2019年3月号 [Vol.29 No.12] 通巻第339号 201903_339004

北海道陸別小学校と陸別中学校で出前授業をしました

  • 地球環境研究センター 衛星観測研究室 主任研究員 野田響

1. はじめに

2018年11月8日に、北海道足寄郡陸別町の陸別小学校および陸別中学校において出前授業を行いました。陸別町は「日本一寒い町」として全国的に知られていますが、2018年の秋は全国的に暖かく、授業当日の陸別も11月にしては珍しく雪も積もっていない穏やかな日でした。

陸別町では、ここに観測拠点をおいている国立環境研究所(以下、国環研)、名古屋大学、北海道大学、北見工業大学、国立極地研究所と陸別町とが情報交換や地域振興などを目的に陸別町社会連携連絡協議会を設立しており、その活動の一環として、これらの研究・教育機関が年に一度、陸別小学校・陸別中学校への出前授業を行っています。国環研でも、陸別町の銀河の森天文台に設置した観測拠点で成層圏オゾンや地上到達有害紫外線のモニタリング、さらにフーリエ変換分光計による二酸化炭素およびメタン濃度の観測を行っており、出前授業は陸別町への恩返しのひとつでもあります。私は、前年の2017年に初めてこの出前授業に参加しました。前年の出前授業の折は、中学1年生のクラスを対象に、講師二人で1コマの授業を担当しましたが、今回の出前授業では小学校と中学校のそれぞれ1コマずつを講師一人で担当しました。

2. 陸別小学校での出前授業

陸別小学校での出前授業は、3・4年生、5年生、6年生の3つに分かれ、それぞれで異なる講師が担当しました。私は5年生(15名)のクラスを担当し「地球温暖化を引き起こす二酸化炭素の話」というタイトルで授業を行いました。

地球温暖化問題やその主要因が人間活動により排出された二酸化炭素であるということについては、担当した5年生の生徒たちもテレビなどを通じて既に知っているとのことでしたが、ゲリラ豪雨や大雪、山火事などの最近のニュースを例に挙げながら地球温暖化が社会に与える影響について説明をし、様々な観測で明らかになった過去から現在までの二酸化炭素濃度の変化について話をすると熱心に聞いてくれました。大気中の二酸化炭素濃度は長期的には増加しながらも、1年の中では季節による増減を繰り返します。生徒たちに、「この季節による増減の中で二酸化炭素が減るのはいつか?」そして、「それがなぜ起こるのか?」のふたつの問をクイズとして出したところ、生徒たちは楽しそうに答えてくれました。最初の問の答えが、北半球の夏の間、二番目の答えが、夏の間に植物の活発な光合成活動により二酸化炭素が吸収されるから、です。さらに、陸別町社会連携連絡協議会からは、出前授業では実験などを入れてほしいとの要望がありましたので、授業の後半では「二酸化炭素が海水に溶けるのだろうか?」「二酸化炭素が海水に溶けるとどうなるのだろうか?」ということを知ってもらうための実験を行いました。この実験については過去の出前授業の記事に詳しく書かれていますので、そちらをご参照ください(町田敏暢「北海道の陸別小学校と陸別中学校で出前授業を行いました」地球環境研究センターニュース2015年1月号)。人間活動により排出された二酸化炭素は、近年、そのかなりの量が海水に溶け込んで海洋酸性化を引き起こしていますが、このことは、温暖化に比べると認知度が低いように思います。今回の授業では、まず、生徒自身で小瓶に海水を入れてもらい、ここに1–2滴のBTB溶液(液体の酸性・アルカリ性を調べる溶液)を入れて青色になる様子を見せて、海水が弱アルカリ性であることを示しました。次に、各自で小瓶に息を吹き込んで蓋をして振ってもらい、海水が緑色(中性)から黄色(酸性)に変化する様子を見せました。自分の吹き込んだ息で溶液の色が変わるというのは、生徒たちにとっても楽しい体験だったようです。

写真1陸別小学校での出前授業の様子。熱心に聞いてくれました

3. 陸別中学校での出前授業

小学校での授業を終えると、その30分後には道路を挟んで向かい側の中学校での出前授業を開始しました。陸別中学校では、1年生(13名)のクラスを担当し、物理実験室をお借りして「地球温暖化と植物—人工衛星いぶき・いぶき2号の挑戦—」というタイトルで授業を行いました。

小学校と同様に温暖化と二酸化炭素についての話をしましたが、中学校では植物の光合成との関係を中心に話を進めました。人間活動により排出された二酸化炭素の3割程度は植物の光合成により陸域生態系に取り込まれていると推定されています。光合成による吸収量の大きさを理解してもらうために、ここでも小学校でも出した二酸化炭素濃度の季節的な変動についてクイズを出しました。生徒さんがそれぞれよく考えて答えを出してくれました。さらに、植物の光合成により二酸化炭素を固定して生産される炭水化物は、生態系が人間社会にもたらすあらゆる恩恵の基盤となります。これらを合わせて「植物はえらい」と一言でまとめたところ、生徒の皆さんには好評でした。

日本の人工衛星GOSAT(愛称「いぶき」)は、本来の目的である大気中の二酸化炭素とメタン濃度だけでなく、植物が光合成をする際に発している光であるクロロフィル蛍光を観測できることがいくつかの研究で報告されています。また、GOSATの後継機であるGOSAT-2(「いぶき2号」)では、観測したクロロフィル蛍光のデータを正式に公開する予定です。現在、GOSAT、GOSAT-2により観測されたクロロフィル蛍光から陸域生態系の光合成生産の推定を試みる研究が世界中で進められています。光合成については小学校・中学校の理科で習いますが、クロロフィル蛍光については習う機会もありませんので、実際に実験で植物が発光している様子を見せることにしました。同様の実験は、前年の陸別中学校の出前授業でも行いましたので、実験の詳細については2017年の出前授業についての記事(森野勇・野田響「北海道の陸別中学校で出前授業を行いました」地球環境研究センターニュース2018年3月号)をご参照ください。クロロフィル蛍光の波長付近だけを写すカメラで、実際に生きている植物の葉やサボテンの胴が光っている様子を見せると、生徒の皆さんと教室のすみで見学していた他の出前授業講師の皆さんからどよめきが上がりました。授業の最後に、出前授業の10日前に行われた種子島でのGOSAT-2の打ち上げの動画を見せて締めとしました。

写真2陸別中学校での出前授業の様子。授業開始前から、生徒の皆さんは実験のために教卓の上に準備されていた植物に興味津々でした

4. 今後に向けた反省点

今回の出前授業は、概ね良い反応をもらえましたが、スライドの使い方については工夫が足りなかったと反省しています。研究者は、学会発表などでスライドを使った発表に慣れているため、出前授業でもスライドに頼りがちです。しかし、小学校や中学校の教室で行う出前授業では学会発表のようなプロジェクターや大きなスクリーンが使える環境とは限りません。代わりにTVモニターにパソコンを繋いで、準備したスライドを生徒に見せながら話を進めることになります。今回は小学校、中学校ともに比較的大きなモニターを使わせていただきました。しかし、生徒たちが普段見慣れている黒板の文字に比べると、スライドの文字はとても小さいものとなります。実際、授業後に生徒からもらった授業の感想アンケートの中でも、スライドの文字が小さくて困ったとの意見がありました。この点は、今後に活かしたいと思います。

一方で、アンケートではクイズや実験など、今回の出前授業が面白かったという感想もたくさんいただき、大いに励みになりました。

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