2018年10月号 [Vol.29 No.7] 通巻第334号 201810_334001

アジアからの排出量算定の精度向上に向けて 「第16回アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ」(WGIA16)の報告

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス(GIO) 高度技能専門員 伊藤洋

1. はじめに

2018年7月10日から13日の4日間にわたり、インド・ニューデリーにおいてインド環境森林気候変動省(MoEFCC)とともに、第16回アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(WGIA16)を開催しました。WGIA16には、メンバー15か国(ブルネイ、カンボジア、中国、インド、インドネシア、韓国、ラオス、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムおよび日本)から温室効果ガスインベントリ(以下、インベントリ)に関連する政策決定者、編纂者および研究者が参加し、気候変動に関する政府間パネル・インベントリタスクフォース(IPCC TFI)等の国際および海外関係機関からの参加もあり、総勢116名による活発な議論が行われました。

環境省と国立環境研究所は、気候変動政策に関する日本の途上国支援活動の一つとして、2003年度から毎年度、アジア地域諸国のインベントリの作成能力向上に資することを目的とした本ワークショップを開催しています。温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)は2003年度の初回会合から事務局として、気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国会議(COP)決定等の国際的な課題および参加者のニーズを踏まえた議題設定、発表者の選定、参加者の招聘といったワークショップの企画および運営にあたっています。なお、2008年度に開催されたWGIA6からは「測定・報告・検証(MRV)可能な温室効果ガス排出削減活動」に関する途上国の能力向上支援としても位置付けられています。

自国の温室効果ガス(GHG)排出吸収量及び気候変動対策に関する情報を適時に把握・報告することは、適切な削減策の策定などのために重要です。このことから、途上国が隔年更新報告書(BUR)を2年に一度の頻度でCOPに提出することが2011年、ダーバンで開催されたCOP17の下で義務づけられています。また、2015年末のCOP21において採択されたパリ協定において、GHG排出量の透明性の向上がすべての締約国に求められています。

2. WGIA16の概要と結果

今回のプログラムは、1日目午前は、2か国でセクターごとにペアを組み、それぞれのインベントリ担当者同士が、互いのインベントリを詳細に学習し、意見交換を行う相互学習、午後は、インベントリ作成用のソフトウェアのハンズオントレーニング、2日目は、国別報告書(NC)やBURの報告状況の紹介などの話題を扱う全体会合、3日目は、全体会合と最新の知見の紹介を行うポスターセッション、最後に議論の結果をとりまとめるという構成としました。

(1) 相互学習

相互学習は、GIOが中心となり各分野の組み合わせを行い、参加国のインベントリ担当者同士が2か月余りの時間をかけて互いのインベントリやその作成に係る国内体制の整備について交換した資料をもとにメールで質疑応答を行ったうえで、当日の議論に臨みます。

今次会合では、エネルギー分野(インド-ベトナム)、廃棄物分野(ラオス-日本)で実施しました。参加各国とも最新のIPCCガイドラインにある方法論を取り入れつつ、インベントリを継続的に改善していました。相手国が採用した方法論に加え、データ収集や品質管理・品質保証を含む国内体制の改善状況を深く学習することで、各国は自らのインベントリの改善への参考としました。

写真2ラオスと日本で実施した廃棄物分野の相互学習の様子

(2) ハンズオントレーニング

IPCC TFIにより、インベントリソフトウェアの使用方法が紹介され、農業分野、Fガス(HFCs、PFCs、SF6等)分野の具体的な算定手順のトレーニングが行われました。

(3) 全体会合

2日目冒頭、MoEFCC、日本国環境省による挨拶の後、GIOよりWGIAの概要説明を行いました。続いて、インドよりBURの概要について報告され、多くのカテゴリーで2006年IPCCガイドラインを自主的に使用しインベントリを作成したことが説明されました。その後、日本国環境省より東日本大震災後の日本の気候変動政策とその進捗状況について、概要説明が行われました。次にMoEFCC事務次官補、在インド日本国大使館臨時代理大使、MoEFCC森林局長に続いて、インド環境森林気候変動大臣よりそれぞれ演説がありました。

写真2全体会合の様子

続いて、モンゴル、パプアニューギニア、韓国からNCとBURの紹介が行われ、各国の最新の基礎情報や排出量、緩和策等が報告されました。また、日本からパリ協定における透明性枠組みに関する国際交渉の進捗状況等の報告がありました。BURやパリ協定における透明性枠組みに関する情報交換の重要性が確認され、国際的協議・分析(ICA)の技術分析(TA)の経験が次回提出に向けた改善点の把握に役立つという認識が共有されました。

次にGIOからモントリオール議定書のキガリ改正[注]の概要、WGIA参加国のFガス排出量の報告状況が紹介され、タイ、マレーシア、シンガポールからは各国のFガスの算定・排出状況が報告されました。キガリ改正の発効に伴いHFCsがモントリオール議定書の規制対象となったことから、フロン類の専門家との更なる協働、HFCsの生産・消費量と排出量との数値に一貫性を確保することの重要性が確認されました。

さらに、ブータンから国内体制、インドネシア、韓国、日本国林野庁からそれぞれ全分野、エネルギー分野、森林分野のデータ収集システムが紹介されました。データ収集のための制度や手法の精度改善の重要性が確認され、データ収集手法の改善に品質保証・品質管理体制の継続性が必要であることが示されました。

