2018年10月号 [Vol.29 No.7] 通巻第334号 201810_334004

地球温暖化防止展に行ってみた (1) —暑い夏の対策技術のいくつかの紹介—

  • 企画部 フェロー(前地球環境研究センター長) 向井人史
  • 地球環境研究センター 炭素循環研究室 高度技能専門員 木村裕子

2018年5月22日(火)〜25日(金)の4日間、東京ビックサイト(東京都江東区有明)にて開催された「2018NEW環境展/2018地球温暖化防止展」を見学してきました。この環境展は環境に関わる技術のショーケースとして、全国各地から622の企業が集まってその技術の紹介がされています。地球温暖化関連では、省エネルギーや再生可能エネルギー、ヒートアイランド対策技術、二酸化炭素(CO2)排出削減技術の活用などの取り組み、資源有効利用、多様な新エネルギーの活用など、様々な環境技術・サービスの展示・情報発信を行っていました。たくさんの展示があり大変興味深かったので、今回は主に地球温暖化に関する企業活動について、個人的にいくつか気になった技術分野を紹介したいと思います。

最初に、今年も暑かったのですが、その暑さ対策としての遮熱技術についてレポートしてみたいと思います。これらは、温暖化に対する「適応技術」の分類になると思われます。今後、温暖化の進行により、熱中症のリスクや冷房にかかるエネルギーの増加が懸念さることに対応し、工場や野外で風とミストによる気温や体感温度を低減する技術や屋根や窓からの太陽熱の遮断による暑さ対策技術が展示されていました。

1. 送風、冷風、ドライ型ミスト

会場に入ると、天井に大きなファンが回っているのが目につきました。これは、ホテルや事業所などの人が集まる場所で使用できる天井設置の大きなファンです。その直径は5m程度あり、これがゆっくり回って直下に風を送ります。通常の家庭用のシーリングファンや扇風機とは比べものにならない巨大なものでした。しかし、音も静かで風は心地よく降りてきます。そのため、少々風がきても困らない場所なら温度を下げるための有効な手段になるでしょう。すでにスポーツ施設、工場、商業施設、畜産施設等に設置しているところもあるようです。

それから、工場用の巨大送風機やミストを出しながら空気を送るタイプの巨大扇風機の展示も多く、各メーカーがしのぎを削っている様子でした。ミストが出るタイプはミストの蒸発により少し空気温度を下げることができるので、屋外はもとより、工場内や動物飼育舎など、暑さの低減を比較的大きな空間で行いたい場合有効な技術です。多くの場合、温度降下は3°C程度となることが多いと報告されています(文献1、2)。畜産業では、今後の温暖化により牛乳や卵の生産量への悪影響を防ぐために飼育室内の温度管理が課題となっているので、こういった方法の利用が検討されています。

実は、ドライミスト®というものは日本で最初に2005年の愛・地球博(愛知万博)で登場しました。エアコンより省エネで空間を冷やす方法として当時名古屋大学の辻本誠教授(後に東京理科大学)を中心に企画され複数の企業体のコンソーシアムとして開発されたものです(http://www.expo2005.or.jp/jp/E0/E3/eco_018.html)。ドライミスト®は、濡れないというだけでなくミストサイズをかなり小さく(平均粒径16ミクロン程度)そろえて早い蒸散効果や必要なエネルギーや水量を少なくする省エネ効果を上げているとされています。その後もこのミスト利用は発展してきているようですが、使う用途や作成方法により、水滴サイズや発生量もかなり異なるようです。展示されていたものは、産業で使用するための巨大な装置が多く圧巻でした。

ミストは出ないけれど、水の蒸発を利用して温度を下げるタイプの冷風扇も展示されており、これも各種のメーカーごとのこだわりがあるようです。気化熱を利用しているので、湿度が高いことを嫌う場合や、湿度が上がってしまうような閉鎖系での効果は少ないかもしれませんが、省エネルギーの大容量の空気冷却装置として、比較的開放的な場所や大きな工場等の施設内での使用が有効と思われる技術です。

