NEWS2022年11月号 Vol. 33 No. 8(通巻384号)

カジマヤーは遥か先、ようやく而立のステーション 波照間ステーション竣工30周年記念イベント報告

  • 笹川基樹(地球システム領域地球環境研究センター 大気・海洋モニタリング推進室 主幹研究員)
  • 林しおん(地球システム領域地球環境研究センター)
  • (写真撮影)成田正司(企画部広報室)

白く眩しい日差しの中、石垣島の新聞社やラジオ局を周ったのが、もう10年も前になるかと思うと、時の流れに唖然とし、歳をとるほど時の流れが速くなることを実感してしまいます。著者の1人である笹川が、波照間ステーション竣工20周年記念イベントを“手伝う”という意識で広報係をしていた時(https://cger.nies.go.jp/cgernews/201301/266002.html)、まさか10年後に自分が中心となって30周年イベントを“開催する”ことになるとは想像もしていませんでした。今回は10年後を少し意識しましたが、それはそれで重い気持ちになってしまったのが正直なところです。ただ今回のイベント開催に関係してくださった皆様は、どなたもとても前向きで協力的で、次またイベントを行うことになっても何とかなるかも、という気持ちが持てているのは救いです。

2022年で、地球環境モニタリングステーション波照間が竣工されて30周年となりました。ここまで続けて来られたのは波照間島の方々のご理解・ご協力があったからです。島民の方へ向けて、あらためてこれまでの観測の歴史や結果を講演会という形で紹介するとともに、ステーション内部を見ていただくイベントを開催いたしました。30周年記念イベントは地球システム領域の職員数名と総務部会計課の濱田さん、成田(瑞穂)さん、企画部の成田(正司)さんで実施しました。

1. 講演会

7月9日(土)10:00より、波照間島の農村集落センターにて、30周年記念講演会を開催し、約20名の島民の皆様にご参加いただきました。

写真1 来場者には受付で記名していただきました。
写真1 来場者には受付で記名していただきました。
写真2 司会進行を務めた笹川主幹研究員。
写真2 司会進行を務めた笹川主幹研究員。
写真3 はじめに、木本理事長が挨拶しました。
写真3 はじめに、木本理事長が挨拶しました。

まず、国立環境研究所(以下、国環研)を代表して木本理事長が挨拶いたしました(写真3)。続いて、波照間島民の皆様に、木本理事長から感謝状の授与を行いました。感謝状は、代表して、元波照間小中学校校長でもあり、長年波照間ステーションでの活動にご協力いただいている、仲底公民館長にお渡ししました(写真4)。授与に際して、仲底公民館長にもスピーチをいただきました。

写真4 30年の感謝を込めて(感謝状をもつ仲底公民館長(左)と木本理事長(右))。
写真4 30年の感謝を込めて(感謝状をもつ仲底公民館長(左)と木本理事長(右))。

続いて4名の観測担当者・管理担当者より、波照間島での観測の歴史、分かったこと、苦労話、思い出話を紹介いたしました。

初めに向井気候変動適応センター長よりステーションでの観測の歴史と、地球温暖化に関する概要が波照間での二酸化炭素(CO2)の観測結果も併せて紹介されました。向井氏は波照間での観測を27年続けているということで、波照間ステーションの歴史を一番よく知っているメンバーになります。ステーションへの台風被害や落雷被害など、トラブルの経験も一番多く、その苦労話も交えての観測の紹介を通して、30年近くにわたる連続したデータの貴重さも会場の方々に理解していただけたかと思います。最後に沖縄では数えの97歳でカジマヤー祝いをすることをあげて、ステーションも96周年祝いをやる、という目標を述べました。会場ではどよめき(笑い?)がわきましたが、以前から100年でも観測を続けることを公言されている向井氏ならではの発言でした(写真5)。

写真5 96周年祝いで迎え火を焚いて欲しい向井センター長。
写真5 96周年祝いで迎え火を焚いて欲しい向井センター長。

次は、“これから「フロン」の話をしよう”と、ハーバード大学ではなく、ランカスター大学に派遣経験のある地球システム領域の斉藤主幹研究員による講演でした。斉藤氏も波照間での観測は長く、かつて当時3歳の息子さんを連れてメンテナンスに来た時の話からは、観測(子育て?)の大変さが痛いほど伝わったのではないでしょうか。国際的な合意のもと全廃が決まっていたフロンガス(CFC-11)が、波照間では2010年代に入ってもなぜか高濃度で観測されたと紹介されました。斉藤氏らは、その観測値をもとに中国東部での放出量が増えていることを突き止め、それを報告した論文をきっかけとして、中国でのCFC-11の違法製造が取り締まられました。この話は、波照間での長期観測が世界の環境保全に明確に貢献した例として、参加者にもわかりやすく伝わったかと思います(写真6)。なお論文内容に関して詳しくは、地球環境研究センターニュース(斉藤拓也「CFC-11の放出量:「全廃」後に見られた急増とその後の急減」2021年5月号)に掲載されています。

