REPORT2022年11月号 Vol. 33 No. 8(通巻384号)

GOSAT-GW時代に向けて ~第18回宇宙からの温室効果ガス観測に関する国際ワークショップ (IWGGMS-18) 開催報告~

  • 大山博史(地球システム領域衛星観測研究室 主任研究員)

1. はじめに

2022年7月12日から14日の3日間、第18回宇宙からの温室効果ガス観測に関する国際ワークショップ(18th International Workshop on Greenhouse Gas Measurements from Space: IWGGMS-18)が、国立環境研究所(以下、国環研)及び宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共催、香川大学の後援により、国環研を拠点として一部現地参加可能なオンライン形式で開催されました。IWGGMSは2004年の東京での開催以降、日・米(加)・欧の宇宙機関や研究所、大学等が持ち回りでホストを務め現地開催してきましたが、COVID-19のパンデミックにより2020年(ドイツ)と2021年(アメリカ)は完全オンラインとなりました。

今年の日本での開催にあたり、当初は香川県高松市における現地開催とオンラインのハイブリッド形式を予定していましたが、昨今の世界情勢や国内の感染状況等を踏まえて最終的にオンライン開催とし、現地実行委員会(LOC)、科学プログラム委員会(SPC)、及び運営事務局メンバー(https://www.nies.go.jp/soc/en/events/iwggms18/参照)を中心とする国内の関係者と米国から現地参加を希望された4名が国環研の会議室から参加する形になりました。

時差のある世界中からオンラインで参加することを考慮して、日本時間の午前(08:00-10:00)と午後(16:00-18:00)にZoomウェビナーによる口頭発表を行い、その間の時間帯と午後の部の終了後にオンラインプラットフォームGather.Townによるポスター発表を行うというスケジュールが組まれました。現地参加者は20名程度、オンライン参加者は最大170名程度に上りました(参加登録者は296名)。

写真1 国内 (国環研とJAXA) 及び米国からの現地参加者とスクリーン上のオンライン参加者による集合写真。
写真1 国内 (国環研とJAXA) 及び米国からの現地参加者とスクリーン上のオンライン参加者による集合写真。

オープニングセッションではLOC委員長である国環研地球システム領域の谷本副領域長の進行のもと、国環研木本理事長による開会の挨拶で始まり、続いて国環研松永衛星観測センター長とSPCを代表して国環研森野主幹研究員から歓迎の挨拶がありました。

今年のIWGGMSでは以下の8つのサイエンスセッションが設けられました。

  1. Results from current missions
  2. Status of / Results expected from future missions
  3. Retrieval algorithms and methods for inter-instrument and product Cal/Val
  4. Uncertainty quantification and bias correction techniques, including in situ measurements
  5. Observations to quantify hot spots and local/urban emissions
  6. Flux estimates and atmospheric inversions from space-based GHG measurements and solar-induced chlorophyll fluorescence (SIF)
  7. Towards an international space-based GHG emission monitoring system
  8. Stakeholder needs and engagement for the Global Stocktake

3日間を通じて1件の招待講演を含む53件の口頭発表と59件のポスター発表が行われました。

招待講演は、米国の軌道上炭素観測衛星OCO(Orbiting Carbon Observatory)プロジェクトの立ち上げ当初から2022年1月にNASAジェット推進研究所(NASA/JPL)を退職されるまでの約20年にわたってOCO-2とOCO-3のミッションを牽引し、温室効果ガス(GHG)の観測衛星コミュニティに多大な貢献をされてきたD. Crisp氏により行われました。

2. GOSAT-GWに関連した研究

(1)GOSAT-GW
これまでのIWGGMSで行われた発表については、本ニュースレターの過去の記事において、様々な視点から報告されています(本記事の最後を参照)。今回は、日本の温室効果ガス観測技術衛星GOSAT(Greenhouse gases Observing SATellite)とGOSAT-2の後継機であり、2023年度打上げ予定のGOSAT-GW(Global Observing SATellite for Greenhouse gases and Water cycle)と特に関連があると思われる発表について報告します。

まず、GOSAT-GWについては、谷本副領域長らによりミッション要求や準備状況等が紹介されました。GOSAT-GWの主な特徴としては、回折格子型分光計と2次元検出器からなる観測センサによりGHG濃度の空間分布を面的に観測できるようになることでデータ点数が大幅に増加すること、その面的な観測は広域観測モード(観測幅911 km、空間分解能10 km x 10 km)と精密観測モード(観測幅90 km、空間分解能3 km x 3 km以下)により行われること、化石燃料の燃焼により二酸化炭素(CO2)と共に排出される二酸化窒素(NO2) を新たに観測すること、が挙げられます。

