RESULT2023年12月号 Vol. 34 No. 9(通巻397号)

最近の研究成果 シロアリからのメタン放出量とその変化を推定

  • 伊藤昭彦(地球システム領域物質循環モデリング・解析研究室 主席研究員)

シロアリは、木造家屋を損傷する害虫として一般に知られていますが、女王アリを中心とした集団を形成する社会性昆虫として、あるいは熱帯林やサバンナで枯れ木などを食料とする分解者として、生態学者の興味を引き付けてきました。また、シロアリが腸内にセルロースなどを分解する微生物を共生させており、それがメタンの放出源になっていることも古くから知られていましたが、温室効果ガス収支と気候変動予測を精緻化する観点から、あらためて注目を集めています。

この研究では、シロアリの分布や温室効果ガス放出に関する最新のデータと、わたしたちが開発してきた陸域生態系モデルを用いて、シロアリからのメタン放出量をグローバルに推定しました。このようなグローバルな推定例は過去にもありましたが、気候変動や土地利用、さらに大気中の二酸化炭素濃度上昇による植生生産力の変化の影響を考慮し、最近のデータを使用して推定を行った点に新規性があります(図1)。

図1 (a)シロアリによるメタン放出量に影響を与える要因の概要。[ ]内の数字はグローバルな放出および吸収量の合計(年あたり百万トン・メタン)。
図1 (a)シロアリによるメタン放出量に影響を与える要因の概要。[ ]内の数字はグローバルな放出および吸収量の合計(年あたり百万トン・メタン)。

その結果、現在のシロアリからのメタン放出量は年間約14.8百万トン・メタンと推定され、それは主に熱帯・亜熱帯域に分布していました(図2)。この量は自然界から放出される全メタンの5%程度に相当すると考えられ、他に放出源がない森林やサバンナでは主要なメタンの放出源になっていると考えられます。また、将来の気候予測シナリオなどを用いた予測を行ったところ、温暖化が進むと現在は寒冷なためシロアリが分布できない北方域に分布可能域が拡大し、更なるメタン放出増加を招くという気候フィードバックの可能性も示唆されました。

図2 推定された近年のシロアリによるメタン放出量の分布。
図2 推定された近年のシロアリによるメタン放出量の分布。