写真6 来島時には海水浴を欠かさない斉藤主幹研究員。
写真6 来島時には海水浴を欠かさない斉藤主幹研究員。

地球・人間環境フォーラムの島野主任研究員は、北海道の落石岬にあるステーションで、その建設当初から機器管理業務を担ってくださり、近年は波照間ステーションを主な担当として、モニタリングを支えてくださっています。現在島民のみなさんに最も「顔がわれている」ステーション関係者でもあります。毎月1回現地での作業があるため、講演会の2週間前にも波照間入りされていて、翌々週も波照間入りということで、講演はつくば市の国環研からオンラインで行いました。フォーラムの幅広い働きの紹介をされてから、波照間ステーションでのこれまでの様々な苦労話・思い出話で場を和ませてくださいました(写真7)。

写真7 唯一ネクタイをして講演されたやや緊張気味な島野主任研究員。
写真7 唯一ネクタイをして講演されたやや緊張気味な島野主任研究員。

最後の講演は、正真正銘ハーバード大学での研究経験もある寺尾主任研究員より行われました。これからCO2の年齢の話をしよう、と話を始めたところで、寺尾氏自身の年齢が不詳ということで、自己紹介がありました。“一人飲み”という趣味で、島内での飲食店のモニタリングが行われていることも明かされました。波照間ステーションでのCO2モニタリングに関しては、夏に減って冬に増える季節変動がある中、冬には高濃度のイベントも観測されます。CO2に含まれる炭素(C)にも年齢があり、それは化石燃料が燃えて出てきたものか、生物の呼吸から出てきたものかによって大きく違うことが説明されました。その年齢差を利用することで、高濃度のイベント時にはその7割前後が化石燃料を燃やして出されたものであったことが紹介されました(写真8)。

写真8 趣味の“一人飲み”は向井氏に仕込まれたものだと告白した寺尾主任研究員。
写真8 趣味の“一人飲み”は向井氏に仕込まれたものだと告白した寺尾主任研究員。

講演会の終わりに、地球システム領域三枝領域長より、挨拶がありました(写真9)。

写真9 終わりの挨拶をする三枝領域長。30年の感謝と、今後50年、100年(!?)続くことを目標に…
写真9 終わりの挨拶をする三枝領域長。30年の感謝と、今後50年、100年(!?)続くことを目標に…

2. ステーション公開

7月8日(金)と、9日(土)の午後、波照間ステーションの一般公開を、これも10年ぶりに行いました。連日大変暑い中、2日間でのべ66人の方にお越しいただきました。

一般公開の前に、ステーション周辺の林の中と東側(ヌーピー崎)の海洋ごみ拾いを行いました。波照間島での海洋ごみ拾いは、島民の方々が定例で行っている作業ですが、ヌーピー崎まではなかなか手が回らないそうです。中国語で書かれたパッケージのペットボトル、シャンプーなど、海を渡ってきたごみであることが明らかなものがたくさんありました。ヌーピー崎は砂浜ではなく岩礁海岸で、この時期は背丈の低い茂みも多く、歩くのがとても大変でしたが、できる限りの量を拾いました(写真10、11)。それでも、ステーションの観測タワーに登ると、まだまだごみが落ちていることが分かります。私たちにとってはたった数時間のごみ拾い。島民の方々の日ごろの活動に頭が下がる思いでした。

写真10 一般公開の前に海洋ごみ拾いを行いました。
写真10 一般公開の前に海洋ごみ拾いを行いました。
写真11 巨大なトン袋にも入りきらない量のごみを拾いました(それでもまだまだ拾い残りがありました)。
写真11 巨大なトン袋にも入りきらない量のごみを拾いました(それでもまだまだ拾い残りがありました)。

当日、ステーションの一般公開では、研究者5名が交代しながら説明を行いました。また事務スタッフも2名がシャトルバス運行、2人が受付の体制で対応しました。島の皆さんに気軽に来ていただけるように、時刻表を作成してシャトルバスを運行しました(写真12)。

写真12 職員が運転するシャトルバスで島民の方々をご案内しました。
写真12 職員が運転するシャトルバスで島民の方々をご案内しました。

ステーションでは、消毒や体温計を準備し、安心して見学してもらえるよう努めました。またエコバックやボールペンなどのノベルティも用意しました(写真13)。

写真13 受付の様子。感染対策もグッズも準備万端です。
写真13 受付の様子。感染対策もグッズも準備万端です。

ステーション内部の観測機器の説明(写真14、15)、海水がCO2を吸収していることを小瓶を使って確認する「海水酸性化実験」(写真16)、そして希望者の方にはヘルメットと手袋を着用いただいた上で、観測タワーの20m地点まで登ってもらいました。両日とも天気がよく、タワー上からの景色がとてもきれいでした(写真17)。9日の土曜日は前述の通り午前が講演会、午後にステーションの一般公開となっていましたが、講演会も一般公開もどちらも来てくださる方がたくさんいらっしゃいました。また、30周年記念イベントに先立って行われた7月7日(木)の波照間小中学校でのエコスクールに参加した生徒さんが、お母さんと一緒にもう一度来てくれるという嬉しい出来事もありました。

