NEWS2021年7月号 Vol. 32 No. 4(通巻368号)

わが国の2019年度(令和元年度)の温室効果ガス排出量について ~総排出量12億1,200万トン、6年連続の排出量減少、1990年度以降最少~

  • 小坂尚史(地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員)
  • 畠中エルザ(地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス マネジャー)

1. はじめに

わが国は国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change 以下、UNFCCC)等のもと、国際的な責務として日本国の温室効果ガスの排出・吸収量の算定を行っています。

国立環境研究所 地球システム領域 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス(Greenhouse Gas Inventory Office of Japan 以下、GIO)では、環境省の委託を受け、わが国の温室効果ガス排出・吸収量を算定し、それをとりまとめた目録(インベントリ)を毎年作成し国連に報告しています。それと同時に、国内向けに排出量の公表を行っています。GIOと環境省は2021年4月13日に、2019年度の排出量を公表しました。その概要を含め、わが国の状況について紹介します。

2. 温室効果ガスの総排出量の推移と増減要因

1990年度から2019年度までのわが国の温室効果ガスの排出量の推移を図1および表1に示しました。

2019年度の温室効果ガス総排出量(各温室効果ガスの排出量に地球温暖化係数*1を乗じ、CO2換算したものを合算した量)は12億1,200万トン(CO2換算、以下省略)となりました。これは前年度排出量と比べて3,600万トン(2.9%)の減少、2013年度*2と比べて1億9,700万トン(14.0%)の減少、2005年度*2と比べて、1億7,000万トン(12.3%)の減少となり、2014年度以降6年連続の減少、さらには、排出量の算定を開始した1990年度以降最少となりました。

前年度と比べて排出量が減少した主な要因としては、製造業における生産量の減少等によりエネルギー消費量が減少したことや、電力の低炭素化(再生可能エネルギーの導入拡大)により電力由来のCO2排出量が減少したことがあげられます。

2013年度と比べて排出量が減少した主な要因としては、省エネ等によりエネルギー消費量が減少したことや、電力の低炭素化(再エネ拡大、原発再稼働)により電力由来のCO2排出量が減少したことがあげられます。

図1 わが国の総排出量と各温室効果ガスの排出量の推移(1990~2019年度、単位:百万トンCO2換算) 画像拡大
表1 各温室効果ガス排出量の推移(1990、1995、2000、2005、2010、2013~2019年度、単位:百万トンCO2換算)
※土地利用、土地利用変化及び林業(Land Use, Land-Use Change and Forestry: LULUCF)分野の排出・吸収量は除く。 画像拡大

3. 各温室効果ガスの前年度および2013年度からの排出量の増減要因

次にガスの種類別に前年度及び2013年度と比較した排出量増減の詳細を紹介します。

(1)二酸化炭素(CO2
2019年度のCO2排出量は11億800万トンであり、前年度と比べて3,760万トン(3.3%)減少しました。また、2013年度と比べて2億1,000万トン(15.9%)減少しました。

部門別(電気・熱配分後)*3に見ていきます。表1および図2に部門別の推移を示しました。

図2 二酸化炭素の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移(1990~2019年度) 画像拡大

2019年度の産業部門からの排出量*4は3億8,400万トンであり、前年度比で1,520万トン(3.8%)減少、2013年度比で7,870万トン(17.0%)減少しました。

前年度からの減少は、製造業における生産量の減少等により、エネルギー消費量が減少したこと等によります。2013年度からの減少については、電力のCO2排出原単位(電力消費量あたりのCO2排出量)の改善に加え、省エネ等によりエネルギー消費原単位(鉱工業生産指数あたりのエネルギー消費量)が改善し、エネルギー消費量が減少したことがあげられます。

2019年度の運輸部門からの排出量は2億600万トンであり、前年度比で450万トン(2.1%)減少、2013年度比で1,830万トン(8.2%)減少しました。

前年度からの減少は、旅客自動車等において燃費の改善等によりエネルギー消費原単位(輸送量あたりエネルギー消費量)がさらに改善したことや、旅客輸送、貨物輸送ともに輸送量が減少したこと等によります。2013年度からの排出量の減少は、旅客自動車における燃費の改善に加え、貨物輸送において輸送量が減少したこと等があげられます。

2019年度の業務その他部門*5からの排出量は1億9,300万トンであり、前年度比で710万トン(3.6%)減少、2013年度比で4,470万トン(18.8%)減少しました。

前年度、2013年度からの減少は、電力のCO2排出原単位が改善されて電力消費に伴う排出量が減少したことや、省エネ等によりエネルギー消費原単位(第三次産業活動指数あたりのエネルギー消費量)が改善しエネルギー消費量が減少したこと等によります。

2019年度の家庭部門からの排出量は1億5,900万トンであり、前年度比で690万トン(4.2%)減少、2013年度比で4,840万トン(23.3%)減少しました。

