INTERVIEW2021年7月号 Vol. 32 No. 4(通巻368号)

国環研の研究成果をより良い環境の実現につなげるのは「今」 是澤裕二理事に聞きました

  • 地球環境研究センターニュース編集局

国立環境研究所(以下、国環研)は、2021年4月に第5期中長期計画に基づき活動を開始しました。地球環境研究センター(以下、CGER)ニュース編集局と地球システム領域江守正多副領域長が、国環研の是澤裕二理事に第5期中長期計画の目標達成に向けた地球システム領域やCGERのこれからの活動に期待することなどをお聞きしました。

*このインタビューは2021年4月21日に行われました。

第5期中長期計画の2つのポイント

編集局:理事のこれまでの経歴や特に国環研とのかかわりについて簡単に紹介してください。

是澤:国環研での勤務は今回で3回目です。最初は2001年4月から2年3カ月ほどおりました。当時研究所は環境庁に付属する研究機関から独立行政法人として再編された直後で、所内に循環型社会形成推進廃棄物研究センター(現在の資源循環領域)が新設されました。そのセンターの業務を軌道に乗せていくための調整役が私の仕事でした。

2回目は2010年4月から3年間、子どもの健康と環境に関する全国調査という大規模疫学プロジェクトを国環研が中心となって実施していくにあたり、立ち上げ時の調整役として勤務しました。ですからおよそ10年おきに国環研で仕事をしています。2020年4月に理事に就任したとき、国環研の職員から「是澤さんはいつも彗星のように現れますね」と言われ、とても嬉しい気持ちになりました。

行政の仕事についても少しお話しします。行政官としては廃棄物分野が長かったのですが、この10年くらいは水・大気や放射性物質の除染など、地域の環境保全的な仕事が多くなりました。直近では、環境省の大気環境課や土壌環境課、厚生労働省の水道課で勤務しました。3ポスト連続で所管する法律の改正に取り組みましたから、そうした苦労話のネタはたくさんありますので機会があればご披露したいと思います。

是澤裕二理事(左)、編集局・広兼克憲研究調整主幹(中央)、江守正多副領域長(右)

編集局:国環研では、第5期中長期計画が2021年4月からスタートしました。第5期中長期計画の策定段階から関与してこられたお立場から、現在の国環研に対してどのような問題意識をおもちでしょうか。また、第5期中長期計画において、国環研の運営をどのように変えていく、あるいは変えずに継続していくとお考えでしょうか。

是澤:第5期中長期計画について大きなポイントが2つあります。1つ目は基盤的な調査研究を重視すること、2つ目は研究における連携を一層推進することです。

第4期中長期計画(2016~2020年度)には課題解決と災害環境という2つの主要な研究プログラムがあり、非常にいい成果が出て外部からの評価も高かったのですが、やや重点をそちらに置きすぎた感じがあり、少し柔軟さに欠ける部分もありました。そこで第5期中長期計画は、達成目標を明確にした研究プロクラムを設定すると同時に、環境研究の分野をあらためて検討して、分野に対応する組織の下、基盤的な研究活動を強化していく方向づけをしたことが1つ目の大きなポイントです。

2つ目のポイントは、新たな組織として連携推進部を設置し、研究所内外の連携を強化して、対話や広報活動を充実させていくことです。第4期中長期計画の4つのキーワードのうち「束ねる」(異なる研究分野の人たちと一緒に推進する)と「つなぐ」(他機関との連携を強化する)をさらに進めていくということです。

また、視点はちょっと変わるのですが、私が理事として直接担当する企画部、総務部の組織については、従来「管理部門」と呼んでいたのですが、「企画・支援部門」に変更しました。国環研では総務部に会計・総務・施設管理を担当する専門の人を置く体制をとっています。そこと研究実施部門との間の意思疎通がうまくいかない場面も出てきています。私は以前から総務部や企画部の組織が「管理」という言葉で表現されていることが溝を生じさせる原因の一つではないかと感じていました。それを改善したいために名称を変更しました。

「管理」というと、なんとなく上から目線になってしまうところがあると思います。実際の業務は決してそうではなく、研究を実施していく中で当然守らなければならないルールは守りつつ、全体が円滑に進んでいくように「支援する」ことが大事だと思っています。

編集局:「管理」ではなく「企画・支援」というと、総務や会計の仕事でも画一的な方法を押し付けるだけではなく、いい研究ができるようにどうしたらいいかを考えてスタッフがアイデアを出していくイメージですね。研究はすべて研究者に任せるというのではなく、「企画・支援部門」が研究者の研究力を上げる力を与えられるといいと思います。

