2018年6月号 [Vol.29 No.3] 通巻第330号 201806_330006

本当に二酸化炭素濃度の増加が地球温暖化の原因なのか

  • 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室長(現副センター長) 江守正多

2018年3月10日(土)北海道帯広市のとかちプラザにおいて開催された「地球温暖化とわたしたちの将来」のなかで、講演者と会場の参加者によるディスカッションを行いました。参加者の一人から地球温暖化の原因について二酸化炭素(CO2)濃度の増加と対比して他の要因についても説明してほしい、また、大気の0.04%に過ぎないCO2が大きな影響を与えているとは考えられないので、CO2原因説をそろそろ卒業してもいいのではないか、という質問をいただきました。この質問に対してお答えした内容を紹介します。なお、限られた時間であったため、概要の説明にとどめました。

地球温暖化はCO2濃度の増加ではなく、他の要因で起こっているという説があります。CO2濃度の増加が温暖化の原因ではないという科学者も確かにいます。個人的な見方ですが、そういう人は気候変動の科学を十分吟味した上でおっしゃっているようには思えないところがあります。数字の話をすると科学は多数決ではないと言われそうですが、温暖化をテーマにしている科学論文の97%は、人間活動によるCO2増加が温暖化の主な原因であることを前提にしています。CO2の増加が原因ではないという3%の論文の内容を吟味すると、間違っているところがいろいろあります。CO2の増加が原因ではないと思っている人の意見を変えることは困難なのですが、科学的に考慮すべき点をいくつか説明したいと思います。

一つは太陽活動。太陽活動は地球の温度に影響を与えます。どれくらい太陽活動が影響するかということにはさまざまな議論があり、科学的に100%理解されたというわけではありません。過去1000年の気温のグラフから考えてみます。過去1000年のなかで、実際に温度計で測っていない部分は木の年輪の間隔などの間接的なデータで推定します。北半球を代表する過去1000年の気温変化の推定には幅があります。それを気候モデルでシミュレーションして過去を再現したものが図中の赤い線です。過去は、当然人間活動の影響はほとんどありませんので、太陽活動と火山について間接的に推定したデータを条件として入れます。北半球は1000年くらい前に暖かい時期があり、300年前に寒い時期があって、グラフにはそれが表現されています。注目したいのは300年前です。太陽活動が非常に弱い「マウンダー極小期」と呼ばれていた時代です。太陽の黒点が現れないことが70年くらい続いたといわれています。それで地球も非常に寒かったのではないかということで、やはり太陽は大事だという一つの根拠になっています。その頃どれくらい寒かったかというと、産業革命前の平均気温より0.5°C、どんなに大きく見積もっても1°Cくらい低い気温です。太陽だけが原因ではなく、火山の原因も入っていますので、太陽活動が弱まったとしてもその影響は1°C未満だろうというのがこのデータからいえることです。一方で、人間活動による温室効果ガスの放出が今後もどんどん続くと、今世紀末までに平均気温が2°C〜4°C上がっていくので、気温の上昇には人間活動の影響が強いだろうということになります。現在太陽活動は実際に弱まっていて、マウンダー極小期のような長期的な弱まりがこれからくるかもしれないと考えている太陽の研究者は多いようです。それが地球の温度を下げる効果をもつということは十分考えられますが、その大きさが1°C未満ならば、温暖化をすべて打ち消すような話ではありません。

過去1000年の気温変動:太陽活動の低下が原因といわれる300年前ごろの小氷期の気温低下は1°C未満。気候モデルによるシミュレーションで再現できる。

もう一つは氷河期がくるのではないかという説です。氷期、間氷期という自然のサイクルが地球には訪れるのだから、人間活動ではなく、その要因が大きいのではないかという説です。現在間氷期で、もうそろそろ終わるのではないか、氷期がくるのではないかということです。結論からいいますと、次の氷期は何万年か先だということが科学的に認識されています。氷期-間氷期のサイクルは、基本的には天文学的な現象で、地球の公転軌道、自転軸の傾きが木星などの重力の影響等を受けて、微妙に何万年周期で変化します。それがきっかけになって地球に入ってくる太陽エネルギーの分布が変わり、氷が増えたり減ったりして起こると考えられています。現在の間氷期を終わらせるような太陽からの入射エネルギーの弱まりはしばらくこないことが天文学的な計算からわかっています。さらに大事なことは、天文学的なリズムで地球に氷期がくるようなタイミングになったとしても、人間が温室効果ガスを増やしてしまっていることで、氷期がこないということも起こり得ます。つまり、人間活動が自然のリズムである氷期を止めてしまうくらい地球に大きな影響を及ぼしてしまっています。これはCO2の濃度からわかりますが、産業革命前のCO2濃度は280ppmで、氷期のときは180ppmです。氷期と間氷期の差はだいたい100ppmです。これには先に述べた天文学的な原因があって、その結果濃度が変化しています。一方で産業革命前から現在まで、CO2濃度は280ppmから400ppmに増えていて、氷期-間氷期の変化を超えるくらいの変化を人間活動で起こしていることになります。人間活動の影響が天文学的な影響に匹敵するような大きさになってしまっているのです。

次の氷期の到来は?:氷期-間氷期は地球の公転軌道と自転軸の変化により日射の分布が変化して引き起こされる/次の氷期をもたらす日射の減少はあと3万年以上起こらない→「もうすぐ氷期が来る」は誤り

主に人間活動の影響で温暖化が起きているということは、科学者の大部分、少なくともほぼすべての気候科学者の間で合意されています。気候科学者以外でも世界のさまざまな科学アカデミーの声明などで、現在の温暖化は主に人間活動によるということが支持されています。科学者は20世紀後半以降の世界平均気温の上昇を人間活動の影響を入れたシミュレーションと入れないシミュレーションで再現実験を行いました。人間活動を入れないシミュレーション、つまり太陽と火山活動だけの影響で世界の平均気温が変化したらどうなるかというのと、人間活動によるCO2などの増加を入れたシミュレーションとで比較すると、このグラフのようになります。人間活動を入れたシミュレーションでないと観測された気温上昇の説明ができないのです。これは人間活動によるCO2などの増加が温暖化の主な原因ということの強い根拠になっていて、これを覆すような議論は聞いたことがありません。

20世紀半ば以降の世界平均気温上昇の半分以上は、人為起源の要因による可能性が極めて高い(95%以上)

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP