REPORT2023年10月号 Vol. 34 No. 7(通巻395号)

オープンサイエンスとデータ駆動型研究がもたらすもの

  • 三枝信子(地球システム領域長)

2023年6月26日(月)と27日(火)に日本学術会議が主催、国立情報学研究所が共催となり、学術フォーラム「オープンサイエンス、データ駆動型研究が変える科学と社会-G7コミュニケを読み解く」が開催されました。

オープンサイエンスとは、科学研究によって得られたデータを公開し、そのデータに基づいて得られた成果やデータ処理手法などを公開して研究の透明性を高め、その結果新しい研究開発を加速したり、研究者以外の方々が多様な方法で研究活動に参加したり情報を得たりできるようにする活動を広く呼びます。

データ駆動科学とは、仮説を検証するためにデータを集めるのではなく、まず大規模なデータを集め、その大量のデータを解析することで科学的知見を導き出す、つまりデータ自体から新たな科学研究を創りだすような活動をいいます。そのため、データを収集した時には予想もしなかった新たな発見も期待されます。

本フォーラムは、いま国内外のさまざまな分野で急速に進むオープンサイエンスとデータ駆動型研究の現状と可能性を俯瞰するため、各分野の科学者の視点に加えて企業の視点や法制度の観点から多様な話題が提供されました。

フォーラムは日本学術会議の会場(東京都港区)とYouTubeでのオンライン配信によるハイブリッド開催となりました。事務局の集計によると、参加者は会場とオンライン参加を含め約600名とのことでした。国立環境研究所からは、講演およびパネリストとして地球システム領域長の三枝信子が参加しました。各講演の発表資料(PDFファイル)は以下のウェブサイトから公開されています。講演資料(日本学術会議)https://www.scj.go.jp/ja/event/2023/339-s-0626-27.html(公開期間は9月末まで)

フォーラム初日には、日本学術会議副会長の菱田公一氏による開会挨拶、情報・システム研究機構長の喜連川優氏による趣旨説明の後、日本のオープンサイエンス政策について内閣府科学技術・イノベーション推進事務局参事官の赤池伸一氏から詳しい説明がありました。

続いて、オープンサイエンスとデータ駆動型科学の先導事例として、東京大学大学院理学系研究教授の一杉太郎氏から、ロボットが熟練技術者の技能を身につけて不眠不休で化学実験を行う新しい研究開発環境の紹介がありました。このほかに、神戸大学計算社会科学研究センター長の上東貴志氏からは、これから重要性を増していく社会科学分野のオープンサイエンス推進とデータ基盤について、三枝信子からは、気候の将来予測や地球規模観測が生み出す膨大なデータを利活用する上で必要な情報基盤などについて事例紹介を行いました(図1)。

図1 気候研究の新たな取組(世界気候研究計画の戦略計画2019-2028から引用)とそれに必要な情報基盤について。
図1 気候研究の新たな取組(世界気候研究計画の戦略計画2019-2028から引用)とそれに必要な情報基盤について。

2日目には、企業における技術開発、組織と人材、国内外の法制度などの異なる視点からそれぞれの専門家が登壇し、オープンサイエンス推進に向けた課題が語られました。最後に、フォーラムの趣旨説明を行った喜連川氏がモデレータを務め、科学と社会のリデザインと題するパネルディスカッションが行われました。パネリストからは、企業活動の視点からの展望や今後必要となる法制度、人文・社会分野のオープンサイエンス推進の難しさ、研究現場で急速に拡大しているデータ駆動科学の発展の方向などについて議論がなされました。

写真1 分野や立場を越えたパネルディスカッションに臨むモデレータの喜連川氏(左端)とパネリスト(日本学術会議撮影)。
写真1 分野や立場を越えたパネルディスカッションに臨むモデレータの喜連川氏(左端)とパネリスト(日本学術会議撮影)。

今回のフォーラムは、人文社会系、理工系、医学系の研究者、企業の技術開発者、国内外の法制度の専門家を交えた総合的な内容で、日本におけるオープンサイエンスとデータ駆動科学の現状と将来展望が得られた貴重な機会となりました。