脱炭素社会実現のために、国環研の研究成果や知見の蓄積をPR

編集局:世界各国が脱炭素社会に舵を切る中、国環研としてはどのような対応または取り組みを急ぎ推進すべきと思われますか。

是澤:国環研のこれまでの研究成果や知見の蓄積を政策実現につなげていくのは、「今でしょ!」という気持ちです。気候変動の緩和策だけではなく、サーキュラーエコノミー*1など脱炭素地域づくりにも焦点が当たっています。国環研のなかでそれに近い研究をしている人はかなりいると思いますので、是非ともあらゆるチャネルを通して、国環研の研究成果が政策貢献になるようPRしていきたいです。

国が設けている審議会や研究会の委員になって発信できる人はそういう場で発信し、それ以外の人たちも環境省などに情報をインプットして、政策立案に貢献していくことです。そういう取り組みを全所的にやっていきたいと思っています。

編集局:サーキュラーエコノミーというお話がありましたが、脱炭素社会の構築にしても自然界では分解しにくい炭素(二酸化炭素)の自然循環を正常に戻すことが基本にあると思います。リサイクルで問題になるプラスチックについても今後は「回していく」ことが重要であり、そういったことから資源循環領域と地球システム領域もさらにコラボできたらいいと思います。

是澤:資源循環分野については私も経験があります。社会システム分野とは研究が近いと感じでいたのですが、CGERはどちらかというとサイエンスの分野の研究というイメージがあって、循環型社会形成推進廃棄物研究センターが設立されたころは、一緒に研究していくという雰囲気はあまりなかったです。しかしながら、今後いろいろつながる部分はあると思うので、誰か接着剤になるような人をつくっていきたいですね。

編集局:共通の目標ができるとコラボは加速度的に進むと思います。

より効果的で効率的なモニタリングを目指す

編集局:国環研は、それぞれの研究分野が担っている各種環境モニタリングやスーパーコンピュータを利用した研究など、これまでに知の財産と呼べるものを築いてきましたが、国からの交付金に制約のある中で、さらに新たな戦略が必要になると認識しています。日本全国の研究者に研究基盤を与えるような活動は今後も非常に重要と考えますが、現在の状況をどのように乗り切るべきでしょうか。

是澤:モニタリングに代表されるような研究の基盤を支えるデータは、長期的に継続することで存在価値が増し、あるいは研究の質や内容を高めることができる性格のものだと思います。こうした研究をしっかりPRしていくというのは大事です。一方で、社会的な背景、ニーズ、技術そのものもどんどん変わってくるなかで、継続することだけに意義があると思っていると、変えないことが目的の一つになってしまいがちですから、それに気を付けながら、自己点検し、より効果的なもの、効率的なものを目指していくことでしょう。

モニタリングを継続していく、あるいは改善していくと、こんないいことがあるのです、こんな新しいことがわかるんです、そのためにこうするんですということを強調していきたいですね。そうでないと、なかなか世の中の理解を得られにくくなってくるかもしれません。

短いメッセージの発信を

編集局:新型コロナ禍前、CGER広報では、地方に出向き、研究者が直接語りかけるコンテンツ[たとえば2020年2月15日の生駒市での地球環境セミナー(生駒市SDGs推進課低炭素まちづくり推進係「地球環境セミナー『気候変動と脱炭素社会』を開催しました」地球環境研究センターニュース2020年5月号)など]を導入しています。これとは別に、これからもCGERが企画を考え、理事長・理事の皆さまにもご協力いただいていろいろと発信していきたいと思いますが、どうでしょうか。

是澤:大賛成です。木本理事長も森口理事も第一線の研究者でありつつ、コミュニケーション能力にも長けていらっしゃいますので、是非進めましょう。私が何かお手伝いできるのでしたら、させていただきます。私自身は黒子役で十分です。

編集局:具体的な戦略はさらに考えたいと思います。

江守:メッセージの発信といえば、是澤理事が熱心に進めてくれている発信力強化プロジェクトについて、現時点で何かイメージをもっていますか。

是澤:発信力強化というのは実は得意分野ではないのですが、現在、環境情報部と企画部広報室、対話オフィスでホームページや印刷物など媒体や発信方法によって分業している状況を改善し、融合したいのです。この点では江守さんにもご協力をお願いしたいです。国環研の広報は決して出来が悪いと思っていないのですが、国環研よりレベルが高い広報活動を行っている機関もありますから、より上位を目指していくのは大事だと思っています。

具体的には、短いメッセージをどんどん出していくことを進めてもいいと思います。国環研から出すメッセージは長いものが多いので、短くポイントだけ訴えていくことができれば、誰にでもすぐに見てもらえるし、より多くの人に読んでもらえるのではないかという気がしています。

編集局:そうですね。本日は大変インフォーマティブなお話をありがとうございました。