2013年1月号 [Vol.23 No.10] 通巻第266号 201301_266002
地球環境モニタリングステーション波照間20周年 5 波照間島と石垣島で記念イベントを開催しました
2012年は地球環境モニタリングステーション波照間(以下、波照間ステーション)が設置されてからちょうど20年という節目の年となることから、国立環境研究所(以下、国環研)は、八重山地方での地球環境問題に対する知識や関心をより高め、地域への貢献を図ることを目的として、波照間島や石垣島をはじめとする沖縄県八重山地方の方々に地球環境研究センターの活動の紹介および研究成果等を広報するイベントを開催しました。
2012年11月10日(土)には、石垣島のホテルミヤヒラにおいて、「地球環境モニタリングステーション波照間20周年シンポジウム—八重山から地球環境の変動をとらえる—」と題したシンポジウムを実施しました。沖縄時間という点もあり定刻での人の集まりは多いとはいえない状況でしたが、定刻通り国環研住明正理事による開会の挨拶が行われ、その後5人の研究者から波照間ステーションおよび八重山地方での地球環境観測の最新の研究成果に関する講演が行われました。初めに向井人史地球環境研究センター副センター長から波照間ステーションにおける大気観測の概要が紹介されました。無人で連続観測を行うための努力・工夫が示され、講演後の質疑応答では、聴衆からシステムの安定性に関する質問や、講演では触れられなかった安定同位体の測定に関する質問が寄せられました。2番手は遠嶋康徳地球環境研究センター主席研究員による講演で、波照間ステーションにおける酸素濃度の測定結果から、化石燃料起源の二酸化炭素の収支に関する最新の研究成果が紹介されました。わかりやすい図と、「大気中の酸素が少なくなって窒息することは決してない」ことなどウィットの効いたユーモアで一般の聴衆を引きつけ、内容も十分理解してもらえたようです。次は横内陽子環境計測研究センターフェローにより、大気中代替フロンの連続観測結果と西表島における植物起源有機ガスの調査結果が発表されました(写真1)。代替フロンとは何かという基本的な部分からの丁寧な説明に始まり、沖縄の地元の植物から放出される塩化メチルについての講演内容は島の人にも興味をもってもらえたのではないかと思います。講演後は、代替フロンによる温暖化の影響やオゾンホール回復と代替フロンの関係について質問がありました。
3件の講演の後は、国環研とともに環境省那覇自然環境事務所石垣自然保護官事務所、西表島エコツーリズム協会、沖縄県竹富町、石垣島地方気象台からポスター発表がありました。石垣自然保護官事務所は珊瑚の生態や修復事業についてきれいな写真を使ったポスターで説明し、西表島エコツーリズム協会は漂流ゴミの対策を中心に協会の活動をわかりやすく紹介しました。
ポスター発表後の講演は、石垣島地方気象台の中川慎治台長により行われました。世界および日本の気温・降水量変化を紹介したのちに、八重山地方での気候変動に関する発表がありました。台風の長期観測データは沖縄ならではの特徴のある記録であるという解説に対しては、温暖化に伴う台風強度の変化に関する質問も寄せられました。最後は、山野博哉生物・生態系環境研究センター主任研究員による八重山地方のサンゴとその変化についての講演でした。1998年のサンゴの白化現象では、石垣のサンゴも一部死んでしまったというショッキングな内容は地元の人にも強い印象を残したようです。聴衆から白化現象に対するオニヒトデによる影響に関する質問が出されました。その後、一度閉会してから、再度ポスター発表の時間が続き、興味のある来訪者が残ってポスターに見入っていました。シンポジウムには関係者も合わせて約60名の参加があり、翌日の地元有力紙の1面で報道されるなど、これまで波照間島以外ではほとんど知られていなかった国環研の研究活動について石垣島を中心とする八重山地方の方々に知っていただく良い機会となりました。
11月11日(日)には地球環境研究センター運営委員、前日のシンポジウムで発表した機関、気象庁および環境省等の関係者向けに波照間ステーションの公開を実施しました。この日は前線の通過によって風が強く、1日3往復ある石垣港と波照間港を結ぶ高速船の運航が危ぶまれていましたが、朝になって第1便の運航が決まり、大部分の参加者がなんとか波照間島に渡ることができました。
波照間ステーションにはこの日、30人もの参加者がいちどに集まることになり、希に見る混雑となりました。関係者にはステーション内部の一つひとつの観測装置について担当者からの説明を聞いていただくとともに(写真2)、高さ40mの観測鉄塔の中段からステーション周辺の環境について視察していただきました。参加された皆さんは、20年の歴史の中で波照間ステーションの各測定装置が、無人という条件の下で安定して精度良く観測できるシステムとして構築・改善されてきたことや、波照間ステーションが地域を代表する質の高い空気を観測できる環境にあることについて、理解を深められたことと思います。
11日の夜には波照間島の住民の方々と意見交換会を実施しました。意見交換会では20年間の波照間ステーションの歴史を紹介するとともに、国環研よりこれまでお世話になった島民の皆さんを代表して波照間島公民館に対して、そして、地球環境研究センターより、停電時にいち早く復電の対応をして頂いている沖縄電力波照間事業所ならびにステーションの日常メンテナンスや緊急時の対応をして頂いている現地管理人の3名の方に感謝状を贈呈しました。
11月12日(月)には一般の方へ波照間ステーションの公開を行いました。波照間島は周囲15kmほどの小さな島ですが、島民の皆さんにとって島の先端にあるステーションは決して気軽に行ける場所ではありません。今回の公開では島の中心にある公民館(はてるまふれあいセンター)にサテライト会場を設けてポスターの展示や国環研紹介のビデオ上映を行うとともに、マイクロバスをチャーターして公民館とステーションの間で無料シャトルバスを運行しました。
波照間ステーションでは、観測装置や観測成果の紹介ならびに海水に二酸化炭素が溶解する様子を理解する実験や観測タワーの見学(写真3)を行いました。シャトルバスの効果もあって約100名の方に来ていただき、「いい経験だった」「こんなところがあるなんて初めて知った」などの意見が聞かれました。翌日にはNHKのニュースで取り上げられるなどの効果もあり、これまで波照間島の皆さんにとって「存在は知っているけど中で何をやっているのかは知らなかった」波照間ステーションを身近に感じていただけたのではないかと思っています。
今回の3日間にわたる記念イベントは国環研の主催で行われました。後援していただいた環境省那覇自然環境事務所、石垣島地方気象台、沖縄県、石垣市、竹富町、西表島エコツーリズム協会、(株)八重山日報社、八重山毎日新聞、FMいしがきサンサンラジオ、石垣ケーブルテレビ(株)、南山舎の各機関、ならびにご協力頂いた石垣島、波照間島の皆さんに深く御礼を申し上げます。