前年度からの減少は、電力のCO2排出原単位の改善により電力消費に伴う排出量が減少したことや、暖冬だった前年度以上に全国的に冬の気温が高かったこと等により、エネルギー消費量が減少したこと等によります。2013年度からの排出量の減少は、電力のCO2排出原単位が改善したことに加え、省エネ等によりエネルギー消費原単位(世帯あたりのエネルギー消費量)が改善しエネルギー消費量が減少したこと等によります。

2019年度の非エネルギー起源CO2排出量*6は7,920万トンであり、前年度比で110万トン(1.3%)減少、2013年度比で310万トン(3.8%)減少しました(表1)。前年度、2013年度からの排出量の減少は、工業プロセス及び製品の使用分野(セメント製造等)からの排出量が減少したこと等によります。

(2)メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫黄(SF6)、三ふっ化窒素(NF3
CO2以外のガスについては、図1および表1に推移を示しました。

2019年度のCH4排出量(CO2換算)は2,840万トンで、前年度比で15万トン(0.5%)減少、2013年度比で160万トン(5.4%)減少しました。前年度及び2013年度からの減少は、廃棄物分野(埋立等)における排出量が減少したこと等によります。

2019年度のN2O排出量(CO2換算)は1,980万トンで、前年度比で33万トン(1.7%)減少、2013年度比で160万トン(7.5%)減少しました。前年度及び2013年度からの減少は、燃料の燃焼・漏出において排出量が減少したこと等によります。

2019年のHFCs、PFCs、SF6、NF3のそれぞれの排出量(CO2換算)は4,970万トン、340万トン、200万トン、26万トンでした。前年比でそれぞれ270万トン(5.7%)増加、6万トン(1.9%)減少、5万トン(2.6%)減少、2万トン(7.4%)減少、2013年比でそれぞれ1,760万トン(54.8%)増加、14万トン(4.1%)増加、7万トン(3.6%)減少、140万トン(83.8%)減少しました。

HFCs排出量の前年及び2013年からの増加は、オゾン層破壊物質であるハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFCs)からHFCsへの代替に伴い、冷媒において排出量が増加したこと等によります。わが国の温室効果ガスの中で唯一、顕著な増加傾向にあるのが、HFCsとなっています。

4. 吸収源活動の排出・吸収量

ここまで、わが国の排出源における排出量の変動と変化要因について触れてきましたが、この節ではわが国の吸収源活動における目標値と現時点の状況について触れたいと思います。

2019年度の吸収源活動の排出・吸収量*7は4,590万トンの吸収(うち、森林吸収源対策(「新規植林・再植林」「森林減少」「森林経営」の合計値)による吸収量が4,290万トン、「農地管理」「牧草地管理」による吸収量が180万トン、都市緑化等の推進(「植生回復」)による吸収量が130万トン)となっており、2005年度総排出量(13億8,100万トン)の3.3%、2013年度総排出量(14億800万トン)の3.3%に相当します。

わが国は、吸収源活動の実施による吸収量を排出削減目標達成のために活用することとしており、カンクン合意下の2020年度目標では、森林吸収源対策により約3,800万トン以上、植生回復により約120万トン、農地土壌吸収源対策により約770万トン*8の確保を目標としています。

5. 温室効果ガス排出削減目標

2020年以降の地球温暖化防止の国際枠組である「パリ協定」は、産業革命以降の平均気温上昇を2℃より十分低く抑え、1.5℃未満を目指す努力を追求するという世界共通の長期目標を掲げています。そのために、各国は今世紀後半に温室効果ガス排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にすることを目指しています。

パリ協定には京都議定書のように法的拘束力のある数値目標はなく、各国が自主的に決定する貢献(Nationally Determined Contribution: NDC)を表明し、排出量や目標達成の進捗状況について透明性を担保した形で報告し、世界全体での進捗確認を繰り返すことで排出を削減するという考え方に基づいています。

菅総理大臣は、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すことを2020年10月に宣言しました。さらに、温室効果ガス排出量を2030年度に2013年度比46%削減するという新たな目標を、アメリカ主催の気候サミットに合わせて、2021年4月22日に発表しました。以下の図で、グレーの点は従来の目標、緑の点は新しい目標を示しています。2013年度総排出量(14億800万トン)と2050年度目標(排出量実質ゼロ)とをまっすぐ結んだオレンジの線の上に、新しい2030年度目標はちょうど重なります。新たな2030年度の目標は、2013年度より毎年3,800万トンずつ排出量を削減すると達成される計算となります。前述の通り2014年度以降排出量は6年連続減少(一年あたり平均3,300万トン減少)しているものの、今まで以上のペースで排出量を削減していく必要があります。

私たちGIOが作成している温室効果ガスインベントリは目標の進捗状況をはかる指標として活用されています。排出削減策の効果をインベントリに反映することも含め、排出量を正確に把握することは重要であることから、今後も算定方法を継続的に見直していく予定です。

図3 温室効果ガス排出量の過去の推移と将来の目標 画像拡大

6. おわりに

本稿に使用した2019年度の温室効果ガス排出吸収量に関する情報をGIOのウェブサイトにて公開しております〈http://www.nies.go.jp/gio/index.html〉。今後もウェブサイトや報告書において、より情報を利用しやすくするなど、公開情報の改善を図っていく予定です。