2014年3月号 [Vol.24 No.12] 通巻第280号 201403_280009

【最近の研究成果】 波照間島での大気観測に基づく中国からのメタンと一酸化炭素排出量の推定

  • 地球環境研究センター 主席研究員 遠嶋康徳
  • 地球環境研究センター 向井人史, 谷本浩志, シャミル・マクシュートフ, 勝又啓一, 町田敏暢

波照間島では冬季を中心に、二酸化炭素やメタン、一酸化炭素等の大気中濃度がほぼ同時にピーク状に増加する現象がしばしば観測されます。これは、季節風の影響で大陸から汚染された空気塊が風下に位置する波照間島に到達するためです。そこで、冬季のデータ[1]を用いて二酸化炭素に対するメタンおよび一酸化炭素の変動比を調べたところ、過去10年程度の間にメタン・一酸化炭素の変動量が相対的に減少していることが分かりました(図1)。これは、経済成長の著しい中国で化石燃料消費量が増大し、風下での二酸化炭素変動量が増加したことに起因します。ところで、化石燃料起源の二酸化炭素放出量はエネルギー統計等から比較的正確に推定できますが、発生源が多岐にわたるメタンや一酸化炭素の放出量を推定することは難しいとされています。そこで、化石燃料起源の二酸化炭素放出量は正しいと仮定し、大気輸送モデルを用いて再現される波照間における変動比が観測結果と一致するようにすることで、中国からのメタンおよび一酸化炭素の放出量を推定しました。その結果、メタンの年間放出量[2]が過去10年間で毎年約1TgCH4[3]の割合で増加していることが分かりました。一方、一酸化炭素は2005年頃までは増加傾向にあったものが、それ以降横ばいか減少傾向にある可能性が示唆されました。多くの仮定[4]に基づく推定でまだまだ不確かさは大きいのですが、本研究の結果は排出インベントリに基づく推定値の検証にも役立つと期待されます。

fig

図1波照間ステーションで観測された大気中二酸化炭素濃度に対する (a) メタン、および、(b) 一酸化炭素の変動比の経年変化。各点は11月から3月までの5カ月間の平均値を表している

fig

図2推定された中国からの (a) メタン(水田以外の人為起源発生源からのメタン)、および、(b) 一酸化炭素の放出量の経年変化。比較のために排出インベントリに基づく他の研究による推定値もプロットしてある

脚注

  1. 具体的には11月から3月までの5カ月間のデータを使用している。
  2. 正確には水田以外の人為起源発生源からのメタンの年間放出量を推定している。
  3. 1TgCH4とはメタン百万トン。
  4. 「化石燃料起源の二酸化炭素放出量は正しい」という仮定の他に、陸上生物圏および海洋の二酸化炭素フラックスは気候値を用い年々変動はないと仮定している。また、大気輸送の年々変化の影響も考慮していない。

本研究の論文情報

Temporal changes in the emissions of CH4 and CO from China estimated from CH4/CO2 and CO/CO2 correlations observed at Hateruma Island
著者: Tohjima Y., Kubo M., Minejima C., Mukai H., Tanimoto H., Ganshin A., Maksyutov S., Katsumata K., Machida T., Kita K.
掲載誌: Atmospheric Chemistry and Physics (2014) doi:10.5194/acp-14-1663-2014.

目次:2014年3月号 [Vol.24 No.12] 通巻第280号

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP