2019年7月号 [Vol.30 No.4] 通巻第343号 201907_343004

わが国の2017年度(平成29年度)の温室効果ガス排出量について 〜総排出量12億9,200万トン、四年連続の排出量減少〜

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 田中晶子
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 連携研究グループ長 野尻幸宏

【連載】わが国の温室効果ガス排出量

1. はじめに

わが国は国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change 以下、UNFCCC)のもと、国際的な責務として日本国の温室効果ガスの排出・吸収量の算定を行っています。国立環境研究所地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス(Greenhouse Gas Inventory Office of Japan 以下、GIO)では、環境省の委託を受け、わが国の温室効果ガス排出・吸収量を算定し、それをとりまとめた目録(インベントリ)を作成しています。GIOと環境省は2019年4月16日に、2017年度の排出量を「2017年度(平成29年度)わが国の温室効果ガス排出量」として公表しました。その概要を簡単に紹介します。

2. 温室効果ガスの総排出量

1990年度から2017年度までのわが国の温室効果ガスの排出量の推移を表1に示しました。2017年度の温室効果ガス総排出量(各温室効果ガスの排出量に地球温暖化係数[1]を乗じ、CO2換算したものを合算した量)は12億9,200万トン(CO2換算、以下省略)となりました。これは前年度排出量と比べて1,600万トン(1.2%)の減少となり、四年連続の減少でした。その要因は、冷媒分野におけるオゾン層破壊物質からの代替に伴い、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)の排出量が増加した一方で、太陽光発電・風力発電等の再生可能エネルギーの導入拡大や原子力発電所の再稼働等によるエネルギーの国内供給量に占める非化石燃料の割合の増加等のため、エネルギー起源CO2排出量が減少したこと等が挙げられます。また、2013年度排出量[2]と比べて1億1,900万トン(8.4%)の減少でした。その要因は、前年度からの変化と同様に国内供給量に占める非化石燃料の割合の増加のほか、省エネ等によるエネルギー消費量の減少も挙げられます。さらに、2005年度排出量[2]と比べて9,000万トン(6.5%)の減少でした。その要因としては、HFCsの排出量が増加した一方で、省エネ等によるエネルギー消費量の減少等のため、エネルギー起源のCO2排出量が減少したこと等が挙げられます。

表1各温室効果ガス排出量の推移(1990〜2017年度、単位:百万トン)

※土地利用、土地利用変化及び林業(Land Use, Land-Use Change and Forestry: LULUCF)分野の排出・吸収量は除く。

3. 2017年度の各温室効果ガスの排出量

次にガスの種類別に前年度、2013年度及び2005年度と比較した排出量増減の詳細を紹介します。

(1) 二酸化炭素(CO2

2017年度のCO2排出量は11億9,000万トンであり、前年度と比べて1,800万トン(1.5%)減少しました。また、2013年度と比べて1億2,710万トン(9.6%)減少、2005年度と比べて1億330万トン(8.0%)減少しました。

部門別(電気・熱配分後)[3]に見ていきます。

2017年度の産業部門からの排出量[4]は4億1,300万トンであり、前年度比で630万トン(1.5%)減少、2013年度比で5,190万トン(11.2%)減少、2005年度比で5,460万トン(11.7%)減少しました(図1)。前年度からの減少は、製造業におけるエネルギー消費原単位(製造業のGDP当たりエネルギー消費量)がさらに改善したこと等によります。2013年度、2005年度からの排出量の減少は、省エネによりエネルギー消費原単位が改善し、製造業においてエネルギー消費量が減少したこと等によります。

図1二酸化炭素の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移(1990〜2017年度)

2017年度の運輸部門からの排出量は2億1,300万トンであり、前年度比で210万トン(1.0%)減少、2013年度比で1,110万トン(4.9%)減少、2005年度比で3,100万トン(12.7%)減少しました。前年度からの減少は、エネルギー消費原単位(旅客輸送量当たりエネルギー消費量)のさらなる改善によりマイカー以外の自家用車(社用車等)からの排出量が減少したこと等によります。2013年度、2005年度からの排出量の減少は、燃費の改善等によりエネルギー消費原単位が改善し、マイカーからの排出量が減少したこと等によります。

