2014年3月号 [Vol.24 No.12] 通巻第280号 201403_280011

地球環境豆知識 26 pCO2

  • 地球環境研究センター 大気・海洋モニタリング推進室 研究員 中岡慎一郎

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表層海水中のpCO2というのは、二酸化炭素(CO2)について海水と平衡になっている空気(平衡空気)中のCO2分圧を意味しています。

大気海洋間でCO2のやりとりを考える際には、大気と海洋の境界に(ごく薄い)平衡空気の層があるとみなします。そして、境界内の平衡空気中のCO2と、境界外側の大気中CO2の分圧差(ΔpCO2)によってCO2のやりとりが行われます(ΔpCO2 = 表面海水pCO2 − 大気pCO2)。そのため、観測すべきなのはその平衡空気中のCO2濃度(pCO2)と境界外の大気CO2濃度になります。大気のCO2濃度の測定は通常の方法を用いますが(たとえば、地球環境研究センターニュース2012年7月号および8月号掲載の「長期観測を支える主人公—測器と観測法の紹介— [2] 透明人間!であるガスを測定する方法—NDIR:二酸化炭素の場合—」を参照)、pCO2観測では海水を平衡器と呼ばれる装置に通して、平衡器内の空気と海水を平衡状態にし、その空気のCO2濃度を測定しています。(海水中CO2の測定については、地球環境研究センターニュース2012年10月号に掲載された記事「長期観測を支える主人公—測器と観測法の紹介— [3] 海洋に溶ける温室効果気体の挙動を探る:海洋二酸化炭素濃度測定システム」を参照下さい。)通常、CO2濃度は乾燥空気中の濃度を基準としており(xCO2と呼ばれる、通常ppm単位)、測定の際には除湿を行う必要がありますが、海水に対する平衡空気は飽和水蒸気を含んでいますので、湿度100%の湿潤空気の基準に直すため、現場の気圧から水蒸気圧を差し引いて補正を行います。表層海洋のpCO2を表す単位は、伝統的にµatmがよく用いられています。

pCO2 = xCO2 × (現場気圧P − 飽和水蒸気圧pH2O)

ここで、pCO2はCO2を理想気体として扱っていますが、実在気体として換算したfCO2(CO2フガシティー)も同じように用いられています。

fCO2pCO2に比べて約0.3%程度小さく、CO2濃度が400ppmの空気であれば、その違いは1.2µatm程度になります。国立環境研究所(以下、国環研)では貨物船に協力をいただいて北太平洋(日本-アメリカ間)と西太平洋(日本-オセアニア間)のpCO2観測を行っていますが、世界各国の研究機関でも貨物船や観測船を用いて、北は北極海から南は南極海まで、様々な海域で海水中pCO2観測を行っています。そこで、これまで得られた観測データを統合して統一的な基準で品質確認を行うために、Surface Ocean CO2 ATlas(SOCAT: http://www.socat.info)が2007年に発足し、国環研は北太平洋(北緯30度以北)を担当する責任機関として観測データの品質確認を行いました。2011年9月には1967年から2007年までの品質確認済みpCO2観測生データと格子化データ(空間解像度1度、時間解像度ひと月)がSOCAT ver. 1.5として一般向けに公開されました。さらに2013年6月にはより多くの研究機関が参画し、2011年までの観測データを収録したSOCAT ver. 2が公開されました。提供されたデータは現在多くの研究者に利用されており、解析が進めばこれまで把握が困難だった海水pCO2分布や大気海洋間CO2交換量分布の長期変動について新しい知見が得られるのではないかと期待されています。

目次:2014年3月号 [Vol.24 No.12] 通巻第280号

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