REPORT2021年7月号 Vol. 32 No. 4(通巻368号)

距離と時差を超えて ブラックカーボン・短寿命気候強制因子研究のNIES-SYKE合同ワークショップ

  • 池田恒平(地球システム領域地球大気化学研究室 主任研究員)
  • 谷本浩志(地球システム領域 地球大気化学研究室長)

1. はじめに

2021年2月9~10日に、国立環境研究所(NIES)とフィンランド環境研究所(SYKE)の共同でブラックカーボン(BC)を中心に短寿命気候強制因子(Short-lived Climate Forcers: SLCF)の研究をテーマにしたワークショップをオンラインで開催した。SLCFはBCやメタン(CH4)、対流圏オゾンなど、気候変動を引き起こす大気中の寿命が短い物質であり、SLCFの削減による短期的な(10~30年)温暖化抑止効果が期待されている。IPCC AR6 (第6次評価報告書)では、SLCFが単独のチャプター「Short-lived Climate Forcers」として初めて取り上げられるなど、SLCF削減の重要性への認識が国際的に高まっている。

本ワークショップは、2017年にNIESとSYKEの間で締結された、「北極域を含む環境の保全と改善、及び気候変動問題を含む持続可能な開発に関する課題に対する相互の研究協力促進を目指した研究協力協定(Minutes of Cooperation: MoC)」の一環として実施された。

筆者たちは、研究協力の一歩目として2019年9月にヘルシンキのSYKEを訪問した際に、2020年に合同ワークショップを日本で開催することを提案していた。(関連記事:池田・谷本「フィンランド環境研究所(SYKE)訪問報告:ブラックカーボン研究の情報交換と今後の研究協力に向けて」、地球環境研究センターニュース2020年2月号)。その後、フィンランドの研究者を日本に招いて2020年5月にNIESでワークショップを開催する計画で準備を進めていたが、新型コロナウィルス感染症の影響により延期を余儀なくされた。結局、2020年度内に感染症の終息が見込めないことから、秋頃にNIESでの現地開催は困難であると判断し、オンラインでの開催を決定した。

2. ワークショップの概要

ワークショップは日本とフィンランドの時差を考慮して、日本では16時(フィンランドでは9時)からの開始として、2時間ずつ2日かけて行うことにした。また、オンラインでの開催であることを考慮して、ワークショップの前日に接続テストの時間を設けて、発表者には会議に使用するZoomの操作を確認してもらった。幸い当日は接続トラブルもなく、スムーズに進行することができた。

ワークショップにはNIESとSYKEに加え、海洋研究開発機構(JAMSTEC)やフィンランド気象研究所(FMI)からの参加者を含め、両国から20名を超える研究者が参加した(写真)。1日目のオープニングセッションでは、NIESの渡辺知保理事長、三枝信子地球環境研究センター長、SYKEからはResearch DirectorのEeva Primmer氏による挨拶が行われた。

写真 ワークショップの集合写真。日本とフィンランド両国から20名を超える研究者が参加した。

開会セッションの後、2日間にわたって9件の口頭発表が行われた。発表内容は、BCやSLCFを対象にした観測的研究や、モデル研究、排出インベントリ・シナリオ研究など多岐にわたった。NIESからは、筆者(池田)、花岡達也主任研究員(社会環境システム研究センター)、遠嶋康徳室長(環境計測研究センター)、秋元肇客員研究員(地球環境研究センター)が研究発表を行った。

具体的には、池田は東アジアや北極域を対象としたBCのモデル研究について、花岡主任研究員は、2/1.5℃目標に向けた温室効果ガスおよびSLCFのシナリオ研究について、遠嶋室長は、北極海からのCH4放出量推計に関する観測的研究について、秋元客員研究員は、アジアにおけるCH4とオゾンの削減目標に関する研究について、それぞれ発表した。

日本側からはNIESの研究者に加えJAMSTECの金谷有剛氏が、東アジアや北極海におけるBCの観測的およびモデル研究について発表を行った。SYKE からは、Niko Karvosenoja氏とVille-Veikko Paunu氏がSYKEやヨーロッパ内の国際プロジェクトの協力のもとに行われているBCやSLCFの排出インベントリに関する研究について発表した。FMIからは、Aki Virkkula氏と鶴田青希氏が、それぞれBCとCH4に関する観測的研究およびモデル研究について発表した。

ワークショップ2日目の後半は、今後の研究協力について議論した。谷本は、NIESにおけるSLCFや温室効果ガスに関する今後の研究計画を説明した。また、SYKEのMikael Hilden氏からSYKEにおけるSLCF研究の展望について紹介がなされた。北極圏やアジア、ヨーロッパを対象としたBC、SLCF研究の現状と課題を共有するとともに、今後も定期的にセミナーや相互訪問を通じて情報交換を行う予定である。最後に、NIESの森口祐一理事による2日間のワークショップを総括する閉会の挨拶が行われた。

3. おわりに

冒頭で述べたように、NIESとSYKEによる初めての合同ワークショップは、新型コロナウィルス感染症の影響で当初の予定を変更してオンライン開催となった。オンラインでの開催に決まってから日程調整や発表プログラムの準備を短期間で行ったことや、日本とヨーロッパの時差を考慮して、発表件数も当初の計画よりも限定することになった。しかしワークショップでは、しばしば予定時間を超えて活発な議論が行われたことに主催者として安堵した。

オンラインでの開催によって、現地開催よりも多くの研究者が参加しやすくなるメリットがある一方、休憩時間などに交流を深めるという点では現地開催には及ばないかもしれない。現状では次回以降の開催形式は不透明であるが、オンライン開催と現地開催の長所を生かした研究交流を今後も検討していきたい。