写真1ミスト送風装置(ニオイックス(株))

写真2[左] 冷風扇(フナボリ(株))、[中・右] 冷風扇(静岡製機(株);前後の温度差を示す(中)。気化熱を奪うための水の流れる構造体(右))

2. ガラスの遮熱技術

もう一つ興味深かったのは、夏に窓ガラスから入ってくる太陽熱を削減するという遮熱技術です。最近の自動車の窓にも、そのような高機能なガラスが徐々に導入されているケースもありますが、展示されていた多くのものは、すでにある住宅やオフィスのガラスに適用できる技術です。通常のガラスは、可視光線はもちろん、一部の紫外線から、赤外線まで多くの波長を通過させてしまいますが、出展されていたガラスの遮熱技術の多くは太陽光の可視光線を透過させ紫外線、赤外線部分を反射または吸収させることにより、入射する日射による日焼けや暑さを削減するものです。特に夏の日差しのことだけを考えればいい場合は、従来の窓ガラスにこのような赤外線を遮断する効果を持つ塗料を塗ったり、赤外線を遮断する特殊加工したフィルムを張り付けたりすることで遮熱が実現できます。環境省では、そういった技術の評価などを行っており、多くのメーカーの技術をweb上で見ることができます(例えば、環境省ETV事業参照 http://www.env.go.jp/policy/etv/field/f05/p3.html)。

写真3赤外線遮断機能のある塗装の効果の表示と窓用フィルム(ゼロコン(株))

展示場で見せていただいたのは、ZEROCOAT®という商品ですが、これは赤外線を吸収するタイプの遮熱用塗料やシートです。同じランプの下で、遮蔽のコーティングを施したガラスと通常のガラスでの直下の温度の差を比べています。片方は55.2°Cまで上がっていますが、赤外線を遮断した側は42.6°Cと10°C以上の差がついています。

街でよくみかけるハーフミラーになっている(マジックミラーになる)タイプのものもありますが、その場合可視光も半分程度遮断してしまうので室内側が暗くなりがちです。しかしここで紹介されている多くのフィルムや塗料は可視光線領域の光を70%以上通すため通常のガラスと大差なく感じられます。(ちなみに車のフロントガラスに適用する場合も70%以上の可視光の透過率が必要です。)たまたま、私のオフィスで使われている窓の遮蔽コーティングはハーフミラータイプなので、夜になるとオフィス内の窓全部が鏡のようになってしまい、少し心持ちが悪いということを経験していますが、可視光を通すタイプのものはそういうことはありません。さらにこのコーティングにより紫外線もカットされるので、日焼けや防止にもなり目にも優しいといった効果もあります。

窓の赤外線カットに関しては、通常エコガラス(http://www.ecoglass.jp/s_about/lineup.html)と称してペアになっているガラスがすでに販売されていますが、今回展示されていたのは後付けでガラスが二重にできるというものです。通常の窓の内側にもう一枚上記のような赤外線を遮断する効果(多くは反射)のあるガラスを取り付け、ペアガラスとするという商品です(http://www.env.go.jp/policy/etv/pdf/list/h25/051-1315b.pdf)。二重のガラスの間にアルゴンなど熱を伝えにくいガスを封入することでさらに断熱性能を上げることができます。二重化の良いところは、赤外線を外から入れないようにすることに加えて、室内の熱を逃がさないようになるため冬の保温効果や結露防止にも大きな力が期待できる点です。

このほか、赤外線の反射方向に関して工夫された技術も最近出てきています。具体的には入ってくる赤外線の反射する方向を上向きにする工夫をしたものです。通常、赤外線を反射する処理をしたビルの窓は、上からやってくる太陽光線を下方へ反射して、直下の道路などが熱くなってしまいますが、それを上方へ反射することによって熱を逃がしてあげるという技術です(熱線再帰フィルム、http://www.dexerials.jp/news/2017/news17012.html)。

