2019年2月号 [Vol.29 No.11] 通巻第338号 201902_338003

パリ協定・SDGs・仙台防災枠組の実現に向けた地球観測を考える —地球観測に関する政府間会合第15回本会合およびその関連会議(GEO WEEK 2018)参加報告—

  • 地球環境研究センター 衛星観測研究室 高度技能専門員 佐伯田鶴
  • 地球環境研究センター 衛星観測研究室 高度技能専門員 奥村典子
  • 地球環境研究センター 陸域モニタリング推進室 高度技能専門員 中田幸美
  • 地球環境研究センター長 三枝信子

1. はじめに

2018年10月29日(月)から11月2日(木)にかけて、京都市・国立京都国際会館にて、地球観測に関する政府間会合(Group on Earth Observations: GEO)第15回本会合及びその関連会議(通称GEO WEEK 2018; http://www.earthobservations.org/geo15.php)が開催されました。国立環境研究所(NIES)は、本会合やサイドイベントに参加するとともに、NIESが実施する地球観測の取り組みを紹介する展示とショートレクチャーを行いました。

GEO(http://www.earthobservations.org/)は、衛星観測、海洋観測及び地上観測を統合した複数の観測システムからなる包括的な全球地球観測システム(Global Earth Observation System of Systems: GEOSS)の構築を推進するための国際的な枠組みであり、2018年11月現在、105の国や地域の政府と127の国際機関が参加しています。第1回GEO本会合が2005年にスイスで開催されて以来、日本での開催は初めてとなります。

会場となった国立京都国際会館は、1997年に国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)が開催され、京都議定書が採択された場でもあります。街中の喧騒を離れて比叡山を望む地に立つ建物は、NIESの建築物と同じく建築家・大谷幸夫氏による設計で、台形やV字を多用した独自の構造が印象的でした(写真1)。

写真1GEO WEEK 2018が開催された国立京都国際会館

2. 本会合とサイドイベントについて

今回の会合では、地球観測がこれから貢献すべき重要な国際枠組として、(1) 持続可能な開発目標(SDGs)、(2) パリ協定、(3) 仙台防災枠組2015-2030が挙げられました。10月31日と11月1日の本会合では、これら3つの優先分野を中心に、GEOが取り組むべき課題がとりあげられ、話題提供やパネルディスカッションが行われました。NIESからは、10月31日の「GEO-XV - Session 3: Earth Observations in Support of the Paris Agreement」のセッションで三枝が登壇し、温室効果ガスの収支に関する陸域の課題について話題提供するとともにパネルディスカッションに参加しました(写真2)。三枝は、東南アジアを例に挙げ、陸域の炭素収支は、土地改変などの人為的擾乱とともにエルニーニョなどの自然現象の影響も受けるため、収支の不確実性が大きいことが課題であると述べ、複数の解析手法を用いて推定した最新の東南アジアの炭素収支を紹介しました。なおGEO本会合の様子は、ほぼ全てライブ中継され、録画もGEOのYouTubeチャンネルで見ることができます(http://www.earthobservations.org/geo15.php?t=recordings(閲覧日 2018年11月30日))。

写真2本会合Session 3のパネルディスカッションの様子(GEO WEEK 2018公式サイトより http://www.earthobservations.org/geo15.php?t=photos(閲覧日 2018年11月30日))

またGEO WEEK 2018では本会合とは別に数々のサイドイベントも行われました。10月30日(火)午前、欧州の統合的炭素循環観測システム(Integrated Carbon Observation System: ICOS)が主催するサイドイベント「Translating the Paris Agreement into observational needs」においては、パリ協定が目標とする長期的な温室効果ガスの削減や気候変動への適応に向けて、地球観測がどのように貢献するか、観測データを用いてどのようなサービスを提供できるかといった課題が話し合われ、三枝は日本の取り組みについて紹介しました。

3. 展示について

今回も2017年(GEO-XIV、米国ワシントンDC)と同じく「Japan GEO」として文部科学省が企画した展示スペースにおいてNIESの展示を行いました。今回は日本での開催とあって、国立の研究開発機関や大学の他、日本の民間企業も多く参加し、Japan GEOは展示会場の中でも大きな面積を占めました(写真3)。日本以外ではEuropean Commission、China GEO、US GEOなどの展示が行われました。

NIESブース(写真4)では、NIESの地球環境モニタリングの紹介ポスター4枚(民間航空機による温室効果ガス観測、日本での温室効果ガスの地上モニタリング、海洋環境や高山での温暖化影響モニタリング、温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)と温室効果ガス観測技術衛星2号(GOSAT-2))を掲示し、航空機による大気観測プロジェクトCONTRAILのステッカーが貼られた日本航空(JAL)航空機の模型、CONTRAILで使用されているCO2濃度連続測定装置、GOSAT-2の小型模型も展示しました。また55インチディスプレイを設置し、CONTRAILの紹介動画およびGOSAT Level 4Bプロダクト(全球CO2濃度および全球CH4濃度)の動画を上映しました。やはり、動きのあるディスプレイの画像や、立体的なJAL航空機模型、メカニカルなCONTRAIL測定装置に目を惹かれて来てくださる人が多かったようです。

写真3展示会場の様子。Japan GEOブースの前で挨拶をするGilberto Camara GEO事務局長(GEO WEEK 2018公式サイトより)

写真4, 5NIES展示の様子(写真上はGEO WEEK 2018公式サイトより)

4. ショートレクチャーについて

Japan GEOの企画の一環として、ランチ休憩の間にショートレクチャーを実施しました。Japan GEO出展機関の中から5機関6名が担当し、それぞれ10分程度の講演を行いました。NIESからは10月31日に佐伯がGOSATとGOSAT-2の紹介を、11月1日に三枝がNIESの地球環境モニタリングの紹介を行いました(写真5)。

写真6, 7GEO WEEK 2018展示会場でのショートレクチャーで、GOSAT-2の打ち上げ成功を報告する佐伯(上)、発表後の質疑応答中の三枝(下)。講演ではJAXAの110インチモニタをお借りしました

5. 10月29日のGOSAT-2打ち上げについて

今回はサイドイベント開催中の10月29日の13時8分にGOSAT-2の打ち上げが予定されていたため、いくつかのサイドイベント会場では、コーディネータの判断でプログラムの進行を一時停止し、打ち上げの直前からライブ映像をスクリーンに映し出しました。11月1日の本会合では、JAXA山川理事長が講演の冒頭で打ち上げの成功を映像とともに報告し、会場からは拍手が沸き起こりました(写真6)。

写真8GEO本会合でGOSAT-2の打ち上げ成功を報告するJAXA山川理事長

6. おわりに

次回GEO本会合の開催地はオーストラリア・キャンベラとなりました。また本会合と共に閣僚級会合(地球観測サミット)も開催される予定であり、2015年のメキシコ以来の閣僚級会合となります。そのメキシコのGEO閣僚級会合の日本政府ステートメントにおいて「打ち上げる」と言及されたGOSAT-2は、今回のGEO WEEK 2018開催中に無事に打ち上がりました。2009年に打ち上げられたGOSATも継続して運用中です。日本が手がけるこれら衛星観測と世界に類を見ない航空機観測やアジアの密な観測網を生かしつつ、地球規模の課題解決に貢献しうる地球観測データの収集・整備・公開と世界との連携に貢献していきたいと思います。

*過去のGEO参加報告の記事は以下からご覧いただけます。

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