COLUMN2024年1月号 Vol. 34 No. 10(通巻398号)

観測現場発 季節のたより[27] 黄緑色のカラマツ林

  • 両角友喜(地球システム領域衛星観測センター 特別研究員)

国立環境研究所では、気候変動に対する森林の役割を明らかにするため、富士山の北麓に広がるカラマツ林において2006年から観測を行っています。ここでは、森林が温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)を吸収・放出する量を正確に評価するための研究が行われています。北海道大学の協力により、2021年からタワーに設置している高波長分解能分光放射計(写真1)について紹介します。この装置は太陽光と植物から反射した光をタワー上部で捉え、赤・近赤外の酸素吸収帯スペクトル*1を解析することで植物のクロロフィル色素の蛍光(写真2)を検出しています。この蛍光は光合成速度に強く関係しているため、リモートセンシングによるCO2吸収量の推定に役立てられます。現に国立環境研究所がJAXAと環境省とともに推進する温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)において初めてクロロフィル蛍光の全球観測とCO2吸収量の推定が行われた経緯があります。

2023年10月11日に分光放射計のメンテナンス作業を行いました。富士山に近いためか、これまで強い風に吹かれることが多かったですが、今回は穏やかな風の中でタワーでの作業を完了出来ました。周辺ではカラマツの黄葉がはじまり、光合成のために葉に蓄積されていたクロロフィル色素量が減少するので蛍光も少なくなってきます。この地域のカラマツ林の光合成機能がどのように変動しているのか、今後も研究を継続していきます。

写真1  富士北麓フラックス観測サイトタワー上のパノラマ撮影。分光放射測定装置(矢印)から広大な森林を見る。
写真1  富士北麓フラックス観測サイトタワー上のパノラマ撮影。分光放射測定装置(矢印)から広大な森林を見る。
写真2  カラマツ葉の実験室でのUV蛍光撮影。赤く見えるのはクロロフィル色素の蛍光。
写真2  カラマツ葉の実験室でのUV蛍光撮影。赤く見えるのはクロロフィル色素の蛍光。
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