これらは、用途に応じて使用することで、室内の暑さ対策や省エネルギーの両方に対応することができると考えられます。

図1熱を入ってくる方向(主に上方向)に戻すイメージ

3. 服の中でも涼しく

野外で働く人を涼しくする服も展示されていました。建設現場から熱中症による病院への搬送者数が多いことが知られていますが、最近は、空調服®((株)セフト研究所・(株)空調服 https://www.9229.co.jp/about/about_index)といって背面の両脇にファンがついていて衣類の内側に空気を送り涼しくする作業着やファン付きのヘルメットなども使用されるようになってきました(建設現場における熱中症対策事例集 - 国土交通省 http://www.mlit.go.jp/tec/sekisan/sekou/pdf/290331jireisyuu.pdf)。建設業者の中では、作業者にこういった対策服の導入を支援しているケースもあります。こういった作業服の効果は大きいと思われる一方で、外気の温度が非常に高いケースや湿度が高いケースでは、その限界もあることも重要なポイントです。

下記の例ではさらなるパーソナルな冷却グッズとして、背負うタイプの冷風発生装置によって体やヘルメット内を冷やすといったものも展示されていました((株)金星 https://www.kinboshi-inc.co.jp/product_netu.php)。

写真4背負うタイプの冷風発生装置((株)金星)

将来、気温上昇が進み、野外での作業をする場合に熱中症のリスクがますます高くなると考えられています。それらに適応するためには、こういった服装に対する対策の他、高温への順化期間を設けるとか、適当な間隔での水分塩分補給、涼しい場所での休憩など労働環境の改善が重要と考えられています(厚生労働省熱中症対策に関する検討会、澤田晋一、職場の熱中症予防対策の現状と課題 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002f13d-att/2r9852000002f1n1.pdf)。

今年は格別に暑い日が多かったせいか、消防庁の発表では7月の熱中症による救急搬送の人数(54,220人)は昨年の7月(26,702人)比べて非常に多かったとされています(消防庁 8月22日 平成30年7月の熱中症による救急搬送状況 http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h30/08/300822_houdou_1.pdf)。中でも高齢者が半数程度で最も多いとされています。最近の消防庁のデータから、7月1日〜8月26日までのデータを熱中症が起こっている場所ごとにグラフにしてみると、意外に住居内で発生率が最も高いことがわかります(41%前後)。これは高齢者によるものが多いと考えられています。また屋内でも劇場、コンサート会場、飲食店、病院、公衆浴場なども合わせると9%前後となっており、教育機関(7%)も考慮すると半数程度は屋内で熱中症が起こっています。野外としては一般道路上で起こっているケースが13%、屋外のコンサート会場、競技場、駐車場などで起こっているケースが13%だったとしています。一方で、仕事場として、道路工事や工場に加えて農業、畜産、水産業などを含むケースは13%程度とされています。

図27月1日〜8月26日までの熱中症で救急搬送された人(74,466名)の発生場所ごとの割合(消防庁データからグラフ化)

気象庁データによると下図のように日本における35°C以上の猛暑日の数は増える傾向にあります。今後どのように猛暑日等が推移するかは、温室効果ガス排出削減がどのように行われるかが大きな鍵を握っています。従って、省エネルギー技術を生かすことによる緩和策への貢献や暑さ対策の適応技術への貢献は今後ますます重要になると思われます。(次号へ続く)

図3 全国の日最高気温35°C以上(猛暑日)の年間日数の経年変化(1931〜2017年)(全国13地点における平均で1地点あたりの各年の年間日数を示す値)(気象庁データ、http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html

参考文献

  1. 尹 奎英, 山田 英貴, 奥宮 正哉, 辻本 誠, ドライミスト冷却効果の検証とCFD解析, 日本建築学会環境系論文集, 2008, 73 巻, 633 号, p. 1313-1320, https://doi.org/10.3130/aije.73.1313
  2. CRAIG FARNHAM, 水野 毅男, ミストファンを使用し室内冷却するシステムの効果, 空気調和・衛生工学会大会 学術講演論文集, 2016, 2016.3 巻, https://doi.org/10.18948/shasetaikai.2016.3.0_445

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