2012年2月号 [Vol.22 No.11] 通巻第255号 201202_255001

気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17)および京都議定書第7回締約国会合(CMP7)報告 1 政府代表団メンバーからの報告:温暖化国際交渉の次なるフェーズへ

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 畠中エルザ
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 玉井暁大

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)報告 一覧ページへ

2011年11月28日〜12月11日に、南アフリカ・ダーバンにおいて国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第17回締約国会議(COP17)および京都議定書第7回締約国会合(CMP7)が開催された。これと並行して、気候変動枠組条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会(AWG-LCA)第14回会合(第4部)および京都議定書の下での附属書I国の更なる約束に関する特別作業部会(AWG-KP)第16回会合(第4部)並びに第35回補助機関会合(科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合:SBSTA35、実施に関する補助機関会合:SBI35)が開催された。国立環境研究所からは、日本政府代表団(交渉)、サイドイベント(発表)、ブース(展示)という三つの立場で参加した。以下、2回に分けて、各々の立場から概要を報告する。

1. 経緯

今次COP17会合は、ここで合意が得られなければ、京都議定書の第一約束期間と第二約束期間との間にいよいよ空白が生じることになるという意味において、重要なものであった。また、そのような節目にあって、京都議定書に参加していない米国や途上国のうち主要な排出国が網羅されるような新たな国際枠組みをどのように構築するかということに注目が集まっていた。

以下、今次COP会合の主要な成果に焦点を当てて概要を報告する。

2. 新たな特別作業部会

本COP会合の成果として最も際立つものは、強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(Ad Hoc Working Group on the Durban Platform for Enhanced Action)を気候変動枠組条約の下に設置することに合意したことだろう。この作業部会のマンデートは、先進国・途上国を問わずすべての国に適用される議定書、法的文書または法的拘束力を有する合意成果を2015年までに得て、2020年から発効・実施させることである。議定書、法的文書、法的拘束力を有する合意成果のいずれの形になるかでまたもめることになるだろうが、「野心レベル」[1]の向上、すなわち世界全体で現在目指されているレベルを上回る排出削減の達成に資するような、すべての国に適用される法的性質を有する合意文書を2015年までに作成することを目指して議論を開始することを決めたのは、大きな成果だといえよう。なお、AWG-LCAそのものは、バリ行動計画の目的を達成するための一連の決定を採択し終えるために、もう1年期限を延長したのち幕を引くこととなった。

3. 京都議定書第二約束期間

京都議定書の第二約束期間の設定と参加について最近柔軟な姿勢を示していたEUが本会合で同意を表明し、彼らを中心に据えて京都議定書第二約束期間を設定することが合意された。背景には、すでに2020年の削減目標を視野に2013〜2020年のEU域内排出量取引制度の準備をしているEU自身のお家事情や、議長国を抱えるアフリカ諸国がアフリカの地を京都議定書の墓場にしてはならないという強い意思を有していたことがあった。一方で、後述のカンクン合意事項の実施に関わる成果、そして新たな国際枠組みとあわせてパッケージでまとめて受け入れることと引き換えにしたいという、インドをはじめとする主要途上国の思惑が反映されたものと思われる。なお、第二約束期間を2013年1月1日から5年間とするか8年間とするか、また参加国の数値目標設定の議論は決着せず、AWG-KPでもう1年議論を継続することとなった。

第二約束期間への不参加の表明は、ロシア、日本、そして少し遅れてカナダがすでに行っている。今次COP17会合の終了直後に、第一約束期間の完了を待たずして、当該約束期間中の排出削減義務を放棄することにもつながる、議定書そのものからの離脱の意思をカナダが表明したのは印象的であった。

