NEWS2023年12月号 Vol. 34 No. 9(通巻397号)

向井人史前地球環境研究センター長が大気環境学会学術賞を受賞しました

2023年9月14日に向井人史前地球環境研究センター長が大気環境学会学術賞を受賞しました。

向井人史前地球環境研究センター長が大気環境学会学術賞(斎藤潔賞)を受賞しました。
向井人史前地球環境研究センター長が大気環境学会学術賞(斎藤潔賞)を受賞しました。
授賞式での講演。
授賞式での講演。

【受賞対象】
大気粉じん中の微量元素の特性や同位体比を用いた長距離輸送を含む起源や発生源解明に関する研究

この度、大気環境研究に対して以下の研究業績の貢献が認められ、大気環境学会が学術賞を贈呈しました

【受賞にかかる研究内容】

1. 大気粉塵中の成分の評価と新たな知見の集積

大気汚染を構成するものを理解するために、バックグラウンド大気での大気粉じんの研究を1983年に開始しました。バックグラウンド大気中には、地球規模で存在するものや長距離輸送されたものに加えて自然起源で発生したものが含まれています。日本の風上である日本海域での大気粉じんを隠岐島で調査することにより、日本の粉じんのバックグラウンド成分や起源について長年にわたり調査を行いました。

特に長距離輸送に関して根拠となる化学的なトレーサーを隠岐島における大気粉じんの長期的なモニタリング等により科学的に検索し、元素や鉛同位体比の痕跡をエアマスの起源や発生源鉛同位体比の広範な分析と共に解析することで、元素比や鉛同位体比が日本起源のものとそれ以外の大陸起源のものを区別できることを見出し、大陸から日本への越境輸送を化学的に明らかにしました。また、中国をはじめ東南アジア、極東ロシアの大気中の鉛同位体比の特徴を調査し、大気の長距離輸送との関係を明らかにしたことは、各国の研究者に引用されその後の各国の環境研究につながっています。また、隠岐島での大気粉じんのモニタリングは40年にわたり日本国内でも最も長いサンプルのレコードとなっています。引き続き、島根県との連携によって日本のバックグラウンドの大気質の記録ならびに解析が進むことが期待されます。

また、大気粉じんの生物起源物質としてメチル化されたヒ素や硫黄の起源についてバックグラウンド大気での特徴を明らかにしました。自然界でヒ素がメチル化されることは知られていましたが、バックグラウンド大気の中に普遍的に存在することが明らかとなり、また季節変化なども観測されました。同時に、農薬起源のメチルヒ素化合物の存在を観測し、大気中の新たなヒ素の起源として指摘するに至りました(現在ではほぼ使われていない)。大気中ヒ素の形態分析はその後各国で行われています。

さらに、これまであまり注目されていなかった大気粉塵中の白金族元素の存在や高分子未知物質などのキャラクタリゼーションにも取り組み、世界的な研究の広がりに寄与しました。白金族は自動車触媒に多く使われており、大気中に排出されていることがわかり、その粉塵中濃度はサブppmレベルであり、かなりの濃度であることがわかりました。また、未知で複雑な構造を持っている一連の高分子化合物群(フミン酸様褐色物質)についての研究を進め、この物質群について新たな研究分野がその後広がりました。

2. 大気成分のモニタリングと標準

同様の分析化学的見地から各地の二酸化炭素およびその同位体分析比のモニタリングならびに測定の標準化を長年すすめました。特にオキシダント計測の国内の基準づくりや国際的標準化についても活動を進め、オキシダント基準を国立環境研究所内に維持し6地域拠点と共に日々のオキシダントの精度管理に貢献しました。