REPORT2023年3月号 Vol. 33 No. 12(通巻388号)

国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)報告 ~損失と損害のための基金構築へ~

  • 畠中エルザ(地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス マネジャー)
  • 小坂尚史(地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員)

2022年11月6日~20日に、エジプト・シャルム・エル・シェイクにおいて国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)第27回締約国会議(Conference of the Parties: COP27)、京都議定書第17回締約国会合(Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Kyoto Protocol: CMP17)およびパリ協定第4回締約国会合(Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Paris Agreement: CMA4)が開催された。

また、これと並行して、第57回補助機関会合(科学上および技術上の助言に関する補助機関会合: Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice: SBSTA57、実施に関する補助機関会合:Subsidiary Body for Implementation: SBI57)が開催された。

本稿では、重要な決定となった、損失と損害のための基金構築等の話題と、筆者らが日本政府代表団員として担当していた透明性関連の議題の概要について簡単に報告するが、COP27全体の成果の概要や、サイドイベント等の概況については環境省の報道発表( https://www.env.go.jp/earth/cop27cmp16cma311061118.html)や、国立環境研究所COP27/CMP17/CMA4特設ページ( https://www.nies.go.jp/event/cop/COP27/index.html)を参照されたい。

1. 損失及び損害に対応する基金の構築へ

今次COPでの最大の目玉は、気候変動の悪影響に対してとくに脆弱な途上国を支援するために、損失及び損害(Loss and Damage)に対応するための基金の構築が合意されたことだろう。海面上昇による水没・浸水等に直面する小島嶼国連合にとっては悲願の成就だった。

会合前に途上国連合であるG77+中国により、損失及び損害に対処するための資金アレンジメントに関する新議題の設置が提案され、これを含む議題の取り扱いにまつわる議論がなかなか終わらなかったために、開会式が遅れる幕開けとなった。

2週間にわたる議論を経た最終的な合意内容は以下のとおりである。当該基金の運用に向けてまず移行委員会を設置し、2023年のCOP28/CMA5会合での検討と採択に向けて基金の組織の構造や意思決定の方法、活動内容・責任範囲、資金源などについて勧告を行う。移行委員会は先進国から10名、途上国から14名の計24名で構成され、メンバー間の地域バランスも考慮される。新旧COP議長もメンバーに入ることが明文されており、重要な位置づけの委員会となる。「とくに脆弱な途上国」がどこを指すのか等、多くの論点が整理される必要があるが、歴史的な決定となった。

2. 緩和作業プログラム

2021年の英国・グラスゴーにおけるCMA3会合では、緩和の野心と実施を緊急にスケールアップさせるための作業プログラムを立ち上げることが決まっていた。これを受け、今回のCMA4会合で議論が重ねられ、①プログラムのスコープは2006年IPCCガイドラインに示されるすべてのセクターや分野横断的事項(市場メカニズムの活用等)を含むこと、②CMA4会合後速やかに開始し、2026年まで継続すること、③少なくとも年2回政府代表・非政府ステークホルダーが参加する「グローバル・ダイアログ」を開催すること、④2030年までの野心に関する閣僚級ラウンドテーブルにおいて毎年結果を報告すること等、プログラムの詳細が決定された。

ただ、決定にわざわざ「新たな目標やゴールを課すものではない」という文言が入るなど、速やかに進む印象は受けない決定となった。

なお、今回は、CMA3会合で決定されていた、緩和の野心に関する閣僚級ラウンドテーブルも開催され、日本から西村環境大臣が参加、各国挨拶(ナショナルステートメント)では主要経済国に対して1.5度目標と整合した排出削減目標を策定すること等を呼びかけた。

3. 温室効果ガスインベントリの条約下報告とパリ協定下報告の整合性の確保へ

先進国・途上国に共通で適用されるパリ協定の下でのインベントリ作成の詳細ルールは前回のCMA3会合で決まり、現在は各国が国内で様々な課題の検討や関係者との調整を行いながらインベントリ作成を取り進めている実施の段階に移っている。そのため、国際交渉は基本的に凪の状態だが、今までの条約の下でのインベントリ報告とパリ協定の下でのインベントリ報告とをどのように整合させるのかの課題が残っていた。具体的には、各国とも法的義務を満たすためだけに実質的に同じ内容のインベントリを一年の間に何種類も作るような非生産的なことはしたくないため、両方を兼ね、かつ作成上混乱が生じないように、基本的な前提条件や提出期限のタイミングを整合させておく必要があった。

例えば、「附属書I国の年次インベントリ報告ガイドラインの改定」の議題が合意されたことにより、先進国の条約下とパリ協定下のインベントリ報告が一本化できることになった。条約の下での報告期限が毎年4月15日に規定されている一方、事務局が開発しているパリ協定下のインベントリの報告のためのソフトウェアの完成期限は2024年6月末と決まっていたため、2024年はソフトウェアが未完成の段階で先に条約下報告の提出を求められる可能性があったことなどから、整理が必要な状況だったものである。

