NEWS2023年12月号 Vol. 34 No. 9(通巻397号)

塩竈秀夫室長が日本気象学会2023年度堀内賞を受賞しました

2023年10月23日(月)~26日(木)に開催された日本気象学会2023年度秋季大会において、地球システム領域地球システムリスク解析研究室の塩竈秀夫室長が堀内賞*1を受賞しました。

塩竈秀夫室長が日本気象学会2023年度堀内賞を受賞しました。写真左は日本気象学会理事長による表彰状と記念品の授与。
塩竈秀夫室長が日本気象学会2023年度堀内賞を受賞しました。写真左は日本気象学会理事長による表彰状と記念品の授与。
表彰式後に行われた記念講演会。
表彰式後に行われた記念講演会。

【研究業績】
気候モデルを用いた将来気候変化の不確実性の理解と影響・対策評価を連携する学際研究

【選定理由】
気候変動のメカニズムの理解を深め、その予測を精度良く行うための研究は、まさに気象学の中核となる研究分野の一つである。しかし、気候変動が様々なセクターにおいて及ぼす影響の評価に関する研究や、喫緊の課題として社会ニーズの高い気候変動適応緩和策の推進に資する研究は、気象学の範疇を超え、地球科学全般に加えて医学・農学・工学そして社会科学など、多様な学術領域との幅広い学際的な連携が必要な研究分野である。さらに、そういった連携研究を通じて、再度気候変動のメカニズム理解の深化と予測精度の向上につなげていくことは、気象学そのものの発展にとって極めて重要である。

塩竈秀夫氏は、気候モデルを用いて、過去の気候変動の要因分析と将来予測の不確実性に関する幅広い研究を行うとともに、気候変動の影響評価・適応策・緩和策そのものを研究対象としている様々な学術分野の研究者と連携した、学際的な研究を進めている。そのような学際的な連携研究活動を通じて、気候変動のメカニズム理解と予測のさらなる向上につなげることで、気象学そのものの発展に貢献している。その代表例が、観測データを用いた将来予測の拘束の手法を降水量変化に初めて適用し、21 世紀末までの降水量増加の予測幅の上限を引き下げることに成功した研究である。この研究は、今後の水害対策などの気候変動適応策の検討の根拠として、また、気温上昇を何℃に抑制すべきか検討する上での根拠としての、将来予測情報の不確実性を低減するものであり、政策的な意義が極めて大きいのみならず、気候変動予測研究そのものへの顕著な貢献である。その研究に至るまでに、大きく分けて3つ、すなわち「過去の気候変動の要因分析に関する研究」、「将来の気候変動予測への不確実性に関わる研究」、「気候変動適応策の推進に関わる研究」を進めており、それぞれ多数の成果に結びついている。

過去の気候変動の要因分析に関する研究では、気候モデルにおける外部因子に対する気候応答の特徴を抽出する手法の開発に取り組んでいる。具体的には、気候モデルMIROCを用いて様々な切り分け実験を行い、複数の単一外部因子に対するそれぞれの気候応答の加法性を証明した。

将来の気候変動予測・影響予測とその不確実性の研究では、極端現象の変化予測に関して内部変動の不確実性を考慮するために、大規模なアンサンブル実験を用いた研究を進めてきている。塩竈氏は、過去の温暖化と4℃温暖化に関する大規模な大気モデル実験d4PDFにおいて、数値実験のデザインの面から貢献したほか、パリ協定の気温上昇1.5℃目標と2℃目標の間で極端現象変化にどのような差が生じるかを調べる大規模アンサンブルのモデル相互比較計画(Half a degree additional warming, prognosis and projected impacts) を実施し、2℃から1.5℃に抑えることのメリットが大きいことを示し、IPCCの 1.5℃特別報告書に大きく貢献した。

気候変動適応策の推進に関わる研究・活動としては、影響評価研究者との連携を強化し、緩和策・適応策を推進するための研究を行っている。影響評価研究では、数十ある気候モデル全ての出力データを使うことは研究資源的に難しく、また政策決定者も少数の予測・影響評価を提示されることを好む傾向がある。そのため、影響評価でよく用いられる8つの気候変数の不確実性幅を網羅する5つの代表気候モデルを選択する手法を開発した。

このように塩竈氏は、気候変動の理解と予測に関する多くの先駆的な成果を挙げ、国内外の学際的な研究コミュニティの発展に寄与するとともに、社会科学を含む多様な分野の研究者と連携してその成果を気候変動の影響評価、適応策検討、緩和策検討につなげる学際研究に展開し、その連携を通じて気象学の発展に貢献してきた。

以上の理由により、日本気象学会は塩竈秀夫氏に 2023 年度堀内賞を贈呈するものである。

※選定理由に関する詳細は、日本気象学会ウェブサイト(https://www.metsoc.jp/default/wp-content/uploads/2023/09/c4482453d45fc150453508cfbc417e0f.pdf)を参照してください。