2012年2月号 [Vol.22 No.11] 通巻第255号 201202_255007

オフィス活動紹介:温室効果ガスインベントリオフィス(GIO) 温室効果ガスインベントリの審査 〜レビュアーとは?〜

地球環境研究センターニュース2009年11月号では、温室効果ガスインベントリについて審査される立場から記述している。今回は他国を審査する立場(レビュアー、審査員)について紹介を行う。

温室効果ガスインベントリオフィス(以下GIO)からは毎年審査員の資格をもつメンバーが専門家審査チーム(Expert Review Team: ERT)の一員として他国の温室効果ガスインベントリ審査に参加しており、2011年は計4名がレビュアーとして参加した。

審査には、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局のあるドイツ・ボンに集まり複数国を審査する『集中審査』と対象国を訪れて審査を行う『訪問審査』がある。集中審査の場合、標準的な審査チームはエネルギー、工業プロセス、農業、土地利用、土地利用変化及び林業分野(Land-Use, Land-Use Change and Forestry: LULUCF)、廃棄物と分野横断的事項の6分野各2名の1チーム12人で編成され、附属書I国と非附属書I国のバランスや地理的バランスを考慮して構成される。また、そのうち2名はリードレビュアーとしてチームをとりまとめる役割を負う。1チームの対象国は附属書I国の4〜5カ国であり、多くの場合、主に1人が2〜3カ国の各分野を審査することとなる。訪問審査の場合、対象国は訪問する1カ国であり、審査チームは各分野1名の計6人で構成される。また、各審査はUNFCCC事務局担当者がコーディネーターとして随行する。なお、レビュアーの所属はGIOのような各国の温室効果ガス(GHG)インベントリ作成機関のほか、研究機関、大学教員、国際機関、民間コンサルタント会社などである。なかには、2006年IPCCガイドラインの著者も含まれる場合がある。

図は温室効果ガスインベントリ審査の流れとレビュアーの主な業務を示したものである。インベントリ審査は主に国家インベントリ報告書(NIR)、共通報告様式(CRF)に対して行う。キーカテゴリーと呼ばれる主要排出源を中心に「排出量や算定方法が妥当か?」「算定から抜けている排出源はないか?」「前年の年次インベントリ審査報告書(ARR)の指摘事項に対応しているか?」などについて、IPCCガイドラインの算定方法や値(デフォルト値)との比較、他国との比較を通して審査を行う。前年提出値から算定方法や排出係数を変更したり、新たな統計値の公表により排出量が変わることにより、過去の報告年に遡って再計算されている排出源については入念にそれらの妥当性のチェックを行う。例えば、当該国が「排出量削減技術の普及と研究の発展により、新たな国独自の排出係数が開発され、排出量の更新を行った」といった場合は、「その排出係数が国の状況に合致し、参考文献なども十分にまとめられており、その変更に至る決定が妥当と判断できるか?」といった点を調べていく。分野横断的事項のレビュアーは国内制度のチェックや京都メカニズムで獲得したクレジット量などに不整合がないかといった点についてもチェックを行っている。なお、算定方法や排出量などに重大な問題があるもしくはその疑いがある場合は追加質問と潜在的問題点をまとめた文書を作成し、当該国へ送付し、改善を要求することとなる。

fig. 審査の流れと主な業務

温室効果ガスインベントリ審査の流れとレビュアーの主な業務

審査の最も重要な期間は審査チーム全員が集まる『集中/訪問審査期間』の1週間(月〜土曜の実働6日間)であり、その期間に前述の主なチェック、追加質問と潜在的問題点をまとめた文書の作成を行うとともに、ARRの草案作成を開始する。また、多くの場合は事前質問をその期間の1週間前までに作成し、該当国へ送付しているため、審査対象物のチェックは2週間〜1カ月前から取りかかっている。集中/訪問審査期間後もARRの作成が残っており、この作業は最終的なARRがUNFCCCの公式文書として公表されるまで断続的に行われる。これらすべてを含めた実働としては、分担する国数やレビュアーとしての参加回数などによっても異なるが、おおよそ1カ月程度と思われる。

なお、温室効果ガスインベントリのレビュアーになるためには、まずは国内で温室効果ガスインベントリに関する専門家として認知され、国の推薦を受ける必要がある。その後、オンライントレーニングで実施されるレビュアートレーニングを受講したのち、セミナー形式の実践的なトレーニング(擬似審査)を経て、ペーパーテストに合格することにより資格が認定される。

(文責:酒井広平)

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP