RESULT2024年1月号 Vol. 34 No. 10(通巻398号)

最近の研究成果 世界最大級の大規模アンサンブルMIROC6-LE

  • 塩竈秀夫(地球システム領域 地球システムリスク解析研究室長)
  • 林未知也(地球システム領域地球システムリスク解析研究室 特別研究員)
  • 小倉知夫(地球システム領域 気候モデリング・解析研究室長)

大気、海洋、陸面などの気候システムには、移動性高低気圧やエルニーニョ現象などの、人間がいてもいなくても自然に発生するゆらぎ(内部変動)があります。過去の気候変動の要因を分析する時にも、将来の気候変動を予測する時にも、内部変動は重要な不確実性要因になります。気候モデルのシミュレーション実験のなかでも内部変動は発生しますが、初期値を変えて何度も実験(アンサンブル実験)を行うと内部変動がそれぞれのメンバで異なる時間発展をするため、内部変動による不確実性の幅を見積もることができます。またアンサンブル間の平均値を計算すると、メンバ同士で内部変動が打ち消し合うので、温室効果ガス濃度増加などの外部因子による気候影響をより明瞭に検出できるようになります。

我々は気候モデルMIROC6を用いて、世界最大級の大規模アンサンブルMIROC6-LEを作成しました。MIROC6-LEは下記の実験により構成されます。

本論文ではMIROC6-LEを用いて、気温と降水の平均状態および内部変動の将来変化を解析しました。図1に解析結果の一例を示します。過去の年最大日降水量変化の温暖化シグナル(過去再現実験と自然起源外部因子実験の差)を見積もったものです。多くの気候モデル研究では3メンバや10メンバのアンサンブル実験しか行われませんが、それでは世界の限られた地域(面積比で19%と35%)でしか統計的に有意な差が検出できません。一方、50メンバのアンサンブル実験を使うと、世界の69%の地域で有意な差を検出することができます。

図1 過去の年最大日降水量変化(1850-1900年平均値と比べて2000-2020年平均値が何%増減したか)の過去再現実験と自然起源外部因子実験の差。陰影はアンサンブル数が(a) 3、 (b) 10、(c) 50のときのアンサンブル平均値で、過去再現実験と自然起源外部因子実験の差が5%検定で有意な場所にハッチをかけている。カッコ内の数字は、差が有意になった場所が世界の面積の何%を占めるか。
図1 過去の年最大日降水量変化(1850-1900年平均値と比べて2000-2020年平均値が何%増減したか)の過去再現実験と自然起源外部因子実験の差。陰影はアンサンブル数が(a) 3、 (b) 10、(c) 50のときのアンサンブル平均値で、過去再現実験と自然起源外部因子実験の差が5%検定で有意な場所にハッチをかけている。カッコ内の数字は、差が有意になった場所が世界の面積の何%を占めるか。

MIROC6-LEの総実験年数は76,750年で、これは世界の有名な大規模アンサンブルであるCESM2-LE(32,675年)やMPI-GE(58,800年)などよりも大きなアンサンブルになります。MIROC6-LEの出力データのうち大部分は既に公開しており、Earth System Grid Federationノード (https://esgf-node.llnl.gov/search/cmip6/) から無料でダウンロードできます。今後、多くの研究者に利用していただけるものと期待しています。