4. カンクン合意事項の実施

今次COP会合では、カンクン合意を実施に移してゆくためのさまざまな決定が採択された。中でも重要だったのは、緑の気候基金の基本設計について合意・採択されたことだろう。この基金は、コペンハーゲン合意に根ざし、カンクン合意において正式に確認された先進国による2020年までの1000億ドルの長期的な資金提供等の実施ツールとなるものである。今回のCOP決定には、COPと基金との関係性、基金理事会の構成、意思決定方法、機能等について盛り込まれた。資金的な投入は、条約の締約国のうち、先進国が行うと規定されているが、他の資金源から得ることもできる。今後どの程度の資金を集めることができるかが注目ポイントとなるだろう。

また、気温上昇を2度以下に抑えるという目標の実現に必要とされる排出削減量と野心レベルとの間にギャップが生じていることに関して問題視する声が高まっていることを受けて、各国の行動の透明性の向上が非常に重要なテーマとなってきている。測定・報告・検証(MRV、「地球環境豆知識」参照)のためのルールが決定されたことは今次会合の大きな成果となった。

具体的には、先進国は、まず目標の前提条件の明確化作業を継続することになった。手始めに、各国の数値目標に関係する情報を、共通テンプレートを用いて2012年3月5日までに提出することとなり、SB36会合期間中に開催されるワークショップで発表の場が与えられることになる。これとあわせ、第1回隔年報告書の提出日も2014年1月1日に決定し、国別報告書については今まで先進国は通例として4年に一度提出する形でその都度COP決定で次期提出日を採択していたところ、正式にこの頻度での提出を求められることとなった。なお、先進国による隔年報告ガイドライン、国際評価・レビューに関する手続きも決定された。前者では、隔年報告書に含まれるべき内容を下表のとおり規定しており、国別報告書の中間報告として、重要事項についてのみ情報を更新して報告させる媒体となる。

途上国は、まず各国の適切な緩和行動の前提条件に関係する情報を、先進国同様、2012年3月5日までに提出することとなり、SB36会合期間中に開催されるワークショップで発表の場が与えられることになる。また、非附属書I国による第1回隔年報告書の提出期限は2014年12月中と決定し、非附属書I国による隔年報告ガイドライン、国際協議・分析に関するガイドラインも決定された。この隔年報告書は、途上国に義務づけられてきた既存の国別報告書とは異なり、提出頻度が明確に規定されているところが特徴的である。

隔年報告書の概要

  先進国 途上国
名称 Biennial Reports (BR) Biennial Update Reports (BUR)
頻度 2年に一度(第1回報告書提出期限:2014年1月1日) 2年に一度(第1回報告書提出期限:2014年12月)
内容
  1. 温室効果ガス排出量およびその動向に関する情報※
  2. 目標
  3. 目標の達成に関する進捗状況
  4. 排出予測
  5. 資金、技術、キャパシティビルディングに関して実施した支援
  1. 国家温室効果ガスインベントリ
  2. 緩和行動
  3. 資金、技術、キャパシティビルディング面のニーズおよび受けた支援
品質担保の方法 国際評価・レビュー 国際協議・分析

※年1回提出している温室効果ガスインベントリの情報を含めることになる。

今次COP会合前にも、国連環境計画の報告書「排出量ギャップをこえて(Bridging the Emissions Gap)」が発表され、現在の各国の2020年の排出削減目標/排出削減行動量の累積値では、2度目標の達成に向けて60〜110億トン(二酸化炭素換算)足りないという指摘がなされた。計画としての目標、実施としての政策・措置、評価としての報告排出量がある程度整合すること、またこれら一連の取り組みが着実に気候変動緩和につながるようにすることが、とくに先進国には今まで以上に求められている。一方、途上国側においても、緩和行動と、そのために受けた支援との関係についての説明責任が高まっている。いずれも、透明性を担保するのは簡単ではないが、世界全体での排出削減を進めてゆくための温暖化対策の基盤整備のために、最大限の努力が必要であることは否定できない。

