最近の研究成果
可搬型分光計を用いた高地表面反射率地点
アフリカ大陸 ナミビア ゴバベブでの温室効果気体気柱量の長期観測
地球大気中の二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)の高精度気柱量観測は、人為起源の温室効果気体の長期変動の把握や排出量の推定のために重要であるが、データ質、特にバイアス(データの偏り)については徹底して評価(検証という)する必要がある。全量炭素カラム観測ネットワーク(Total Carbon Column Observing Network: TCCON)は、地上設置の高波長分解能フーリエ変換分光計(Fourier Transform infrared: FTIR)を用いて、温室効果気体気柱量を保証された精度で観測しており、温室効果気体を観測する衛星にとって必要不可欠な検証データとなっている。
しかしながら、シベリア、アフリカ、南米と海域等には、TCCON観測地点が存在せず、衛星観測データの検証とこれらのデータを用いた研究に支障をきたしている。この改善とTCCON観測地点が容易に設置できない地点におけるTCCONの補完ために、共同炭素カラム観測ネットワーク(COllaborative Carbon Column Observing Network: COCCON)が設立された。このネットワークは、可搬型FTIR(EM27/SUN)を用いて、太陽光に吸収された大気中の温室効果気体気柱量を観測する。
アフリカ大陸 ナミビア ゴバベブ(Namibia, Gobabeb)(図1)にCOCCON観測装置を設置し、CO2、CH4及び一酸化炭素(CO)のカラム平均濃度(それぞれ、XCO2、XCH4、XCO)の観測を2015年1月に開始した。ゴバベブは、アフリカ大陸内陸に位置し、高地表面反射率で殆ど雨が降らない砂漠地域の観測地点である。アフリカ大陸でXCO2、XCH4、XCOを観測するのは、ゴバベブが初めてである。
ゴバベブの観測結果を、インド洋のレユニオン島とニュージーランド ローダーのTCCON地点の測定と比較した。ゴバベブとレユニオン島は4000km離れているが、おおよそ同じ緯度であり、また、ローダーは最南のTCCON地点でXCO2の季節変動がほとんど見られないバックグランド地点であるため、比較対象とした。ゴバベブとローダーの間の予想されるXCH4のオフセット(相対的な差)を考慮すれば、TCCONとCOCCONの観測結果は良い一致を示した。また、長期間ドリフト(季節変動や経年変動などの現象による変動を考慮しても説明できない値の変動)がないことから、ゴバベブでの観測は高精度であることが分かった。また、アフリカ大陸の生態系の影響によると考えられるTCCON地点より低いXCO2が観測された。
温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)が、ゴバベブ周辺の3カ所、つまりCOCCON地点の南の砂漠上空、ゴバベブの直上、北の砂利平原上空(図1)を、継続的に観測した。GOSAT Hゲイン*1観測によるXCO2とXCH4は、EM27/SUN測定値と良い一致を示した(図2)が、XCO2のGOSAT MゲインとHゲインの観測に1.2~2.6ppmのバイアスがあることが分かり、これまでの研究とGOSAT検証チームで報告された結果と一致している。XCH4のGOSAT MゲインとHゲインの観測には5.9~9.8ppbのバイアスもあることも分かった。これはGOSAT検証チームで得られた結果と一致した。
さらに、COCCON測定をモデル計算値(Copernicus Atmosphere Monitoring Service: CAMS model)と比較した。XCO2は、米国の温室効果ガス衛星OCO-2(Orbiting Carbon Observatory-2)観測値を同化した場合は0.9 ± 0.5 ppmのバイアスがあること、直接測定を用いて同化した場合は、1.1 ± 0.6 ppmのバイアスがあることが明らかとなった。これらのバイアスは、モデル計算値とTCCONデータの間で分かっているオフセットと同程度である。OCO-2を同化した場合は、直接測定で最適化した場合と異なり、2017年初旬にCOCCON観測装置で観測されたXCO2の減少を捉えている。XCH4については、観測されたバイアスはTCCONと先験値による計算値と良く一致している。今後は、COCCON複数地点を利用した衛星やモデルデータの検証等の研究を行う計画である。