2019年2月号 [Vol.29 No.11] 通巻第338号 201902_338002

SDGs・パリ協定・仙台防災枠組に対してGEOSSが貢献するためのアジア太平洋地域間協力の強化 —第11回GEOSS アジア太平洋シンポジウム参加報告—

  • 地球環境研究センター 陸域モニタリング推進室 高度技能専門員 中田幸美
  • 地球環境研究センター長 三枝信子

1. はじめに

地球観測に関する政府間会合(Group on Earth Observations: GEO)は、全球地球観測システム(Global Earth Observation System of Systems: GEOSS)の実現に向けて2018年現在で105カ国の政府および127の国際機関が任意に参加している組織です。アジア太平洋地域(Asia Pacific: AP)でのGEOSS推進に向けた交流・意見交換のために、2007年以降、GEO事務局と日本の文部科学省の主催によりGEOSS アジア太平洋シンポジウム(GEOSS AP Symposium)が開催されてきました。

今回で11回目となるGEOSSアジア太平洋シンポジウムが、2018年10月24日から26日の3日間にわたり京都市にある京都テルサにおいて開催されました。地球環境研究センターからは、三枝信子(地球環境研究センター長)が「GEO炭素・温室効果ガスイニシアチブ」分科会の共同議長を務めたほか、この分科会で町田敏暢(地球環境研究センター大気・海洋モニタリング推進室長)、松永恒雄(国立環境研究所衛星観測センター長)が講演を行いました。本稿では、「GEO炭素・温室効果ガスイニシアチブ」分科会の内容を中心に報告します。

2. シンポジウムの概要(全体会合)

今回のシンポジウムのテーマは「持続可能な開発目標(SDGs)、 パリ協定および仙台防災枠組2015-2030[1]に対してGEOSSが貢献するためのアジア太平洋地域間協力の強化」です。アジア・オセアニア諸国を中心に世界各国より総勢171名が参加し、全体会合・分科会・パネルディスカッション等が行われました。

初日午前の全体会合では、文部科学省の岡村直子審議官による歓迎と開会の挨拶から始まり、松尾隆氏(アジア開発銀行駐日代表事務所 駐日代表)による基調講演、アジア・オセアニアGEOSSイニシアチブ(AOGEOSS)が推進するメコン川流域プロジェクトの事例紹介、続けて各課題・分野を横断したパネルディスカッションが行われました。

初日の午後と二日目には分科会が持たれました。今回は、AOGEOSSの12のタスクグループ(TG)のうち、5つのタスクについて議論が行われました。

TG1:水問題に係る「アジア水循環イニシアチブ(GEOSS Asian Water Cycle Initiative)」、

TG2:生物多様性のモニタリングに取り組む「アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(AP Biodiversity Observation Network)」、

TG3:地球規模の温室効果ガス循環の把握と排出量削減施策の効果を監視する「炭素・温室効果ガスイニシアチブ(GEO Carbon and GHG Initiative)」、

TG4&8:海洋におけるタスク2つを今回は1つのグループとした「アジア太平洋地域の海洋・沿岸・島嶼観測(Ocean, Coasts, and Islands Observations for AO Region / Ocean and Society)」、

TG5:農業・食料安全保障に関連する「アジア稲作監視(Asia-RiCE and Environmental Monitoring and Protection)」。

最終日は全体会合となり、各分科会で展開された課題解決のための議論の結果報告がなされました。そして村岡裕由氏(岐阜大学)がモデレーター、各分科会の代表者をパネリストとするパネルディスカッションが行われました。

最後にGEOSSの取り組みとして大きな5本柱の課題解決・達成に貢献していくことを掲げた「京都宣言2018」[2]を採択し、閉会しました。

  • (1) 2030年に向けた持続可能な開発にとっての行動計画(2030 Agenda for Sustainable Development)
  • (2) 国連気候変動枠組条約におけるパリ協定について(Paris Climate Agreement within the UNFCCC)
  • (3) 災害リスク軽減のための仙台防災枠組(Sendai Framework for Disaster Risk Reduction)
  • (4) メコン川流域における新たな事例 (Emerging Case Study for Mekong River basin)
  • (5) 分野横断的な議題 (Cross Cutting Topics)

3. GEO炭素・温室効果ガスイニシアチブ分科会

はじめに、共同議長であるYi Liu氏(中国科学院大気物理研究所)と三枝信子より、開会挨拶とGEO炭素・温室効果ガスイニシアチブ分科会の趣旨について説明がなされました。続いて、GEO炭素・温室効果ガスイニシアチブ運営委員会の委員長であるHan Dolman氏がインターネットを通して会議に参加し、イニシアチブの現況と課題を発表しました。

写真1分科会の趣旨について説明する三枝信子

次に、日本と中国から、人工衛星による大気中温室効果ガスの観測について最近の進捗が発表されました。まず、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の久世暁彦氏から温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による9年に及ぶ観測の結果と、その後継となる「いぶき2号」(GOSAT-2)の計画について講演がありました。続いて、Yi Liu氏より、中国による二酸化炭素観測衛星「TanSat」の現状について報告がありました。

また、当センターの町田敏暢は、民間航空機による大気中の温室効果ガスを観測するプロジェクト「CONTRAIL(コントレイル)」における最近の進展と成果を報告しました。CONTRAILでは民間航空会社の協力を得て観測の充実が進み、世界各地における温室効果ガスの鉛直構造が極めて明瞭に把握できるようになったことから貴重な知見が蓄積されていることに多くの関心が集まり、参加者を交えて活発な意見交換と議論がなされました。