(2)GOSAT-GWと同世代の全球観測衛星
GOSAT-GWと同時期に運用が予定されている全球観測衛星としては、フランスの国立宇宙研究センター(CNES)が2023年末の打上げを目指してMicroCarb(観測幅13.5 km、空間分解能4.5 km x 9 km)の開発を進めています。D. Jouglet氏(CNES)らにより、打上げに向けて装置特性を評価するための地上試験が順調に実施されていることや、太陽直達光を使った地上での模擬観測実験が行われる予定であることが紹介されました。

アメリカでは静止衛星から南北アメリカ大陸上空を5-10 kmの空間分解能で観測するGeoCarbの開発をオクラホマ大学やNASA等が中心となって行っています(2024年後半から2025年に打上げ予定)。S. Crowell氏(オクラホマ大学)らの報告によると、レベル2(濃度データ)アルゴリズムとして、OCOシリーズで使用されているFull Physics法に加えて、人工知能(AI)に基づく方法も検討されているようです。また、メタンと一酸化炭素については計算時間の速い差分吸収分光法(DOAS)に基づくアルゴリズムでも処理され、準リアルタイムでデータを提供する可能性もあるというコメントがありました(基本的には観測から約1週間後を予定しているようです)。

欧州で開発が進められているCO2M(観測幅250 km、空間分解能2 km x 2 km)についてはY. Meijer氏(欧州宇宙機関)とR. Lang氏(欧州気象機関)から報告がありました。2025年末に2機の打上げが予定されており、3機目は欧州委員会の決定を待っている状況のようです。GHG濃度を観測する分光計に加えて、エアロゾル(Multi-Angle Polarimeter: MAP)と雲(CLoud IMager: CLIM)を観測する装置も搭載されます。レベル2アルゴリズムとして、3つのアルゴリズム(1つがベースライン、残りは補完用)を用意するそうです。

中国の現在及び将来衛星については、Y. Liu氏(中国科学院大気物理研究所)らから報告がありました。中国では、世界初となるCO2観測ライダを搭載したDaqi-1という衛星の打上げが2022年4月に行われました。ライダについての詳細な説明はありませんでしたが、Cao et al.(2022, Remote Sensing)などの情報を参考にすると、中国科学院上海光学精密機械研究所によって開発されたCO2を観測する長光路差分吸収ライダとエアロゾルを観測する高スペクトル分解ライダの2つが搭載されているようです。

GHG観測ライダについては、以前からフランスのCNESとドイツの航空宇宙センター(DLR)がメタン観測用の長光路差分吸収ライダMERLIN(MEthane Remote sensing Lidar missioN)を開発しており、当初は2021/22年の打上げを目標としていましたが、中国が先行して開発・打上げを行ったとのことです。なお、MERLINの現時点での打ち上げは2024年に予定されています。中国は、Daqi-1の後継機(Daqi-2)の打ち上げを2024/25年に予定しており、CO2観測衛星TanSat(2016-2018年)の後継機であるTanSat-2の検討状況についても報告がありました。TanSatからの更新点としては、3機の衛星からなるコンステレーションの構築、中軌道(Medium Earth Orbit: MEO)からの観測、観測バンドの追加(GOSAT-GWと同じ可視域のNO2バンド、O2 Aバンド、1.6 µmのCO2バンドに加えて、2.0 µmのCO2バンドと2.3 µmのメタンバンド)等を検討しているそうです。

(3)高分解能特定点観測衛星
GOSAT-GWも含め全球のGHG濃度を観測する衛星に加えて、GOSAT-GW時代には、特定の排出源の観測に特化した衛星も世界各地で複数運用されることになります。すでにカナダの民間会社GHGSat Inc.が、2016年から石油・ガスのインフラ施設や採炭場、埋立地などのメタンの大規模排出源を対象に観測を行っています。超小型衛星GHGSat衛星は、12 km x 12 kmの範囲を20 m x 20 mという高い空間分解能で観測することが特徴で、2020年に第2号機、2022年5月に第3-5号機が打上げられ、D. Jervis氏(GHGSat Inc.)らの発表では3-5号機の打上げから3日後に取得されたデータが示されました。これらの衛星の回帰日数は14 日であり、2023年にさらに6機の打上げが予定されているため、晴れていれば特定の地点は毎日観測することも可能になるそうです。またGHGSat Inc.では、CO2の観測に最適化した衛星の検討も行っているようです。