写真14 ステーションには、島民の方々が初めて見るものもたくさんあります。一つひとつ丁寧に説明しました。
写真14 ステーションには、島民の方々が初めて見るものもたくさんあります。一つひとつ丁寧に説明しました。
写真15 誰もが熱心に話を聞いてくださるので、説明にも熱が入ります。
写真15 誰もが熱心に話を聞いてくださるので、説明にも熱が入ります。
写真16 7日のエコスクールに参加した生徒さんがもう一度ご家族の方と一緒に来てくれました。
写真16 7日のエコスクールに参加した生徒さんがもう一度ご家族の方と一緒に来てくれました。
写真17 両日ともとても良い天気で、観測タワーからは西表島まではっきり見えました。
写真17 両日ともとても良い天気で、観測タワーからは西表島まではっきり見えました。

事前にポスターの掲示をお願いしに各集落の商店に伺ったとき、10年前の一般公開でもステーションに来てくださった方にお会いしました。逆に、この10年以内に波照間に引っ越して来られたという方にもお会いし、「島の東側にあるのはわかるけど詳しくは知らない」とおっしゃっていたのが印象的でした。今回の講演会、一般公開を通じて、より多くの方にステーションの意義と、波照間島、島民の皆さんのご協力があるからこそ30年周年を迎えられたことを、伝えられたのではないかと思っています。

3. 若手事務系職員の感想

本イベントでは、総務部会計課からの若手職員2名も現地で運営をサポートしました。普段はモニタリングの現場を見る機会のない事務系職員が、このイベントの運営を通して、現場のことを理解する良い機会ともなりました。以下、その職員(濱田・成田(瑞))の感想です。

島名の由来である「果て」の名のとおり、有人島として日本最南端に位置する波照間島は、人間活動の影響をあまり受けないことから、温室効果ガスをはじめとする大気物質を長期間観測できる場所として竣工当時選定されたとのこと。一方で、無人ステーションといっても、その継続的な運営には多くの方が関わっています。日常の保守管理や観測の補助を行う業者の方、現地で管理をしてくださる方、そして地元波照間島の方等、多くの方々の理解と協力により、30年間の継続的な観測が成り立っていることを学ばせていただきました。今回のイベント中に、特にお世話になった方々への表彰がありましたが、つくば・波照間島間2,000kmを越えた確かな信頼関係が築かれていると感じました。

講演会のなかでは、国環研のもう一つの無人ステーションである落石岬で得られたデータとの比較が講演資料として多くありました。日本の南北で長期的な観測が行われていることで、様々な観測データの分析基準として用いられることもあり、このような点からも波照間島での観測の重要性を認識することができました。その他にも、波照間島は、地理的に中国大陸に近いことから、PM2.5やフロン等にも中国の影響が強く見えるとうかがい、有人島として日本最南端に位置しているということを改めて感じました。

また、一般公開の際に、「前回の20周年イベントに来たときはこの子が3歳で」、と楽しそうに話してくださる方や、講演会を熱心に聴講されている方が多く、みなさんの関心の高さに驚きました。これまでの国環研のエコスクール等の活動の影響が大きいことを感じ、これからの観測を続けていくためにも、このようなイベント等を継続することの重要性を実感しました。

普段の業務を行う中で、書類上で業務内容や全体の流れをある程度理解していても、現場でどのような結果や成果につながっているか、を実際に体験する機会は非常に限られています。実際にステーションに伺うことで、即時的メンテナンスが難しい無人観測を30年続けることの大変さやデータの貴重性を学ぶことができ、そして、地元の方々の協力なしにはステーションが成り立たないということを、身をもって学ぶことができました。また、イベントの合間に、私たちも研究者の皆様から研究内容の説明をしていただいたり、実際に観測タワーに登らせていただいたりしたことで、研究者のサポートに尽力したいという国環研事務職員として働くことの意義を再認識することができました。

謝辞

今回の記念イベントは波照間島の多くの方にサポートいただきました。特に、仲底善章公民館長には、会場の手配をいただき、イベント案内にもご協力いただきました。阿利秀一さんには島内の各方面への連絡・調整をお願いいたしました。波照間小中学校には会場の調整や機材の貸し出しでも協力いただきました。ホテルオーシャンズとペンション最南端にはハイシーズンにもかかわらず、イベント関係者の宿を確保いただきました。皆さんに深く御礼を申し上げます。

※地球環境モニタリングステーション波照間に関するこれまでの記事はhttps://www.cger.nies.go.jp/cgernews/archive/hateruma.htmlからご覧いただけます。

図 地球環境モニタリングステーション波照間 観測の展開
 地球環境モニタリングステーション波照間 観測の展開(画像拡大