写真2町田敏暢による民間航空機を利用した温室効果ガス観測プロジェクトの紹介

その後、日本の海洋研究開発機構(JAMSTEC)とインド国立海洋研究所から、海洋の炭素循環を把握するための観測の成果が報告されました。続いて陸域の炭素収支の観測ネットワークや広域評価の事例について、中国南京大学、インド熱帯気象研究所から最新の成果が紹介されました。ここで、国立環境研究所の連携研究グループ長でもある市井和仁氏(千葉大学)は、AsiaFlux観測ネットワークとリモートセンシングデータを用いたアジア陸域における二酸化炭素収支の推測について発表しました。機械学習等のモデル解析に基づく広域評価の精度を上げるためには、モデルに与える観測データの量を増やしていかなければならないが、現状では観測データの公開がまだ不十分であり、各国研究者からより多くのデータを提供してもらうことが重要であると説きました。さらに、インドネシア泥炭復興庁から全球の炭素収支にも大きな影響を与えるインドネシア泥炭火災の現状とその防止に関わる取組について、そして全球温室効果ガスの収支を推定するための大気輸送モデルとインバース解析に基づく最新の結果がJAMSTECから紹介されました。

分科会最後のセッションでは、農業に関するGEOのイニシアチブの一つである全球農業モニタリング(GEOGLAM)とその活動の一つであるアジア稲作監視(Asia-RiCE)について、Asia-RiCEの代表者から報告があり、併せて東京大学から、稲の成長に伴い適切に水田の水深を調節することにより、アジアの水田からのメタンの放出量を抑えることのできる緩和策とその効果の評価を行う研究が紹介されました。続いて松永恒雄(国立環境研究所)は、温室効果ガス排出量の評価と改善のための温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)のデータ利用に関する最近の活動を紹介しました。特に、衛星観測等のデータを用いて温室効果ガスの人為起源排出量を推定する手法とその最近の進展について記したガイドブックの出版について発表があり、衛星データの活用法の拡大について関心が集まりました。また、この日は「いぶき2号」(GOSAT-2)の打ち上げ日が近いということもあり、長期観測を実現している「いぶき」に続き、更に高精度化された「いぶき2号」の打ち上げへの期待が強く感じられました。(※「いぶき2号」は、10月29日にJAXA種子島宇宙センターよりH-IIAロケットにより無事打ち上げられました。)

続いて、欧州の統合的炭素循環観測システム(Integrated Carbon Observation System: ICOS)の取組と、世界気象機関(World Meteorological Organization: WMO)が推進する “Integrated Global GHG Information System (IG3IS)” より、温室効果ガスの地上観測から衛星観測までのさまざまな観測を統合し、そのデータを用いて欧州や世界の炭素収支を評価する手法、大都市等からの人為起源排出量をモニタリングする手法等について紹介がありました。

分科会の最後に、GEO炭素・温室効果ガスイニシアチブの今後の計画について討論が行われ、大きく3つの課題が絞り込まれました。

第一に、技術的な課題として、現場観測、モデル、衛星観測などの手法をさらに改良するには何が必要か。第二に、データ統合の課題として、陸・海・大気等の観測データとモデルをどのように統合的に利用すべきか。第三に、コミュニケーションの課題として、ステークホルダーや政策立案者の要望に適切に対応する上で、正確なデータと科学的知見を提供できているだろうか。これら3点についての問題を明確にし、課題を解決していくことができるよう、引き続き地球観測の活動と研究を進めていくことが確認されました。

写真3第3分科会の参加者

4. おわりに

本シンポジウムの中でSDGsやパリ協定が議論されるのは勿論のことながら、仙台防災枠組についても課題とされ、自然災害だけでなく、水の過剰利用に伴う干ばつや、脆弱な治水対策による洪水被害の拡大といった人為的要因による災害、および将来の気候変動リスクについても、地球観測システムを連携させて貢献していく必要があることを改めて認識しました。今後ますます、アジア太平洋地域において地域間協力が強化されていくことを願うばかりです。

次回の第12回GEOSSアジア太平洋シンポジウムは2019年11月にオーストラリアのキャンベラで開催される予定です。

脚注

  1. 仙台防災枠組2015–2030
    2015年3月に仙台市で開催された「第3回国連防災世界会議」で採択された成果文書のことです。「兵庫行動枠組2005-2015」を発展させ、2030年までの15年間におよぶ国際的な防災枠組を策定することが主な目的です。成果文書では、4つの優先行動と、7つのターゲットが合意されました。
    出典:https://jcc-drr.net/projects/sendai-framework/
    https://jcc-drr.net/wpJD/wp-content/uploads/2017/05/SFDRR_2a_2018.pdf
    また、仙台市はこの枠組の採択都市として、ライフライン・インフラ等のハード面の整備は勿論のこと、子供から高齢者、女性・障害者らも含めた多様な市民が主体となる防災・減災の強化を図っています。
    出典:https://sendai-resilience.jp/sfdrr/
  2. 京都宣言2018
    https://geoss-ap-symp11.org/_public/Kyoto_Statement_2018_Final.pdf

*過去のGEOSS AP Symposium参加報告の記事は以下からご覧いただけます。

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