米国では、2023年に打上げが予定されているMethaneSAT(200 km x 200 kmの範囲を100 m x 400 mの空間分解能で観測)や2023年に2機、2025年までにさらに複数機の打上げを予定しているCarbon Mapper(観測幅18 km、空間分解能30 m x 30 m)が開発されています。これらについては、航空機搭載型のプロトタイプの分光計を用いた観測実験についていくつか報告がありました。

一方、欧州でもドイツのDLRが中心となって、2026年の打上げに向けてCO2排出源を高空間分解能で観測する衛星(CO2Image)の開発が進められているようです。J. Marshall氏(DLR)らの報告によると、1 MtCO2/yr以上の排出源(石炭火力発電所の88%)を観測できるようなミッション要求が設定されており、50 km x 50 kmの範囲を50 m x 50 mの空間分解能で観測するセンサを開発しているようです。観測波長帯は2.0 µmバンドのみで、排出源からのプルームが乱流の影響を受けにくい午前の時間帯(衛星の赤道通過地方太陽時で午前10:30頃)の観測を予定しているとのことです。

(4)GOSAT-GW精密観測モードデータの検証
GOSAT-GWでは、主に大都市や大規模点排出源周辺の~90 km x 90 kmの範囲を3 km以下の空間分解能で観測する精密モードが備えられています。このようにある都市を高い空間分解能で面的に観測することで、都市からのGHGの排出量を推定することが可能となります。NASAのOCO-3では、Snapshot Area Maps(SAMs)モードと呼ばれる観測方式により、(観測範囲は少し狭いですが)同様の観測が行われています。このような観測データを排出量推定に使用するためには、濃度勾配が正しく観測できているかを検証することが重要となります。

K. Che氏(中国科学院大気物理研究所)らは、メキシコシティに設置されている高分解能フーリエ変換分光計(IFS 125HR)と6台の可搬型のフーリエ変換分光計(EM27/SUN)を用いて、OCO-3のSAMsモードデータを検証した結果を報告しました。また、大気輸送モデルを用いて計算したXCO2(カラム平均濃度)とEM27/SUNの観測データが良く一致することを示しました。EM27/SUNを用いた同様の観測やモデル計算との比較は、トロント(カナダ環境・気候変動省のO. Moeini氏ら)や東京及びソウル(国環研のM. Frey氏ら)でも行われました。

(5)CO2とNO2の同時利用
GOSAT-GWで同時に観測するCO2とNO2を使った研究についても発表がありました。宮崎氏(JPL)らは、化石燃料CO2とNOx排出量の関係(CO2/NOx比)が経済発展の関数として時間変動することを利用して過去の排出量の動態を分類し、CO2/NOx比の予測値と衛星データの同化により得られたNO2排出量を使ってCO2排出量の予測可能性を評価した結果を報告しました。B. Fuentes Andrade氏(ブレーメン大学)らは、TROPOMI(TROPOspheric Monitoring Instrument)のNO2カラム量のデータを使って発電所からのプルームの形を特定し、OCO-3のSAMsモードのXCO2データから排出量を推定する方法を提案しました。D. Wu氏(カリフォルニア工科大学)らは、発電所や都市からのCO2拡散のシミュレーションに使用されている高解像度輸送モデルをNO2にも拡張し、今後は、CO2とNO2の観測データからモデルを介して推定した排出量比(CO2/NOx)からCO2排出量のセクターによる違いを明らかにする計画のようです。

3. おわりに

クロージングセッションでは国環研森口理事及び環境省地球環境局気候変動観測研究戦略室山田室長による閉会の挨拶がありました。その後、フランス気候環境科学研究所(LSCE)のF.-M. Bréon氏から来年のIWGGMS-19に関する案内があり、次回はCNES、LSCE、及びフランスのピエール・シモン・ラプラス研究所(IPSL)がホストを務め、2023年6~7月頃にパリで開催される予定であることが紹介されました。開催形式は現時点では確定していませんが、COVID-19の影響に加え、コミュニティとしてCO2排出量削減に取り組む必要性も考慮して、ハイブリッド開催はどうだろうという提案がありました。COVID-19が収束した後でも、国際会議の開催形式は2019年以前とは様変わりするかもしれないと感じました。

写真2 質疑応答時のPC画面のスクリーンショット。オンラインでの発表者 (左下) と、オンラインでの司会者 (左上)、現地の司会者 (右下) の様子。
写真2 質疑応答時のPC画面のスクリーンショット。オンラインでの発表者 (左下) と、オンラインでの司会者 (左上)、現地の司会者 (右下) の様子。

※IWGGMSに関するこれまでの記事は以下からご覧いただけます。