SEMINAR2023年3月号 Vol. 33 No. 12(通巻388号)

私たちの生活と海の環境問題のつながりを考える特別授業

  • 高尾信太郎(地球環境研究センター大気・海洋モニタリング推進室 主任研究員)
  • 林しおん(地球環境研究センター 係員)

2022年11月から12月にかけて、東京・千葉・大阪の小学生を対象に「海と私たちのつながりと環境問題」というテーマで特別授業を行いました。本稿では、授業の講師を務めた高尾より授業の様子を開催に至るまでの経緯も含めて簡単にご紹介いたします。

1. はじめに

今回の授業依頼は、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環である“陸養プロジェクト”(写真1)の実行委員会の方からいただきました。なんと「夏の大公開2022」で配信された「100人で海水酸性化実験」のYouTubeを視聴して興味を持ってくださったそうです。そういった話を聞くと、あの暑い夏、配信に向けて準備やリハーサルを頑張った甲斐がありました。「夏の大公開2022」については、別の報告記事に詳しく書いていますので興味がある方は是非ご参照ください(「実験や観測現場の紹介を通して地球環境研究を身近に感じられる日に~夏の大公開2022における地球環境研究センターのイベント報告~」地球環境研究センターニュース2022年10月号)。

少し話が脇道に逸れましたが、冒頭に出てきた“陸養プロジェクト”は「わたしたちの学校に海がやってきた!?」をキャッチフレーズに、海の魚が育つ環境を小学校に作り、子どもたちに陸上養殖体験を通して海の恵み(水産資源)といのちの大切さを学んでもらう取り組みです。プロジェクトは2018年から始まり、2022年で5年目を迎えます。

写真1 陸養プロジェクトWebサイトのトップページ(https://rikuyou.uminohi.jp)。
写真1 陸養プロジェクトWebサイトのトップページ(https://rikuyou.uminohi.jp)。

海に囲まれた日本ですが、小学校生活で海について学ぶ機会は非常に限られていますので、とても良い取り組みだと感銘を受けました。ちなみに今回子どもたちが育てている魚はヒラメだそうで、年度の終わりには育てた魚をどうするか、そこから何を学んだかを話し合うそうです。小学生の皆さんにとっても貴重な機会となりそうですね。

2. 小学校での特別授業

最初の授業は2022年11月14日に東京都渋谷区立 神宮前小学校の小学5年生63名を対象に行いました。現地に着いて驚いたのが小学校の立地です。なんと表参道ヒルズの真横に建っているではないですか!(写真2)

写真2 その立地条件に思わず写真を撮ってしまった田舎者の私・・・写真左が神宮前小学校、右が表参道ヒルズ。
写真2 その立地条件に思わず写真を撮ってしまった田舎者の私・・・写真左が神宮前小学校、右が表参道ヒルズ。

表参道という雰囲気に少しドキドキしながら臨んだ授業でしたが、皆とても良い子たちで、「海の環境問題ってどんなことがありますか?」というこちらの質問にも、『海洋プラスチック!』『海面上昇!』『温暖化!』といった的確な答えを返してくれる学力レベルに正直驚かされました。神宮前小学校での授業の様子は陸養プロジェクトWebサイトでも簡単に紹介されています(https://rikuyou.uminohi.jp/school01/1984/)。

続いて12月2日に千葉県松戸市立 馬橋小学校の小学5年生106名を対象にオンラインで授業を行いました。複数の教室とZoomで繋げる方式を取りましたが、せっかくの機会なので教室のマイクは常ONにしてもらいました。画面越しではありますが、元気いっぱいに受け答えしてくれる馬橋小学校の皆さん。若干、聖徳太子のような気分を味わいながら2回目の授業も無事に終えることができましたが、オンライン授業に手一杯でパソコン画面のスクリーンショット等を取り忘れてしまいました・・・。

トリを飾るのは12月15日に訪れた大阪府堺市立 東深井小学校です。こちらは小学5年生119名と児童数が多いこともあり、現地での準備と広報活動の手伝いを林係員にもお願いしました。さすが大阪の子どもたち!溢れんばかりのパワーに講師の私も終始押され気味、、、。そんな元気な子どもたちが授業後の片付けを手伝ってくれたのも印象的でした。そして、ここに至るまで授業内容にほとんど触れていないことに気づいてしまったので、ここからは林さんに撮影いただいた東深井小学校での授業風景を交えながら駆け足で紹介したいと思います。

今回の特別授業の目的は、「自分たちの生活と関わる海の環境問題や生態系について理解を深める」ことです。児童の皆さんには温室効果気体の一つである「二酸化炭素」をキーワードに、大気中と同じように海水中の二酸化炭素濃度も年々増加していること、魚を含む海の生態系にとって植物プランクトンに取り込まれた二酸化炭素が食物連鎖を支える上で重要な役割を担っていること、そして大気から海水へ溶け込む人為起源の二酸化炭素が増えることで生じる海洋酸性化についても学んでもらいました(写真3-6)。

写真3 東深井小学校で海水中の二酸化炭素濃度の増加について説明しました。
写真3 東深井小学校で海水中の二酸化炭素濃度の増加について説明しました。
写真4 海の生態系において二酸化炭素が担う役割ついて説明しました。
写真4 海の生態系において二酸化炭素が担う役割ついて説明しました。
写真5 お馴染みのお寿司スライドで海洋酸性化が海洋生物へ与える影響について説明しました。
写真5 お馴染みのお寿司スライドで海洋酸性化が海洋生物へ与える影響について説明しました。
写真6 一生懸命メモを取る児童たち。
写真6 一生懸命メモを取る児童たち。

45分間の授業に子どもたちが飽きてしまわないよう、今回の授業のきっかけとなった「海水酸性化実験」を途中で交えながら、海水とBTB溶液入りの小瓶に息を吹き込むと青色を呈した(アルカリ性を示した)海水が二酸化炭素を吸収して黄色(酸性)に変わることも実際に体験してもらいました(写真7)。色が変わった時にはどの小学校でも驚きの声や楽しそうな声が部屋中に響き渡っていました。

写真7 児童へ配布した海水入りの小瓶を使い、海水が二酸化炭素を吸収することを確かめました。
写真7 児童へ配布した海水入りの小瓶を使い、海水が二酸化炭素を吸収することを確かめました。

3. おわりに

今回の授業を通じて、子どもたちに環境問題を身近に感じてもらうことの難しさと大切さを改めて感じました。これからの日本を、そして世界を担う子どもたちがこういった授業や実験を通じて少しでも環境問題を身近に感じてくれたら、環境に携わる研究者としてこれ以上の喜びはありません。

最後に、新型コロナウイルス感染症対策の徹底にご尽力いただきました3小学校の校長先生を始めとする教職員の皆さま、そして今回の授業を提案してくださった陸養プロジェクトの実行委員会の皆さまに心より感謝いたします。

おまけ写真:大阪のうまいもん、プライスレス。
おまけ写真: 大阪のうまいもん、プライスレス。