2017年度の業務その他部門[5]からの排出量は2億700万トンであり、前年度比で500万トン(2.3%)減少、2013年度比で2,890万トン(12.2%)減少、2005年度比で1,290万トン(5.9%)減少しました。前年度からの減少は、電力のCO2排出原単位の改善により電力消費に伴う排出量が減少したこと等によります。2013年度からの排出量の減少は、電力のCO2排出原単位が改善したこと等によります。2005年度からの排出量の減少は、電力のCO2排出原単位が悪化したものの、省エネによりエネルギー消費原単位(第3次産業活動指数当たりエネルギー消費量)が改善し、エネルギー消費量が減少したこと等によります。

2017年度の家庭部門からの排出量は1億8,600万トンであり、前年度比で100万トン(0.6%)増加、2013年度比で2,220万トン(10.7%)減少、2005年度比で1,520万トン(8.9%)増加しました。前年度からの増加は、前年度に比べ全国的に冬の気温が低く、灯油、都市ガス等の消費に伴う排出量が増加したこと等によります。2013年度からの排出量の減少は、電力のCO2排出原単位が改善したこと等によります。2005年度からの排出量の増加は、省エネによりエネルギー消費原単位(世帯当たりのエネルギー消費量)が改善し、エネルギー消費量は減少したものの、電力のCO2排出原単位の悪化により電力消費に伴う排出量が増加したこと等によります。

2017年度の非エネルギー起源CO2排出量[6]は7,930万トンであり、前年度比で22万トン(0.3%)増加、2013年度比で280万トン(3.4%)減少、2005年度比で1,360万トン(14.7%)減少しました。前年度からの排出量の増加は、工業プロセス及び製品の使用分野において排出量が増加したこと等によります。2013年度、2005年度からの排出量の減少は、工業プロセス及び製品の使用分野において排出量が減少したこと等によります。

(2) メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫黄(SF6)、三ふっ化窒素(NF3

2017年度のCH4排出量(CO2換算)は3,010万トンで、前年度比で44万トン(1.4%)減少、2013年度比で220万トン(6.9%)減少、2005年度比で560万トン(15.7%)減少しました。前年度、2013年度からの減少は、農業分野(稲作等)において排出量が減少したこと等によります。2005年度からの減少は、廃棄物分野(廃棄物埋立等)における排出量が減少したこと等によります。

2017年度のN2O排出量(CO2換算)は2,050万トンで、前年度比で20万トン(1.0%)増加、2013年度比で110万トン(5.2%)減少、2005年度比で460万トン(18.3%)減少しました。前年度からの増加は、燃料の燃焼・漏出において排出量が増加したこと等によります。2013年度、2005年度からの減少は、工業プロセス及び製品の使用分野において排出量が減少したこと等によります。

2017年のHFCs、PFCs、SF6、NF3のそれぞれの排出量(CO2換算)は4,490万トン、350万トン、210万トン、45万トンでした。前年比でそれぞれ230万トン(5.4%)増加、14万トン(4.1%)増加、10万トン(4.6%)減少、18万トン(29.1%)減少、2013年比でそれぞれ1,280万トン(39.8%)増加、23万トン(7.1%)増加、3万トン(1.6%)増加、120万トン(72.2%)減少、2005年比でそれぞれ3,210万トン(251.1%)増加、510万トン(59.3%)減少、290万トン(57.7%)減少、100万トン(69.4%)減少しました。HFCs排出量の前年、2013年、2005年からの増加は、オゾン層破壊物質であるハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFCs)からHFCsへの代替に伴い、冷媒分野において排出量が増加したこと等によります。PFCs排出量の前年、2013年からの増加は半導体・液晶製造分野における排出量の増加、2005年からの減少は半導体・液晶製造分野における排出量の減少等によります。SF6排出量の前年からの減少は金属生産における排出量の減少、2013年からの増加は金属生産における排出量の増加、2005年からの減少はSF6の製造時の漏出分野及び半導体・液晶製造分野における排出量の減少等によります。NF3排出量の前年、2013年、2005年からの減少は、NF3製造時の漏出分野において排出量が減少したこと等によります。

4. 吸収源活動の排出・吸収量

わが国は京都議定書に基づく吸収源活動の排出・吸収量についても算定を行い、インベントリの補足情報としてUNFCCC事務局に提出しています。第二約束期間(2013〜2020年度)においては、京都議定書で規定されるすべての吸収源活動(「新規植林・再植林」「森林減少」「森林経営」「農地管理」「牧草地管理」及び「植生回復」)について報告しており、「新規植林・再植林」「森林減少」及び「森林経営」における吸収源活動を「森林吸収源対策」と、「植生回復」における吸収源活動を「都市緑化活動」と呼称しています。

