロセスから発生するCH4を含むバイオガスは発電や熱源に利用されるなど、関わり方次第では有益な部分もあることを説明しました。また、牛のゲップや水田など重要なCH4発生源において、さまざまな発生量低減の取り組みが行われている事例にも触れることで、温暖化の抑制に向けて、いろいろな分野のエキスパートが協力してチャレンジしていることをアピールしました(写真4)。こうした様々な観点からのエピソードを知ってもらうことで、将来を担う子供達が「温暖化の抑制に対して自分ができることはなんだろう?」と包括的な視野で考えてくれるようになることを願っています。

写真4 デモ実験をしながら、興味を示してくれた参加者にはパネルなども使ってQ&A的に温室効果ガスのことをもっと詳しく説明。
写真4 デモ実験をしながら、興味を示してくれた参加者にはパネルなども使ってQ&A的に温室効果ガスのことをもっと詳しく説明。

4. 温室効果ガスを観測する人工衛星『いぶき』の秘密 ~人工衛星の大きさを実感~

野田響(地球システム領域衛星観測研究室 主任研究員)

衛星観測センターでは、温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT、日本語愛称『いぶき』)シリーズを紹介する展示を行いました。一昨年、昨年のオンライン開催では視覚的な分かりやすさを考慮してクロロフィル蛍光実験を行いましたが(2021年の詳細はYouTube国環研動画チャンネルhttps://www.youtube.com/watch?v=dGYRs4qPevYを、2022年の詳細はhttps://www.youtube.com/watch?v=7xf8MoD2bJg&t=6940sを参照)、4年ぶりの対面開催となる今回は体験するコンテンツを用意したいと考えました。

GOSAT-2(『いぶき2号』)は、太陽光パドルを広げると横の長さが16.5 mもありますが、数字だけ見てもなかなかイメージが湧きません。そこで、GOSATシリーズの紹介やこれまでの成果をまとめたポスターの展示に加え、衛星そのものを感覚的に理解してもらおうと、実物大のGOSAT-2を上から見た様子を会場となった交流会議室の床に青色のテープを貼って再現しました(写真5)。制作には、衛星観測センターのメンバー9名で前々日に作業して約2時間かかりました。実物大GOSAT-2は交流会議室に収まりきらず、太陽光パドルの片方は外のギャラリースペースにまではみ出していました。

当日は、足元の実物大GOSAT-2に気づかないまま会場を覗き込むお客さんに「足元にあるのが実物大の『いぶき2号』で…」と話しかけると、驚きつつ興味を持って説明を聞いてくれ、話のつかみとして良かったようです。子供たちも人工衛星の大きさや各部位の機能などに興味を持ってくれました。

GOSATは2009年1月の打ち上げから現在までの14年以上のデータを蓄積しています。来場した小学生たちは、GOSATが観測した14年分のCO2・メタン濃度データを月毎に示したポスターの前で自分の生まれた年月の観測データを見つけ、CO2やメタンの増加が進行している様子を実感していました。また、観測を続ける『いぶき』シリーズへのメッセージを書いてもらうコーナーを設けたところ、40人ほどが応援メーセージやイラストを寄せてくれました。

写真5 テープで再現した「実物大GOSAT-2」の太陽光パドル部分の上で説明を受ける来場者。
写真5 テープで再現した「実物大GOSAT-2」の太陽光パドル部分の上で説明を受ける来場者。

上記の4企画のほかに、地球環境研究センターの事業を紹介するパネル展示を行いました。イベントの待ち時間を利用してご覧になる方、地球温暖化に関心をもってパネルを読む方などさまざまな方がいらっしゃいました。展示パネルについては、研究者が事業内容をわかりやすく説明いたしました(写真6)。

4年ぶりの対面での夏の大公開は準備に少々戸惑うこともありましたが、イベント後のアンケートを読むと来場者に喜んでいただけたようなので、ほっとしました。今回の経験やアンケートに記載された意見等を今後のイベント企画等に活かしていきたいと思います。

写真6 来場者に地球環境研究センターの事業内容を説明する研究者。
写真6 来場者に地球環境研究センターの事業内容を説明する研究者。