2018年6月号 [Vol.29 No.3] 通巻第330号 201806_330002
副センター長就任にあたって—ボトムアップの時代に総合化を考える
2018年4月より、地球環境研究センター(CGER)の副センター長を拝命いたしました。三枝信子センター長を全力で補佐してまいりたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
低炭素研究プログラムについては、これまでどおり総括を務めてまいります。また、CGER事業のうち、モニタリング、データベース、および温室効果ガス排出インベントリオフィスについては、三枝センター長に引き続きリードをお願いし、私自身は、それらについてもできる限り把握できるように学びつつ、それ以外の部分を主に担当してまいります。「それ以外の部分」に含まれるのは、スーパーコンピュータ、交流推進、Global Carbon Projectオフィスなどです。いずれも、スタートした時点から年月を経て、取り巻く状況が様変わりしてきていることをよく認識して進めていく必要があると感じています。
1990年にCGERが設置されてから、その活動の3つの柱として「地球環境のモニタリング」、「地球環境研究の支援」、「地球環境研究の総合化」が掲げられてきました。このうち、具体的に何をすべきかが、スタート当時からおそらく一番悩ましく、現時点において一層悩ましいのが「総合化」ではないかと思います。過去のCGERニュースを紐解くと、CGERスタート当時は地球環境研究の黎明期で、CGERが国内の多分野の専門家を糾合した「地球環境研究者交流会議」を主催し、学際的、省際的な「総合化」の結節点たらんとしていた様子が伺えます。当時の素朴な誌面の行間から、黎明期の熱気と気迫があふれてくるようです。
その後、地球環境研究は多くの大学、研究機関で活発化しました。2002年には内閣府の総合科学技術会議の下に「地球温暖化研究イニシャティブ」が発足し、政府のフォーマルな体制下で学際的、省際的な総合化が進んだようでした。しかし、現時点では、そのような体制は事実上消失しています。また、国立環境研究所内では、2011年からの独立行政法人第3期中期計画において、8つの研究分野がすべてセンター化するという組織改編が行われた結果、地球環境研究に関わる研究者が複数のセンターに分散した面があります。CGER発足以来の「総合化」のスピリットを受け継ぐことを考えたときに、このような現在の状況下でCGERは何をすべきでしょうか。
一つ意識すべきは、所内の他センターとの連携であると思います。前述したように、現体制では、気候変動研究一つを推進するにしても、社会環境システム研究センターをはじめとした他センターとの連携が不可欠です。さらに近年は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に象徴されるように、気候変動問題は持続可能性問題の一部として位置づけられ、他の問題群とのシナジーやトレードオフを含めて考える必要性が広く認識され始めています。これを考えると、他の研究分野との連携の動機はさらに拡大します。
もう一つ考えるべきことは、フォーマルな司令塔が不在の状態で、いかにして総合化を促進するかです。ヒントになるかもと思うのは、近年、様々な分野でボトムアップの戦略が重要視され始めていることです。たとえば、気候変動対策でいえば、京都議定書の目標割当と管理がトップダウンだったのに比べて、パリ協定はボトムアップです。さらに、国連や国の決定を待たずに、都市や企業が先進的なアイデアで取り組むというボトムアップの対策の流れも拡大しています。少し外れますが、管理者不在で機能する仮想通貨のようなシステムが注目を集めていることにも、ボトムアップ化する世の中の流れを感じます。
ポイントはおそらく、中央に管理されると「やらされている感じ」がするのに対して、自発的な取り組みを出発点にする方がやる気が出ることです。そのため、動機付けがうまくいって、かつコーディネートの仕組みさえできれば、ボトムアップの方が回っていきやすいのだと思います。
したがって、これからの「総合化」は、「総合化しなければいけないといわれたので、面倒だけど頑張ってやる」のではなく、「学際、省際でつながった方が当然メリットがあるので、お互いに自発的に手を伸ばしてネットワーク型につながっていく」ような形で進むのがよいように思います。そのためには、「実際につながってみて、こんなにメリットがあった」という実例を創っていくのがよいでしょう。
さらにいえば、「総合化」に限らず、CGERのあらゆる業務が、「やらされている感じ」でなく、積極的に意義を感じて自発的にやりたくなるものになるとよいなあと思います。これは、私が別途代表を務めている所内組織である「社会対話・協働推進オフィス」において考えていることとも通じています。そこでは、社会との対話を「面倒だけど必要だからやる」のではなく「楽しくて役に立つからやる」と思える人を所内に増やしていくことを目指しています。
そんなふうに楽しく仕事をしているうちに、気が付いたら、CGERの存在感が高まり、かつ、国内および世界の地球環境研究に大きく貢献をしていた、ということになるのが理想です。そのために、副センター長として何ができるか、考えていきたいと思います。皆さま方のご支援、ご鞭撻をお願いいたします。