2017年度の吸収源活動の排出・吸収量は5,570万トンの吸収(森林吸収源対策による吸収量4,760万トン、農地管理・牧草地管理・都市緑化等の推進による吸収量810万トン)となっており、2005年度総排出量(13億8,200万トン)の4.0%、2013年度総排出量(14億1,000万トン)の3.9%に相当します。

5. おわりに

2020年以降の地球温暖化防止の国際枠組である「パリ協定」は、産業革命以降の平均気温上昇を2°Cより十分低く抑え、1.5°C未満を目指す努力を追求するという世界共通の長期目標を掲げています。パリ協定には京都議定書のように法的拘束力のある数値目標はなく、各国が自主的に決定する貢献(Nationally Determined Contribution: NDC)を表明し、排出量や目標達成の進捗状況について透明性を担保した形で報告し、世界全体での進捗確認を繰り返すことで排出を削減するという考え方に基づいています。

2018年12月、ポーランド・カトヴィツェにおいて開催されたUNFCCC第24回締約国会議(COP24)では、パリ協定を実施に移すための透明性フレームワークの詳細ルールが採択され、パリ協定締約国は隔年透明性報告書(biennial transparency report)の作成が求められることになりました(最初の提出期限は遅くとも2024年12月末)。また、条約の下で先進国に課されている温室効果ガスインベントリ報告もパリ協定の下でのルールが適用され、その報告書は隔年透明性報告書の一部として報告しても良いこととなりました。

我が国は、パリ協定批准前に「約束草案」として、温室効果ガス排出量を2030年度に2013年度比26%(2005年度比25.4%)削減するという目標を、UNFCCC事務局へ提出しています。この度の算定によると、2017年度の温室効果ガス排出量は四年連続の減少となり、前年(2016年)度比では1.2%、2013年度比では8.4%、2005年度比では6.5%下回りました(図2)。これは、再生可能エネルギーの導入拡大や原子力発電所の再稼働等によるエネルギーの国内供給量に占める非化石燃料の割合の増加、省エネ等によるエネルギー消費量の減少等のため、エネルギー起源のCO2排出量が減少したこと等が要因として挙げられます。そのほか、排出量はさまざまな社会的・経済的要因によって増減します。今後もより正確な温室効果ガス排出量の推計を目指し、算定方法は継続的に改善されることとなっています。

本稿に使用した2017年度の温室効果ガス排出吸収量に関する情報をGIOのウェブサイト〈http://www-gio.nies.go.jp/index-j.html〉にて公開しております。GIOでは、今後もウェブサイトや報告書において、より情報を利用しやすくするなどの公開情報の改善を図っていく予定です。

図2わが国の温室効果ガス排出量(2017年度確報値)

参考文献

脚注

  1. 地球温暖化係数(Global Warming Potentials: GWP):温室効果ガスの温室効果をもたらす程度を、二酸化炭素の温室効果をもたらす程度に対する比で示した係数。2015年提出インベントリよりIPCC第四次評価報告書(2007)のGWP100年値を用いる。CO2 = 1、CH4 = 25、N2O = 298、HFC-134a = 1,430、PFC-14 = 7,390、SF6 = 22,800、NF3 = 17,200などである。
  2. わが国はカンクン合意に基づき、温室効果ガス排出量を2020年度に2005年度比3.8%削減、パリ協定に基づき2030年度に2013年度比26%(2005年度比25.4%)削減の目標を掲げており、これらの削減目標の基準としている2013年度及び2005年度を比較対象としている。なお、インベントリの基準年は1990年度である。
  3. 発電及び熱発生に伴う排出量は、消費量に応じて各最終消費部門及びエネルギー転換部門の消費者に配分している。
  4. 産業部門からの排出量は、製造業、農林水産業、鉱業および建設業におけるエネルギー消費に伴う排出量を表し、第三次産業における排出量は含まない。特殊自動車(ブルドーザー、トラクターなど)は運輸部門ではなく産業部門に含む。
  5. 業務その他部門には、事務所、商業施設等を含む。
  6. ここでいう非エネルギー起源CO2排出量は、工業プロセス及び製品の使用分野、廃棄物分野、その他の排出量を合わせた値である。

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