3日目、IPCC TFIより2006年IPCCガイドラインの改良に関する最近の動向等、オーストラリアよりインベントリ作成等の国内体制、国立環境研究所より運輸部門における温室効果ガスと大気汚染物質の将来予測及びインベントリの改善の重要性が紹介されました。続いて、国立環境研究所より衛星観測によるインベントリの評価のためのガイドブック、国立極地研究所よりブラックカーボンの新しい観測手法等が紹介されました。インベントリ編纂者が関連情報に関する科学的な知識を有しておくことの重要性が認識され、また、編纂者は科学からのインプットを待つだけでなく、どう科学の進展に貢献できるかを考えることが大切であると確認されました。

(4) ポスターセッション

口頭発表で発表しきれない最新の研究内容や刷新された国内体制をWGIA内で情報共有するため、ポスターセッションを実施しました。参加者同士が一対一で会話する中で国内体制構築における裏話など率直で詳細な情報を交換することができました。

(5) まとめ

今次会合では、統計システム等の基礎的な背景情報に加え、一次統計の構築と改善がインベントリの精度改善に重要であることや、ICAの経験がインベントリを含むBURの透明性を高めるという認識が共有され、各国の今後の活動に有益な情報が提供されました。また、主要な温室効果ガスの一つであるFガスの排出量を算定・報告することの重要性について認識が共有され、インベントリの精度改善は各国のNDCの策定や評価にとっても重要であることが確認されました。

3. 次回会合について

今後、パリ協定における透明性枠組みに関する実施指針が策定されることや2006年IPCCガイドラインが改良されることを踏まえて、WGIA参加国が提出するBUR及びその国内体制について引き続き相互学習等を進めることや、BURとそれに含まれるインベントリ等について、各国がよりインベントリ等の精度を高められるようWGIAを継続、発展させていく方向性等が確認されました。来年度の第17回会合(WGIA17)はシンガポールで開催調整中です。

4. おわりに

冒頭、インド環境森林気候変動大臣からの挨拶のなかで、排出量の算定や、どれだけ排出削減されたのかという議論の背景にはこういった地道な作業があることを今回のワークショップで理解し、ついてはWGIAの参加者、とりわけ日本に賛辞を贈りたいとの言葉をいただきました。さらに日本がこういったワークショップを開催するイニシアチブを早くからとっていたことについても、称賛の言葉を頂戴しました。また、相互学習は十分な時間と手間をかけているからこそ、自国や他国の状況を理解する良いきっかけになり、インベントリの改善につながっていると評価され、引き続きの開催を求められています。より透明で正確なインベントリを作成する能力構築を支援するため、今後もWGIAに取り組んでまいります。

第1回からの報告はhttp://www-gio.nies.go.jp/wgia/wgiaindex-j.htmlに掲載しています。WGIA16の詳細も、同Webサイトで公開される予定です。また、今会合の開催について報道発表を行いました。http://www.nies.go.jp/whatsnew/20180719/20180719.htmlもご覧ください。

脚注

  • キガリ改正: 地球温暖化対策の観点から、モントリオール議定書に新たに代替フロンを規制対象とする改正。2016年10月にルワンダ・キガリで開催されたMOP28(第28回締約国会合)で採択された。

略語一覧

  • インド環境森林気候変動省(Ministry of Environment, Forest and Climate Change: MoEFCC)
  • アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(Workshop on Greenhouse Gas Inventories in Asia: WGIA)
  • 気候変動に関する政府間パネル・インベントリタスクフォース(IPCC Task Force on National Greenhouse Gas Inventories:IPCC TFI)
  • 温室効果ガスインベントリオフィス(Greenhouse Gas Inventory Office of Japan: GIO)
  • 国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change:UNFCCC)
  • 締約国会議(Conference of the Parties:COP)
  • 測定・報告・検証(Measurement, Reporting and Verification:MRV)
  • 温室効果ガス(Greenhouse gas: GHG)
  • 隔年更新報告書(Biennial Update Report:BUR)
  • 国別報告書(National Communication: NC)
  • 国際協議・分析(International Consultation and Analysis: ICA)
  • 技術分析(Technical Analysis: TA)
  • 自国で決定した貢献(Nationally Determined Contribution: NDC)

インドにおける再生可能エネルギーの取り組み

地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス(GIO) 高度技能専門員 池田直子

地球温暖化が背景にある自然災害が多発している現在において、経済成長とCO2削減の両立は世界各国の政府の政策課題となっており、途上国においても目を瞑っていられない問題となってきました。

インド政府も、政策の一端として再生可能エネルギーに力を入れています。インドのモディ首相は2015年、太陽光の利用を劇的に拡大させることを目的として、先進国から途上国まで日照量の多い121カ国・地域が太陽光発電の推進を目指す「International Solar Alliance(国際ソーラーアライアンス)」を発足させました。

我々はワークショップの最終日、この国際ソーラーアライアンスの事務局が現在置かれているデリー郊外にあるNISE(National Institute of Solar Energy)を訪れました。約半日間のプログラムという限られた時間の中、ワークショップの参加者の多くが、このスタディツアーにも参加しました。

国を挙げてのソーラー政策とあって、200エーカー(約81ha = 東京ドーム約17個分)の土地を利用して太陽熱を利用した大小さまざまなシステムや試験施設がありました。広大な土地を利用してソーラーパネルやリフレクターが見渡す限り並んでいる景観は圧巻でした。

ソーラーリフレクター

施設見学の前にNISE所長から施設についての説明があり、この太陽光発電の際に余った熱を回収して再利用することでCO2をさらに削減できると紹介していました。この技術は先進国が開発し、途上国に提供したことで可能となったということにも触れていました。

先進国と途上国が協力し合って地球温暖化の対策を進めていくことの重要性を改めて考えさせられたスタディツアーとなりました。

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