また、「温室効果ガスの二酸化炭素換算のための共通の基準」の議題が合意されたことにより、先進国・途上国ともに2024年末までにはインベントリにおける地球温暖化係数(GWP、二酸化炭素に比した温暖化のしやすさの度合い)をIPCC第五次評価報告書(AR5)のGWP 100年値に置き換えることになる。メタンはIPCC第四次評価報告書(AR4)とAR5値が25と28、一酸化二窒素は298と265などで異なるため、各国間のデータ比較の観点からは、地味ながら重要な事項の調整がついたといえるだろう。なお、IPCC第六次評価報告書(AR6)値も直近のIPCC第一作業部会の報告書において公開済みだが、この値はまだ適用されないことに注意する必要がある。

データを見る際には、2023年から2024年にかけて各国インベントリがパリ協定対応のものに変わっていく点に改めて留意されたい。

4. 最後に

COPの全体決定の名称が「シャルム・エル・シェイク実施計画」と名付けられていることからも明らかなように、議長国エジプトは今次COPを「実施のCOP」にすると謳っていた。開催地はアフリカ地域、議長国はアラブグループの主要国なので、これらの地域の関心事・意向が反映されることは他のCOPでも同様のため想像に難くなかったが、損失及び損害のための基金構築の例に見られるとおり、途上国の強い働きかけが長年の議論を経て結実して実施に向けて一歩を踏み出した。

その他を含め個別決定がとられた成果は上記にいくつか例示しているが、議長国が強いリーダーシップを発揮して取りまとめていく全体決定の「シャルム・エル・シェイク実施計画」では、気候変動の科学や対策の緊急性、エネルギー、緩和、適応、損失及び損害、資金等のテーマを幅広くカバーしている。2021年の英国・グラスゴーでのCOP26の全体決定では、パリ協定の長期目標である産業革命前からの気温上昇を1.5度に留めるべく努力を追求することを決議したが、これはCOP27の決定でも維持された。スイス等を含む地域グループがCMAの議題として提起した「温暖化を1.5度に留めること」は、残念ながら採択されなかったが、2021年のラインは守られた。2021年の全体決定にはなかったエネルギーという項目では、「低排出」エネルギーや再生可能エネルギーの増加を通じた、即時の大幅で持続的な世界の温室効果ガス排出量の削減の必要性を強調した。緩和の項目では、2021年の全体決定に入った、緩和策がとられていない石炭火力発電のフェーズダウン(段階的縮減)、非効率な化石燃料への補助金のフェーズアウト(段階的廃止)を各国に呼び掛ける文言がそのまま維持された。資金の項目では、資金の流れを気候変動に対する取り組みと整合させることを目的としたパリ協定2条1 (c)に関する理解を促進するための「シャルム・エル・シェイク対話」を開始すること等が決定された。

次回はアジア地域での開催とはいえ、アラブ首長国連邦・ドバイでの開催、またもやアラブグループ、そして産油上位国が議長国となるので、似た雰囲気の、あまり先進国に有利ではないCOPになると思われる。

新型コロナウィルスの関連では、現地では参加者のほとんどがマスクをしない状態で、周辺に感染者が出たという話は枚挙に暇がなかった。現地での用務があるから渡航しているのに現地で隔離となると、行った甲斐が減じられるので、今後の国際会議の開催の在り方についていろいろと考えさせられた。また、対面開催のコミュニケーション効率の良さをかみしめつつ、何万人ものCOP参加者による、各国の排出量には計上されない国際航空関連の排出等々も気になるところである。コロナ禍以前のCOPに比べるとオンラインで参加できる場面が増えているものの、どの程度参加できるのか(会合の種類や発言の可否)は事前に周知されていない。オンラインで参加できる確証はないため、現地に行かずに参加するという判断をしにくいのが現状だろう。感染症対策及び気候変動対策としてオンライン参加に誘導できると良いのではないかと考える。

写真1 COP27会場入り口のモニュメントと背景にそびえるシナイ半島の山々(写真提供: 衛星観測センター佐伯田鶴主任研究員)。
写真1 COP27会場入り口のモニュメントと背景にそびえるシナイ半島の山々(写真提供: 衛星観測センター佐伯田鶴主任研究員)。
写真2 夕刻に中庭で休憩する参加者たち。
写真2 夕刻に中庭で休憩する参加者たち。

展示ブースやサイドイベント等の報告は2月号をご覧ください。国連気候変動枠組条約締約国会議(第1回~第26回)の報告は、地球環境研究センターウェブサイト(https://www.cger.nies.go.jp/cgernews/cop/)にまとめて掲載しています。