この他、カンクン合意事項の実施に向けては、適応委員会の活動内容、国別適応計画の内容、資金に関する常設委員会の機能等についても合意された。

5. 温室効果ガスインベントリ、国別報告書関連事項

ここでは筆者らが担当したインベントリ、国別報告書関連議題の成果についても簡単に紹介したい。

現在、附属書I国のインベントリの報告義務を規定するUNFCCC報告ガイドラインを改訂するタイミングにきている。今次COP会合では、第一約束期間終了後の報告に向けた2013年の本格改訂を前に、試行期間をとるための仮決定が採択された。IPCCが策定した2006年IPCCガイドラインに従って報告を行うことになるため、2010年からSBSTA本会合の場以外にもワークシップを開催して議論を重ねてきたが、今次会合でも仮決定とはいえ、かなり細かな点も含めて最後まで議論することとなった。結局12月3日のSBSTAの閉会全体会合までには合意に至らず、SBSTA議長の下に参集する形で約1週間協議が継続されたのち、報告対象ガスの追加等を含むCOP決定が採択された。

先に述べた通り、排出量報告の重要性は益々高まっている。IPCCの下には国家温室効果ガスインベントリタスクフォースが設けられ、報告の際に従うべき各国共通のルールを定めており、比較可能性、透明性担保の面からは、目標や政策・措置の効果の報告[2]にかなり先行している。今後もMRVルールを実際の運用に移して行く際に、この附属書I国のインベントリ報告ガイドラインにおける経験や議論が参照されることは間違いない。

なお、こうして条約上の報告の議論に一定程度決着がついたことを受けて、京都議定書第二約束期間の対象ガス等の議論も、これと整合する形で収束した。

SBIの国別報告書関連議題は、ここ数年、AWG-LCAの議論を反映して、将来の報告の仕組みのあり方を模索し、先進国と途上国との報告義務のバランスをはかろうとする場となっていた。今回、AWG-LCAにおいてMRVルールがある程度固まったことを受けて、国別報告書の提出頻度とその内容という根幹部分に関しては、多少は議論が収束することになるだろう。今後はそれを取り巻く技術的・資金的支援の側面において議論が過熱するものと思われる。

MRVの一端を担う筆者らインベントリの関係者にとっては、今次COPでは関係する決定事項が多く、重要な一歩を踏み出したと言える。日本にとっては、京都議定書第一約束期間後、かつ2020年からの新枠組みを視野に入れての、報告作業に向けて着々と準備を始めてゆかねばならない。

6. 最後に

今次会合では上述したようにさまざまな成果が得られたが、その多くが会合最後に同時のタイミングでパッケージで合意されている。技術的に細かい附属書I国のインベントリ報告ガイドラインに関するSBSTA議題においてさえ、最後の最後まで文書の一部箇所について合意が引き延ばされ、パッケージ合意の取り引き材料の一つになったものと思われる。今次COP議長のヌコアナ゠マシャバネ氏には、前回COPのエスピノサ氏のような緻密な議長手腕の発揮はなかったように思うが、意外に成果が出たのは、参加グループごとに、このタイミングでそれぞれ国に持ち帰らなくてはいけないお土産事項があり、予想外に交渉が延長されて担当者が次々と帰国せざるを得ない中で、一気に折り合いをつけなければならなかったからではないか。

photo. ヌコアナ゠マシャバネ議長

議事を取り仕切るヌコアナ=マシャバネ議長(COP17最終日)

次回COP会合のホスト国問題では韓国とカタールとの間で綱引きが続いていたが、今次会合の初盤に、COP18会合はカタールがホストし、閣僚級のプレCOPを韓国がホストすることが発表された。COPそのものの成功はもとより、議長国がそれにうまく導くことに強く期待するが、この契機に、カタールをはじめとする中東諸国が低炭素社会づくりに向けてどのような取り組みの姿勢を示すのか非常に興味深いところである。期待したい。

脚注

  1. 各国がコペンハーゲン合意の下で誓約し、カンクン合意によって正式に承認された、2020年の排出削減目標/排出削減行動量の累積値。
  2. 現在、附属書I国の国別報告書において報告している。

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